短編小説|二度目の人生は甘党男子
二度目の人生は好きな物を食べてやる。交通事故で意識が遠のく中、俺はそう心に誓った。
前世は、親が子供の管理をしたがる家だった。その上、男が甘い物を食べる事は許されない。GPSをつけられているから買い食いもできないし、付き合う友達も管理された。大人になってから後々影響が出たのはいうまでもない。
だから、二度目の人生を歩めるのなら好きな物を食べようと思ったのだ。幸運な事に前世の記憶を持ったまま二度目の人生がやってきたのだ。両親は良い意味で放任主義のため、歳を重ねていくごとに自由にできる事が増えていくのはとても楽しかった。
何より、何を食べても怒られないというのが一番いい。今生では前世ではほとんど口にできなかった甘い物を好きなだけ食べる事ができる。
週に一度、スイーツバイキングに通っているのだが、今日はなんと『男性限定半額デー』である。
学校が終わって速攻で、店に向かう。すると、店のあたりを強面の学生が遠目からジッと見つめているのが見えた。オールバックの金髪で同じ学校の制服となると、同学年で有名な不良の虎峯くんだろう。手にこの店の割引チケットが握られている。
ピコーン、と閃く。
もしかして、虎峯くんは入りたくても入りにくいのでは。前世と合わせて三十歳を過ぎた厄介なオジサンが自分の中で顔を出す。
「虎峯くん、どうしたん? 入らんの?」
答えを聞かないまま手を引いて入店する。後ろからはドスの聞いた「は?」という声が聞こえたが無視だ、無視。
店員に案内された席に腰を下ろすと、「おい」と低い声が鳴り響いて思わず冷や汗が流れる。
「おれ、竹橋。虎峯くん甘いの好きじゃなかったらごめんな。男一人で入りずらいから強引に誘ってしまったんよ」
「お前は、甘いもん好きなんかよ」
「めっちゃ好き。男だから変かもしれんけど、好きな物は食べたいやん。今日半額デーって聞いたから、よかったら食べよ。普通の食事もあるし」
お節介オジサンを前面に出してるのは許してほしい。不良にどう取り繕うとか考えられなかったので素である。
虎峯くんに構わず、皿いっぱいのケーキを取りに行く。一回目はケーキ、二回目はパフェ、三回目はゼリーの予定だ。
席に戻ると彼はフラリと席を立ってどこかへ行ってしまう。帰ってしまったらその時だ。気にせずケーキを堪能しよう。
しばらくして、山盛りのケーキを盛り付けた皿を持って彼が戻ってきたので、言葉少ないながらも楽しく甘い物を二人で腹一杯食べた。
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