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佐藤 英文の「カニムシー森・海岸・本棚にひそむ未知の虫」を読む

新年度業務分担と勤務地が変更になり引継ぎやら引っ越しの準備やらでまたもやドタバタな日々をおくっています。雇用延長しないで定年退職しちゃいたいと思う反面、ドタバタな生活に浸るのが性分ではないかとも思えていて、果たしてそんなことのない日々のなかで僕はちゃんと生活していけるのだろうかという不安。あと一年ちょっと。悩んでいる時間もあまりないようです。果たしてどうしたものやら。

マイクル・コナリーのシリーズ再読は粛々と追い上げが進んでいます。立て続けに読み続けるのはさすがにどうかと思うので箸休め的に他の分野の本と思って手にしたのはこちら「カニムシ」。カニムシ?僕は見たこともなければ聞いた記憶もない生き物だ。
著者の佐藤英文は1948年、山形生まれの京家政短期大学部保育科特任教授。カニムシ類の分類と生態の研究、草笛の歴史研究と普及活動、草花遊びの研究と普及活動、ミツバチを使った教育活動などをしている方だそうです。

山形の自然あふれる環境で育ち、神奈川で高校の教師になったのち、余暇を使って自然に触れて研究できるテーマを探して出会ったのが「カニムシ」であったらしい。ご本人もカニムシがどんな生き物なのかまったく知らない状態でこれをテーマにすると決めたのだそうだ。25歳の時のことで以来40年以上、カニムシの研究を続けてきたのだそうです。

カニムシ。ムシという名がついているけれどもこの生物は昆虫ではない。体節は二つ。腹部に4対の歩脚と頭胸部に1対のハサミのある付属旨肢をもっている。全体的には尾のないサソリのような見た目だ。分類上は節足動物門鋏角亜門クモガタ綱カニムシ目となる。大きさは1mmから5mmと非常に小さな生き物だ。土壌、樹上、磯など種類によってその生息範囲が異なる。まれに本の隙間にいたりしてブック・スコーピオンという呼び名がついている。スコーピオンなどと呼ばれているが毒を持っている種はごく一部で、ほとんどのカニムシは同じ種同士ですら接触を避ける傾向にあるようで目立たず、騒がず脆く儚い生き物だ。

そんな生き物だからか研究者の数もわずかで、カニムシの生態や生活史、分布や種類の数などはまだまだ謎な部分が多い。そんな生き物を研究対象にして、どうやって研究するのか。それこそ手探り、試行錯誤の連続で調べ続けてわかってきたカニムシの姿と著者の研究人生が平行して語られていく。

著者は長年のフィールドワークによってたくさんの新種を発見しているらしい。そしてどこにどんな種類がどれだけの数で生息しているのかをしらべるために膨大な労力をかけてサンプル採取と計測を繰り返していました。その作業たるや気の遠くなるほどでした。40年以上の歳月をかけて調べてきた研究成果は満足するに程遠いものがあるという。そしてカニムシはその寿命や生態、行動について未知の部分がまだまだたくさんあるのだという。

営業担当から業務企画やシステム開発、中古機器の再販企業の運営など、次から次へとあれやって、これやってと言われるままにいろんなことにチャレンジさせられてきた僕とはあまりに対照的な人生を歩んできた著者の生きざま。ああこういう人生の歩き方もあったんだなーとしみじみと読ませていただきました。そして脆くて儚げでありながらもこんなにも奥深く、その正体をあきらかにしないカニムシの世界の広がりの大きさ。こんなに心を揺さぶられるなんて全然予想していなかったなー。新年度もよろしくお願いします。

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