平和への短歌02|西田郁人(2)


中国新聞さんが西田さんを取り上げてくださいました。

https://hiroshimapeacemedia.jp/?p=135024

・父と母の背や胸の火傷に湧く蛆(うじ)を箸で捕りたり夏がまた来る
・生きながら焼かれ死にたる肉親を思ひ出させるやうに夏が来る
 西田郁人「心の花2016年8月号」

歌の前半に描かれている凄惨な情景。その辛い記憶を蘇らせる象徴として夏の訪れが表現されている歌です。
一首目は被爆後の深刻な火傷とそこに湧いた蛆をリアルで繊細に描き出しています。「箸で捕りたり」は、日常の中の非日常性を強調すると同時に、その行動の背後にある愛情や絶望感が描かれているのでしょう。

・マグネシウム光線をもろにうけながらともに顔を見合はせてゐた心中よ
・真はだかのまま井戸水飲みに走る姉に泣きながら遮る妹とふたりで
・生きて家に帰れど水を飲むことさへ出来ねば共に泣く外のなし
・未だわれは若く死にたる姉の顔をひしひしと思ふ罪人の如くに
 西田郁人「心の花」2018年8月号

「水を飲むと死んでしまう」という噂が流れたことから、被爆し水を欲する姉を止めた記憶を詠んだ歌です。歴史の教科書や資料だけでは伝えきれない、実際の被害者やその家族がどのような心情でその日々を過ごしていたのかを、生々しく伝える貴重な証言となっています。

東京新聞の「一首のものがたり」には、長崎で被爆された歌人の竹山広さんが西田さんに「簡単に詠えないよな」という言葉をかけた事が記されています。広島や長崎の被爆者たちの実体験や感情は言葉にすることが難しく、またその痛みは後世の人々には想像もつかない部分があります。
西田さんの短歌にはその痛みや絶望を具体的に、かつ力強く伝えることで、戦争の悲劇を未来の世代に伝え続ける大切な役割を果たしているのだと私は思います。


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