母さんの笑顔と父さんへの想い

リビングで結婚式の振り返り会を終えた後、母さんは思い出したように興奮しながら話しかけてきた。よくわからんことを話はじめたなぁと思いながしていたら、

「ちゃんとあの話しないとわからないじゃないの!」

と一番上の姉が母さんに声をかけた。

母さんは和室に足を運び、「これね」と言って宝石箱を開けて見せた。そこにはダイヤをはじめ、色とりどりの宝石の指輪が並んでいた。どうやら先日この箱を見つけてきたらしいのだが、母さんはこう話し出した。

「お父さんがね、結婚するときにこう言ったのよ。」

 “今は小さいけど、どんどん大きくしていくからな”

「そう言ったのよ。」

「嘘だと思って信じてなかったんだけど、本当にね、買い続けてくれたの。」

そうやって嬉しそうにルビーだサファイアだの宝石の指輪を説明する母さんを見ながら、正直、僕は涙をこらえていた。母さんが、父さんの話をするとき、こんなに嬉しそうに話したことなんて見たことなかったから。

本当に嬉しそうにニコニコしながら、結婚した時の指輪のセットも見せてくれた。

「すっかり忘れてたんだけどね〜!」

と笑いながら言う母に対して、

「それは忘れちゃダメだよ絶対」

と僕は言った。

本当に母さんは忘れてたんだろうか…。

きっと姉の結婚式をキッカケに、しまっておいた大事な大事な彼女だけの宝物を見たくなったんだろうと思う。

5、6年前の酷い夫婦喧嘩以来、二人でいるのを見なくなった。会話なんて二人に間にはないし、父さんは母さんが作ったご飯は食べず、出かけて帰って来ては自室にこもるようになった。

僕ら子供からすると、そんなんだったら離婚してもいいのにとか、どうしていつまでも一緒にいるんだろうとか、子どもたちを利用しての煽り合いもやめればいいのにと思っていた。

「子供達のため」なんて言ったりするんだけれど、きっと母さんは僕らが知らない父さんを知っていて、それだけで今を続けられてるんだろう。

結婚式に望む前、三番目の姉はその話を聞き、その宝石を写真に撮って義兄さんに送ったらしい。

「僕もそうするわ!」

と義兄さんは鼻息荒かったみたいだ。

母さんはそれを伝えたくて話し始めたんだろうけど、自分の大切な思い出、僕たちの知らない父さんと母さんの二人だけの記憶を思い出したら、嬉しくてとまらなくなってしまったんだろう。


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