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03 最果タヒ『十代に共感する奴はみんな嘘つき』

 走る車の方向が決められているように、冷蔵庫は開けたら閉めるように、感情も自発性をもたず選んで使用されている。実際に生活している人間よりもよっぽどTPOを熟知している感情に誰も異論を唱えないし、そうであることに同意する。無茶苦茶な世の中だ。生きる以上その無茶苦茶から逃れる事は出来ないし、生きる時間と比例してその無茶苦茶と同化していくのが人生だ、なんてことを口にしたならば、罵倒される。

 可能性を信じろなんてどこの誰が言いだしたんだ。可能性は描いた未来じゃない、都合よく片付ける思考回路も人間様しか持ち合わせていない、生まれ変わったら絶対鳥がいい、歯の浮くような意味の無い声が行き交う、舗装された道路を歩いてばかりの生きものであり続けるのはこりごりだ。

「それでもさ、やっていくしかないんだよ。だからさ、」

そう続ける文章にも飽き飽きだ。私は決してそんな汚い綺麗事だけは吐かない。綺麗事は飽くまで綺麗ではない、汚くないのに汚いと言われているものたちに寄り添う方がいい。格好いい。暴れたいから否定を続けるのではない、否定ばかり並べるのは野党のおじさんへのインタビューで十分だ。

 否定の後に言いたいことを飲み込んで、それを言うことだけは堪えて、空を睨み返す。悪いか、こういうのをひねくれてるって評する奴ら全員敵だ、周りを蔑むことで安定をはかるよりよっぽどいいだろう、どうかお願いだから「わかるよ」なんて言わないでくれ、一生分からないでいてくれ、安易に目を細めるな、これだけは私だけのものにさせてくれ、感情はひとりぼっちなんだよ、それを抱きしめたいと思えるまでは、思えなくとも、阿呆な人間を全うするつもりだ。

睨みが上手になったなら、真っ直ぐに見つめることもできるようになるだろう。


最果タヒ『十代に共感する奴はみんな嘘つき』


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