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短編小説|姉と弟とバースデイケーキ

『今から行くから私の誕生日を祝いなさい』
 姉からとんでもないメッセージがきた。しかも、それを読んだ頃を見計らったかのようにインターホンが鳴り響いた。さてはアパートの前で送ったな、この人。
 僕がドアを開けに行くまでもなく、ガチャリと鍵の開く音がした。合鍵を渡してあるので、出入りは自由だがせめてインターホンを鳴らしたなら家主が開けるまで待っていて欲しいものである。追い返さないから、たぶん。
「お姉様が来てあげたわよ! 喜びなさい、弟」
「はいはい。わーい、ようこそ姉貴」
「そこはお姉様って言いなさいよ」
 彼女の手には僕でも店名が印字された紙袋がある。その中身は、間違いなくケーキだろう。他人の話など聞いているようで、姉は流している。僕の小言なんて対して響いてないらしい。紙袋から箱を取り出し、机の上でひろげて見せた。中にはショートケーキがホールで入っていた。
「姉貴、今日彼氏に祝ってもらうって言ってなかったっけ」
 日付が変わった時に「おめでとう」とコーヒーショップのデジタルチケットを送ったのだが、その時に彼氏とお祝いするのだと大量のハート絵文字を飛ばして語っていた。その姉が今、ホールケーキを持って僕の家にいるという事は。
「別れたのよ! アイツ私の誕生日に浮気相手連れ込みやがって! 挙句に『みんなでケーキ食べる?』とか言うから合鍵と指輪叩きつけて別れてやったわよ!」
 姉はダメな男を引き寄せる星の元に生まれているらしい。何人も付き合った男の話を聞くが、まともな男が一人もいない。
「まあまあ。とりあえず、そのケーキ食べようよ」
 ケーキを適当に切り分けて、用意した皿の上に乗せる。
 こうして姉の別れ話を聞きながらケーキを食べるたびに思うのだ。
 僕にしなよ、と。
 決して口にはできない。同じ人生を五度繰り返した身としては、僕と姉が添い遂げても幸せにしてあげられなかったから。
 だから僕は姉が幸せになる日を願いながら、今日も愚痴を聞いてケーキを食べるしかないのだ。

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