『主人の優しさに触れて』ー短編ー

※2021/01/03 作品 1293文字

『あなたのその何気ない行動が、
 私に勇気をくれることがあるの。』

「どうしても、話してくれないのね。」
下を向く少年は、小さく頷く。
「どうしたものかな。」
ため息をつきたくなる。
何を言っても、口を開いてくれないの。
「お願い。あなたのためなの。」
すると、少年がスッと立ち上がった。
「え!どこ行くのよ!?」
とっさに少年を行かせまいと、引き留める。
少年は何も応えずに、ドアを開けて出て行った。
「...はぁ。」
おでこを左手で支え、ため息をつく。
「一体、どうすればいいのよ。」
心を閉ざす少年を助けたいのに、
益々、少年の状態を悪化させてるわ。
「もう、嫌。」
仕事を放り出して、さっさと家に帰りたい。
乱雑に置かれた少年に関する資料を、鞄に入れる。
「これから、どうしよう。」
今週末までに、少年から話を聞き出したい。
もし、間に合わなかったら、こっぴどく怒られる。
「乱れた心を休ませよう。」
家に帰って、状況や気持ちの整理をすることにした。

「ねぇ、あなた聞いてよ。」
ダラダラとソファでくつろぐ主人に、尋ねてみる。
「ん?」
眠そうな目つきとダルそうな声が返ってきた。
「うーん、うん...何でもないわ。」
首を横に振って、皿洗いに集中する。
「っそ。」
再び、テレビの方を見て、笑う主人。
なんて幸せ者なのかしら。
主人を見ていると、不安がなさそうに見える。
「...はぁ。」
息を吐きながらも、食器乾燥機のスイッチを入れる。
ーーカチッ
その音を聞くと、私の頭もカチンと来そうだわ。
主人に皿を投げつけてやろうかと思った瞬間、
「無理してるね?」
真横に主人がいた。
「わあっ。」
あまりにも驚いて、後ろに倒れそうになる。
「危ない。」
主人がとっさに、私の腰に手を回す。
「ふぅ...良かった。」
私の思考が一瞬、ショートした。
「だ、だいじょ、うぶ。」
頭が少し、クラッっとする。
「大丈夫じゃない。」
普段の声よりも、強く感じた。
「一人で背負いすぎだ。」
そういって主人は、私をソファまで運んでくれた。
「何があったかは知らないけど、
 倒れてもらったら困るんだよ。」
下を向いて、左手で髪を掻く主人。
主人が恥ずかしい時に、自然とやる癖。
「俺でよければ話聞くから、
 もう、遠慮しないでくれ。」
「...うん。」
主人のこの優しさに、私は何度も惚れている。

少年の心を開けれるかは、私にはわからない。
だけど、私が心を閉ざさずにいられるのは、
主人がいてくれるおかげなのかもしれない。
いつかきっと、少年にも、
心を開けてくれる大切な人と、出逢えますように。

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【あとがき】

「あなたがいてくれるおかげです。」

私の記事に、何度も「スキ」を押してくれる方、
パっと立ち寄って、この記事を読んでくれる方、
色んな方たちがいてくれるおかげで、
無事、この記事を書き終えることができました。
「ありがとうございます。」

今回の作品は、”少年と私と主人”が登場します。
「物事がうまくいかない時、ふとした行動で、
 崩れることも、支えられることもある。」
なんてことを思いながら、書いていました。

それでは、この辺で失礼します。

当たり前のように思える毎日に、"同じ日がないこと"を知った。きっと、あなたのその行動にも、"同じ行動はない"でしょう。"かけがえのない毎日"と"あなたのその何気ない行動"は、たった一度の出来事なのよね。ありがとう。