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マイクル・コナリー(Michael Conneliy)の「警告(FAIR WARNING」を読む

マイクル・コナリーの第34作目。「ポエット」から実に24年後のお話ということになる。「ポエット」のジョン・マカヴォイは34歳、本作品では58歳というところか。同い年なんだな僕は。「警告」原題は"FAIR WRANING"。「公正なる警告」といったところだろうか。またマカヴォイが勤めている報道機関の社名でもある。いわゆる事件報道ではなく、消費者保護の観点から商品やサービスの不正を調査し報道することを主たる目的とした会社なのでした。

そんなマカヴォイのもとに二人の刑事が訪ねてくる。今回はマカヴォイ本人が容疑者であるという。一人の女性が自宅の寝室で首をへし折られて殺された。環椎後頭関節脱臼。顔を真後ろまでねじり折るというひどい殺し方であった。マカヴォイは一年ほど前にこの女性、ティナ・ポルトレロと出会い関係を持ったことがあった。そのことから捜査線上に浮かんだのだった。ティナとは一回限りで、もう一度会うことについて先方から断られてしまった。最近彼女は知人に自分がデジタル・ストーキングされていたと話をしていたという。バーで出会った初対面の男が本来知るはずのない自分のことを知っていたというのである。遺体には犯人のDNAが採取されており、マカヴォイはDNAの提供を要請され否応もなく応じるのだった。

この事件をデジタル・ストーキングの線でフェア・ワーニングの仕事として追うマカヴォイ。ティナのinstagramのコメントから彼女が最近片親違いの姉を見つけていたようだった。ティナの母親に会って聞くと、彼女はDNA鑑定によって片親違いの姉の存在を知ったことのだという。そしてそのことで母親は夫と離別したのだった。またティナは次々と複数の男性と関係を持ち結婚には全く興味がなかったこと耳にする。

マカヴォイは検屍官たちが情報交換している掲示板サイトに潜り込み、環椎後頭関節脱臼で亡くなった類似の事件がないか質問を投げかける。その結果複数の事件事故が浮上してくる。一つは交通事故を装っているが故殺と判定され捜査中であった。そしてその被害者のプロフィールを調べていくと彼女が最近またいとこのこどもであることを最近知ったする人物からお悔やみが送られていることをみつける。DNA鑑定が共通事項となっている可能性を感じるマカヴォイはこの細い線をたぐって事件を追う。そこに浮かび上がってくるのはDNA鑑定情報が野放図に売買されていることだった。本来はDNA情報とその本人とを結びつけられない状態で売買されているはずだった。しかし犯人はどうにかしてこのDNA情報と個人を特定し、獲物として捕らえて殺しているらしい。

マカヴォイは身元調査会社の経営者となっているレイチェル・ウォリングのところに事件のあらましを伝えアドバイスを求めに訪れる。マカヴォイの推測はFBIの元捜査官である彼女の捜査官魂に火をつけ、一緒に調査に参加させてほしいと申し出てくるのだった。

本書はまだまだ奥が深くて思いもよらないそして繰り返し、これでもかというほどの仰天の展開を見せてくれる。そして事件記者魂に燃えるマカヴォイと捜査官魂に目覚めるレイチェルの関係は時に協力しあい時に愛し合い、疑い、対立を重ねていく。二人の関係性がどうなっていくのかも本書のもう一つの読みどころにだ。

24年の歳月を跨いだ二作を続けて読み比べたわけだけど、まずは文章が非常に簡潔になっている。すごい切り詰め方をしていることがわかる。その分物語にスピード感があり、最初から最後までの勢いが止まらない。そこに二転三転と読者の予測を裏切る展開が用意されていることで面白さが倍増している感じだ。また人物描写もかなり計算されたものになっている。ややステロタイプな登場人物が多かった感じがなくなっているようです。そして本書はDNA鑑定を安くやるかわりにそのデータを企業に売りつけることで商売する危険性、社会問題を鋭く切る目線が加わることで単なるミステリーの枠組みを超えてきていると思う。その意味でも24年前のコナリーとは格段に腕を上げている。そのためにどんな努力しているのかわからないけれども、そうやすやすとできることではないことは間違いない。そしてこんな作家はほかにいない、今後もでてこないのではないかと思う次第です。
そんな作家の本に浸れる我々は幸せだ。

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