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『誕生日(仮題)』


何かが変わる瞬間というのがある。
何も変わっていないのだけど、己の中で何かが変わる瞬間というのが人生にはある。
それは夜の海岸だったり、毎年藐視びょうししていた何でもない誕生日だったりする。
「アホがアホです言うとるわ」
消魂けたたましいバイク音に嫌ごとを吐いて、私は今日歳を取った。
節目でもない、言うに足らない歳である。

もっともらしいハイライトでえば、午餉ごしょうに食べたプティアグールが美味しかった。
天使の羽のよう、とありがちな譬喩ひゆをした。

それなりに恥の多い生涯だったと粋がりながら、今日の私は銀河の輪郭にすら触れていない。
手元のネイルアートには夏の大三角をあしらっているのに私は銀河を視たことがない。
恐らく一瞥もなく死んでく。
悲願は叶わぬ。
れど、或いはその瞬間、
溽暑じょくしょの中、文学の中だとよろこばしい。

今は未だ、筆をく時間だ。
またプティアグールが食べたい。
出来れば、ママレードを載せて。


以上。
六月某日。溽暑。

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