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人と動物はわかりあえるか

𝑡𝑒𝑥𝑡. 養老まにあっくす

 ペットを飼っている人が「自分はこの子の言っていることがわかる」そう言い張ることがある。それは本当か。本人がそう思っているだけでしょ。そういう反論もある。しかし、本当に理解できているのか、ただ思い込んでいるだけなのか、科学的に証明する術はない。
 人間どうしだって、言葉があるからと言って、必ずしも相手の気持ちを理解しているとは限らない。アイツ、腹の底では何を考えているかわからねェ。それなら、いったい何をもって相手の言うことを理解していると立証できるのか。
 わかったつもりになるな、という言い草がある。だが、よく考えてみると、わかったつもり以外のわかり方など存在しないのである。そういう意味では、動物の気持ちがわかるかということと、人の気持ちが理解できるかということは、単に程度の問題である。
 意思疎通の上で、言葉の持つ意味は非常に大きい。しかし、以前にも書いたことがあるが、言葉だけがコミュニケーションなのではない。それなのにわれわれは、つい言葉というものを過大評価してしまう。その結果、言葉以外で伝達される情報が落っこちている。そんな気がする。
 たしかに、動物は言葉を理解できない。しかし、べつに言葉がわからなくったって、理解できると思えば理解できるし、わかり合えないと思えばわかり合えない。言葉によって、人間と動物の間に線を引いてしまっているのは、人間の方である。理解が足りないのは動物ではなく、人間の方ではないか。
(二〇二二年十月)


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