極私的ブラジリアン柔術取り組み方思案

ブラジリアン柔術を習い始めた頃は、周囲にそのことを隠していました。当時、仕事も忙しい上に、子どももまだ小さかったので、3ヶ月くらいで辞めてしまうのではないか、周囲に公言しといて短期間で辞めるのは恥ずかしいと思っていたからです。ところが次第に週1回の練習が週に2回行けるようになり、習い始めて1〜2年後には8デイズ会員(月に8回までの会員)からフルタイム会員(練習参加回数制限なしの会員)にアップグレードしていました。

青帯が見えてくる段階になると、自分の柔術への取り組み方を模索するようになりました。格闘技なので、この年齢(当時は40代前半)でも基本的には強くなりたいわけです。じゃあ、どうやって強くなるのか。「強くなる」の定義も色々ありえます。最初のうちはスイープ(リバーサル)やパスガード(ガードパス)には、あまり興味がありませんでした。練習仲間の茶帯米国人に試合でもポイント差で負けることに頓着せず、とにかく極めを狙いに行く人もいたので、それも一つのスタイルだなと思っていました。ですが練習仲間の殆どは試合に出る人も出ない人もIBJJF準拠ルールでのポイントの取り合いを想定した練習をしていたので、次第に自分も同ルールでのポイントを取れる、或いはサブミッションを極められることを「強い」とする定義を前提に練習するようになりました。

じゃあどうやって「強く」なるのか。多くの白青帯の人たちと同じく、得意技や戦型とくにメインで使うガードを決めた方が良いのではないかと考え、悩みました。三角絞めや脚関節技に憧れるけど、それで「強く」なるのは自分にはあまり現実的でない。華麗なスパイダーガードにも憧れたけど、当時、自分の道場にはロールモデルとなるスパイダー使いがおらず、習得するのは難しそうでした。いろいろ調べていくと、瞬発力や反射神経に優れているわけではない上に年齢も若くないとなると、ハーフガードが良いらしい。ジョン・ダナハーだったかベルナルド・ファリアだったか忘れたけど、スピードと瞬発力に優れた相手をハーフガードに捕らえることでゲームそのものをスピードダウンさせるんだというインタビュー動画もありました。加古選手のDVDを購入して、ハーフガードの練習に取り組みました。そのままハーフガード中心の練習に取り組んでいたなら、今ごろもう少しは強くなれていたのかも知れません。

自分より少し後に入会してきた器用な練習仲間とスパー後に話をしていたとき、彼は「自分は別に試合に勝ちたいとか強くなりたいとかじゃなくて、とにかくクルクル回る柔術が出来るようになりたいんです」と言いました。そうか、なるほど、アスリートでない自分たちにとって柔術はあくまで趣味なんだから、自分なりに一番楽しい取り組み方を見つければいいんだと得心しました。じゃあ自分はどうすればいいんだろう?また悩み始めます。

準備運動で首を回したら、頚部から異音が聞こえるようになりました。整形外科で診て貰うと、頸骨の一部が加齢で変形していることが分かりました。もはや若くないので、いったん頸椎ヘルニアを発症したら、柔術はもう無理でしょう。いつまで柔術ができるか分からない。自分に残されている時間は案外短いかもしれない。その日はあるとき突然訪れるかも知れない。若かったならその時々で取り組み方を変えていけばいいけど、自分にはそんな猶予はない。何かひとつに絞らなければ。

強くなることを考えていたときに検討したガード候補の中に、デラヒーバガードはありませんでした。憧れはしたものの、あまりに技巧的かつ柔軟性を要求される技術なので、自分には向いていないガードだったからです。にもかかわらず橋本知之選手の「デラヒーバ66」が発売されるとすぐに購入しました。自分がそれを購入した理由が今となっては思い出せません。パッケージ内容を確認して、デラヒーバそのものよりも更に自分に無縁なベリンボロがかなりのボリュームを占めることを知ったのに、なぜか購入していました。
ここに含まれている技術の殆どは自分には取り組むことすら難しかったけど、他の教則にはなかったデラヒーバフックの作り方から解説してくれていたので、ひたすらその練習をしました。
「デラヒーバ66」の販促キャンペーンの一環でもあったと思いますが、何故かギではなくノーギの橋本選手のセミナーが東京で開催され、たまたま出張と重なったために参加することが出来ました。
それ以来4年以上、ずっとデラヒーバを練習しています。

いつ終わりの日が来るのか分からないのなら、自分の柔術への取り組み方は自分がいま楽しいことを第一にしようと決めました。強くなることは二の次です。やりたい技術をやる、やりたい技術が出来るようになるための練習をする。その結果強くなれなくても、試合に勝てなくても構わない。それらの優先順位は下げることにしました。
同じ時期にこの教則を購入した練習仲間は、どんどん上手く強くなっていきます。しかし自分は違います。自分はそんな短期間で上手くも強くもならないのです。
デラヒーバガードはそこからスイープをするにせよバックテイクするにせよ、はたまた解除&パスを防ぐにせよ、考えなきゃならないこと、やるべき作業が沢山あり、ひとつふたつ課題を見つけて克服したとしても成果にはなかなか結びつきません。ましてや身体能力的に自分には向いてない技術なので、小さな階段を一段ずつ昇っていく地道で気の遠くなるような作業です。その上、相手の動きに応じて臨機応変に対応することが大事なブラジリアン柔術において、下手なデラヒーバにばかりこだわっていたらパスされ放題で、いっこうに強くなりません。それでもなお、そのちっこい階段を一段ずつ昇っていく作業が自分にはとても楽しく、それを今も日常的に続けています。

ここ2年ほどはディフェンスを上手くなりたいと思って、エスケープとガードリテンションを中心に練習してきました。ガードリテンションのためにショルダーロール(サイドロール、ガンゴーラ)を試行錯誤しながら練習を繰り返しました。これまた、なかなか上手くなりません。ある日スパー中にふと思い立って挑んだらベリンボロが成功しました。相手の裏に潜る動きが改善してくると逆方向のテクニック、「デラヒーバ66」購入時にはこりゃ自分には無理だと思ったウェイターガードにも何となく入れるようになってきました。フットロックに繋がることも出てきました。4年間ちいさな小さなステップを踏み続けてきたら、すこしだけ成果が出ることもあるようになってきました。

先日、50歳になりました。未だ青帯のままです。同じ時期に入会した仲間は殆ど紫帯になっています。なかなか強くはならないけど、柔術は楽しいです。いつまで続けられるか分からないけど、今のところ僕のブラジリアン柔術は順調です。

以上


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