「これしかない」に殴られる


スピッツとの出会いはあんまり覚えていない。
そりゃそうだ、1991年生まれの僕が物心ついた時には、彼らはもうとっくにスターであり、街中に彼らの曲は溢れかえっていた。
うっすら覚えてるのは、小学校の時に合唱で「空も飛べるはず」をやった気がする様な、そんな曖昧な記憶だ。メロディーがいいので普通に好きだったはず。その頃の僕は全くの音痴で絶対に音は外していたはずだけど、でも楽しく歌ってた記憶はうっすらある。

☆☆☆

大学に入ってバンドサークルに入り、1年目のクリスマスライブで「ロビンソン」のベースを弾くことになった。
音楽にのめり込んでから久しぶりに彼らと再会するわけで。その時の僕の感想は「あ、この人達ってロックバンドなんだ。」だった。
ロックとは何かポップとは何かみたいな論争は答えが分かれる上にめちゃくちゃめんどくさいのでする気はない。けれどもどうしてもロックンロール育ちの僕にはそういう感覚があって。しっかりとロビンソンを聞いた時に、ロックの精神性が色濃く血肉になったバンドなのだな、と思ったのを覚えている。

大きな力で 空に浮かべたら
ルララ 宇宙の風になる
スピッツ/ロビンソン

スピッツは詩の世界に相当ファンが多いバンドだとも思うのだけど、このめちゃくちゃ有名なフレーズの「宇宙の風」って言葉に僕は結構衝撃を受けた。
宇宙に風って、あるんだ。なんかめっちゃ当たり前に歌うじゃん。何回も歌うじゃん。という感じでひたすら感心した。
僕の様に情緒の薄い人間だと、きっと「もし宇宙に風があったら~」なんて野暮ったい文章しか書けないんだろうな。草野さんの思い描いた宇宙には風が吹いていたんだなって。それにびっくりしたんだよなあ。

☆☆☆

大学2年になって後輩が出来た。一人スピッツがめちゃくちゃに好きな女の子が入ってきて、丁度ロビンソンで興味を持っていた僕は彼女におすすめのアルバムを貸してほしいとお願いした。
あまりスピッツを聞いていない僕に彼女が貸してくれたのは「ハチミツ」だった。なんてこちらの気持ちを汲み取ったチョイスだろうか。素晴らしい。
まんまと好きになった僕はその時期のアルバムを何枚か自分で借り、そこでスパイダーという曲と出会う。


死ぬほど、衝撃を受けることになる。

馬鹿みたいな日本語になるんだけど、感想は「何これ、めっちゃスパイダーじゃん」だった。
これ、僕がベーシストなのもあるとは思うんだけど、基本僕は曲を聴いてるときベードラとメロディーに9割の意識を割いてしまう。
そのうえで、この曲の1番終わり、間奏から2番Aメロのベースライン。めちゃくちゃに蜘蛛の巣のイメージなのだ。まとわりつきながら少しずつ持ち上がっていく感じ、じわじわと絡みついて高揚していく感じ、どう考えても蜘蛛の巣が頭の中に浮かび上がるのだ。
ちなみに少しでもベースのことがわかる人は、是非調べて弾いてみてほしい。左手の運指が指板に絡みついて均等な開きで上がっていく感じで、より蜘蛛の巣の形の美しさをイメージできる。

☆☆☆

すげ~スピッツすげ~ってなりつつも、その世代のあたりのCDを聞いた後は特段ほかのアルバムを聴いてもいなかったんだけど。
多分誰かにおススメされて、1年後くらいに僕は「8823」を借りる。
(公式動画がYoutubeになかったので是非サブスクとかで聞いてみてほしい)

これに至ってはもう泣いちゃった。わけわかんない。凄すぎ。
感想はもちろん「何これ、めっちゃハヤブサじゃん」だった。
そうなんだよ。ほんとにその通りでしかない表現をしてくるんだよな。
色々な解釈があるのは当然表現の醍醐味なんだけど、当然人によって色々な解釈はできるんだけど、どう考えてもハヤブサの映像が全員に浮かび上がる。

そりゃサビで16ビート使えば疾走感は出るんだけどさ。これはそんなシンプルな話じゃない。
イントロから1番の時点で、既にハヤブサは地面すれすれの低い所を滑空している。ギターの音色が時間を置き去りにしている。でもベースはまだ、地面に爪先が掠める高度である様な音色だ。この時点でハヤブサは、低く、速い。
それが、サビで高度をあげる。滑空するのだ。恐ろしく爽やかに、美しく飛び立つ。長く低い滑空があるから、飛び上がる瞬間が恐ろしく鮮やかだ。

2番に入ると、ベースが高低を付けてくる。一度高く飛び立ったあとに、低いところと高いところを行き来している。そしてまたすぐ飛び立つ。
Cメロはぐるぐると旋回しているイメージで、そこから間奏に入る。
間奏に入った時、ハヤブサがもう1羽出てきた。
そのまま、横並びではなく、片方が片方の少し後ろをついていきながら、爽やかに走り抜けていく。この曲を聴くたびにそんな映像が頭に浮かぶ。

君を不幸にできるのは 宇宙でただ一人だけ
スピッツ/8823

そしてしっかりと、愛は重たくて好き。

☆☆☆

何が凄いって、あらゆる解釈を残しながら、タイトル通りの映像はしっかりと届けてくるのだ。「このタイトルだったらこれしかないよね」と思ってしまう様な表現に殴られる感覚が、スパイダーにも8823にもあった。
スピッツの曲には、あまりに清々しく、潔く感動してしまう。
ベースとドラムだけでこれだけカラフルな表現が出来るものかと。ギターが詳細な色付けに専念することが出来るからこそ、映像と同じような鮮明な色合いを出せるんだろうか。
色々考えることもあるけど、正直どうでもよくて、僕は清々しくなりたい時にいつもスピッツを聞く。圧倒的な表現でこれからも僕をぶん殴ってほしい。

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