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マイクル・コナリーの「ナイトホークス」を読む

嬉しいことにカミさんがコナリーを読んで面白いと言ってくれた。かなりの後発組だが、シリーズ中盤からだが猛然と読み進んできた。読んだ本の話をしたりする訳だけど、数年前に読んだ本の内容を殆ど思い出せない自分は苦笑いするしかない状態だ。折角読むなら、最初の方だけでも読んだ方が良いのでは。良い機会なのではないかということで、一緒に僕も再読しました。

ハリー・ボッシュはハリウッド貯水池、マルホランドダムの土砂止めに設置されたパイプ管のなかに死体があるという通報に駆け付けた。ボッシュはハリウッド署の刑事部の刑事だ。10か月前まではパーカーセンター、市警本部強盗殺人課で働いていたが、ドールメーカー事件の容疑者を射殺した際の行動がもとで停職となり、殺人特別班からハリウッド署刑事部へ転属させられたのだった。左遷だった。しかもこれ以上酷い職場はない場所への。

パイプは浮浪者や麻薬中毒者たちが夜を過ごすために度々利用されており、ここで死体となって発見された事件もあった場所だった。今回も単なる過剰摂取による死者と思われる様子で発見された男だったが、状況証拠に矛盾があることにボッシュは気づく。

そしてシャツで覆われていた死体の腕には見覚えのある入れ墨が。果たして死んでいたのはかつてベトナム戦争で同じ部隊に従軍していたウィリアム・ジョセフ・メドーズという男だった。ボッシュとメドーズは所謂トンネルネズミと呼ばれていた役割で、戦地に掘り広げれていたトンネルに単身もぐりこんで偵察、爆薬をしかけて潰すことを専らの仕事としていた男たちだった。

メドーズとは帰還後20年近く音信不通だったが一昨年、ボッシュに連絡をしてきた。常習注射痕を麻薬取締で見つけられ刑務所に送り込まれたばかりだったメドーズは刑事になっているボッシュを頼りに社会復帰プログラムを受けることを条件に仮釈放が受けられるよう助けてほしいというのだった。ボッシュはメドーズの話を信じ、復員軍人省に働きかけメドーズを入院させてあげたのだった。本人とは電話ではなしたきりだが、その後すっかり回復して社会復帰していったことを確認し安心していたのだった。

そのメドーズに何があってこのトンネルの中でヘロインの過剰摂取で死体となって発見されることになったのか。彼の部屋は明らかに家探しさた痕跡があり、折れていた手の骨は死後に与えられたもので、彼の胸にはスタンガンによる火傷の跡があった。メドーズは拷問された上で過失致死を装って遺棄されていたのだ。

ボッシュはメドーズの部屋を丹念に調べて念入りに隠されていた質札を発見する。質屋を訪ねるとそこは数日前に押し込み強盗に襲われており質草となっていたブレスレットは盗まれていた。質屋に残っていたブレスレットの写真をもとに盗難事件を検索してでてきたのはボッシュが停職中に起こっていた事件だった。

ウェストランド・ナショナル銀行の地下貸金庫は何物かによって地下下水道から掘り進んだトンネルから侵入され週末の間を使ってこじ開けられて大量の金品・証券・貴重品が盗まれていた。犯人は不明逃走中。盗まれた物で出てきたものは今までひとつもなく、唯一の品物が今回のこのブレスレットだったのだ。

ドールメーカー事件は娼婦の連続絞殺事件で死体に化粧を施していることからドールメーカーと呼ばれるようになったものだった。被害者が10人を超えようとしているのに犯人の姿は一向に捜査線上に浮上してこなかった。ある日ボッシュが遅番をしているところに、ドールメーカーの犯人と思しき人物から逃げ出してきた女性からの通報が入ってきた。独り暮らしの男なのに洗面所に女性用の化粧品がしまわれていたというのだ。
午前三時。女性が逃げ出したことから逃走の恐れがあるこの被疑者の家に悩んだ挙句に踏み込むボッシュ。制止を無視して枕の下に手を伸ばした男を射殺したのだった。

男はドールメーカー事件の犯人だったが、枕の下にあったのはカツラだった。この行為が内務監査課に咎められボッシュは停職左遷されたのだ。内務監査課のトップであったアービィン・アービィングはボッシュにまたしても疑いの目を向けていた。かつての戦友が絡んだ銀行強奪事件にボッシュが関係しているのではないかという訳だ。

犬猿の仲となるアービィングをはじめ、FBIの捜査官として登場するエレノア・ウィッシュなど多彩なキャラクターに囲まれて過去と現在を行き来しつつ進む本編は近年のスピード感とは違う作風だが、どこも古びたところはなく、ぐいぐいと物語が進んでいく。傑作である。

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