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イギリスの湖水地方っていう所が世界遺産に登録されたのだけど此処はわたしの人生を変えた場所だって話

そこで過ごした時間の長さとは限らない。

どんな思いをそこに持ち続け、どんな時間をそこで過ごし、そしてその先にどれだけ心に残っているか。

言い換えると、心の中で過ごす時間が、それを決める。

心の故郷。


沖ノ島が世界遺産登録されている横で、わたしはイギリスの湖水地方がユネスコ世界遺産に登録されたことに感動し、一人ふるふると震えていました。

湖水地方はまさにわたしの心の故郷なんです。

湖水地方はイギリスのイングランドの北西部、マンチェスターから電車で2時間半ぐらい北に行った所にある、山と湖の美しい名所です。聞いたことない、という方も多いかと思いますが、実はピーターラビットの故郷でして、作者のベアトリクス・ポターはこの地を愛し、この地でたくさんの作品を残しました。

出会いは中学生の頃、国語の授業でした。ベアトリクス・ポターが、この土地を愛し、ピーターラビットの絵本を描き、その売上から得た資金で湖水地方の土地を買い上げ、環境保護団体であるナショナルトラストに寄付することでこの土地を守った、というお話でした。その際にビデオを観る時間があったのですが、わたしはその風景に一目で心を奪われました。

山の上に湖がある!すごく綺麗!
ああ、いつか湖水地方に行ってみたいなあ!

中学生ヨノセコはこの時、漠然と将来イギリスの湖水地方に行くのだと決めたのでした。ただ、それは遠い遠いいつか、海外旅行なんて新婚旅行ぐらいでしか行けないんだから(当時は本当にそう思ってました)…じゃあ新婚旅行はイギリスで決まりだね!という具合でした。

湖水地方に対する漠然とした憧れは、その後ずっと続きました。転機があったのは大学3年生。

英語の会話には全く興味が無かったものの、文法が好きで好きで仕方がないというマニアックな方面に成長していたわたしは、ある日交換留学先に指定されている大学にイングランド北部の大学があることに気づきました。地図で見ると直線距離で2センチぐらい(※実際の距離とは大きく異なります)だったので、湖水地方に近い所に大学がある!とドキドキし、わたしは留学したいな、と思いました。新婚旅行でしか行かないはずの海外。不安でいっぱいでしたが、背中を押してくれたのは湖水地方でした。

交換留学に出願し、運良く留学のチャンスを得たわたしは、初めての海外渡航デビューを、20kgのスーツケースを引きずって空港に向かい、キャセイパシフィック航空の飛行機に搭乗することによって始めたのです。イギリスはシェフィールド、4ヶ月間の滞在でした。ちなみにシェフィールドというのはイギリス第4の都市という、凄そうで凄くない感が漂うキャッチフレーズで宣伝されており、大きな都市だけど取り立ててわかりやすい名所があるわけではなく、ただ交通の便が良いので乗り換えによく使われる、日本で言うと名古屋みたいな所でした。(もちろん、どちらの都市にもいっぱいの愛を込めての表現です。愛しとるでよ。)

初めての海外、初めての英語での生活、自分の英語のできなさ加減にがっかりしたり、焦ったりしながら過ごす日々。友達が何言ってるかわからない。授業もついていくのがやっと。

そんな日々を越えて、イースターのお休みに初めてわたしは湖水地方に訪れました。新婚旅行よりも先に湖水地方が実現してしまった訳ですね。

留学の不安でいっぱいだったわたしも、この旅は本当に楽しみで楽しみで、楽しみすぎて1日早く出発してしまいました。(ちなみにその日は別の街に日帰りで旅行しました。)

そして、遂にやってきた湖水地方。宿のあるAmblesideという町にたどり着きました。

イギリスらしい曇り空。

その向こうに、

虹が差したんです。

できすぎな歓迎でした。ああ、わたし湖水地方に来たんだって。

その後、2泊3日で朝の5時から夜の21時まで歩きに歩きました。

山の小道。

誰もいないお気に入りの湖岸。

湖水地方で最も大きなウインダミア湖を見下ろす、世界で一番贅沢なベンチ。

朝の薄い緑の風景と、昼の深く青い水の色。

そして夕方に桃色に染まる湖面。今まで見たどんな景色よりも美しく、ここに来て良かった、と心から思いました。

その後、次の長期休暇に4泊5日のおかわり旅行をし、ジーパンとサンドイッチ2切れでうっかり片道2時間半の登山を余儀なくされるなどの事件もありましたが、わたしは湖水地方の虜になりました。留学中は友人にいつも「何か不慮の事故があってわたしが死んだら湖水地方に埋葬して」と伝え回るほどでした。

その後、特に不慮の事故も無く帰国したわたしは、進学した後に就職します。
英語は使わない仕事でしたが、その仕事は夢だったゲーム業界への転職へと導き、そして、湖水地方がわたしに与えた留学という機会は、いま、海外の人々とともに仕事をするというチャレンジに導いてくれています。人生初の海外出張をしたり、毎日時差を越えて世界中の人と仕事するようになっているのは他ならぬ「英語」のお陰でした。

病気で最初の仕事を辞め、家庭教師を少しずつ始めた頃にわたしを励ましたのも湖水地方でした。横浜の住まいのベッドの横を湖水地方で購入した絵葉書で埋め尽くし、どんなに辛い夜もその壁を眺めると、湖水地方が遠くから応援してくれているような気がして、元気になれました。

湖水地方は、わたしの人生を今ある場所に導いてくれた恩人ならぬ「恩地」です。その地に行く前からわたしの心に憧れという形であり続け、わたしを留学に導き、辛い時は心の支えになり、そして今の仕事へとつなげてくれた、そんな大事な場所。

改めて、湖水地方の世界遺産登録おめでとうございます。長い年月、あの自然を残すために本当にたくさんの人々が尽力をしてきたことと思います。その全ての人々におめでとうを伝えたい。(ちなみに、いつもカバー写真に使っているFar Sawreyも実は湖水地方の小さな町です。)

そして、これからもたくさんの人を魅了し、感動を与える土地でありますように。


え? 新婚旅行ですか?

まだですよ! それだけは湖水地方に貰えませんでしたね。

…。


湖水地方おめでとう!!!!

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