ウクライナ戦争開始から半年 - ボディカウントの視点からの総括と分析
ウクライナ戦争の勃発から半年となり、マスコミではその「特集報道」が喧しい。西側プロパガンダオールスターズの見飽きた顔が出演して、ロシア叩きのルーティントークを繰り返している。何となく、開戦半年というアニバーサリーのタイミングを利用してマスコミをこの情報で埋め、政権にとって不都合な統一教会のニュースを締め出している作為が窺える。われわれ視聴者の関心は統一教会問題にあり、少しでも多く報道時間を割いてもらいたいのだが、テレビは無理に戦争プロパガンダを割り込ませ、ウクライナへの応援とロシアへの憎悪を喚起、再燃させようとする。
市井の一人としてネットを観察して気づくのは、ツイッターのアカウント名に青と黄のシンボルカラーをマークした者が、半年間でめっきり減った事実である。3月4月の全盛期と比較すれば、現在は2割ほどだろうか。「通知」のタイムラインを見ると、アカウントのロゴや名前がずらずら表示されるが、3月4月はこれでもかと青と黄がラッシュし、我も我もとウクライナ支援を主張し誇示するアカウントが群れなしていた。次第に減り始め、6月には半分ほどになり、今では稀な個性の表現形態となっている。つぎつぎになりゆくいきほひ。流行への追従と安住。ナイキの黒のスニーカーと同じ。
「ブチャの虐殺」事件が発生した4月、ICC(国際刑事裁判所)のカーンという英国人の主任検察官が登場し、現地を視察、ロシア軍の戦争犯罪を追及する決意を述べる場面がテレビで流れた。最近、カーンが報道で注目される機会がない。ICCの活動と結果はどうなったのだろうか。4月に私が中立の立場で - かなり孤独に、というか天邪鬼の精神で - 戦争プロパガンダに反対し抵抗する記事を書いていた頃、ブログのコメント欄に、5月にはICCから報告書が出るでしょうという書き込みがあった。事情通らしい匿名者から、私に対する批判と蔑視の意をこめた予告があった。
それが公開されるのを待機していたが、一向にICCの動きがない。消息を辿ると、6月にウクライナにICC事務所を設置すると発表した記事があるだけで、捜査の中身や進展については情報がない。7月には、カーンと組んでロ軍の戦争犯罪を捜査する相棒だったベネディクトワが失脚し、検事総長を解任される意外な事件が起きた。また5月末には、戦争犯罪の告発を担当する中心人物だった人権監察官のデニソワが馘首される騒動が発覚した。彼女はロ軍について根拠のない捏造の弾劾を行っていた。デニソワとベネディクトワは、カーンのプロジェクトに不可欠な(助さん格さんの)存在だっただろう。
二本柱を欠き、体制の立て直しに迫られ、ICCの捜査と訴追作業は中途でスタックしているのではないか。8月には、国際人権NGOのアムネスティが、ウクライナ軍に対して、学校や病院を含む住宅地に軍事拠点を設置し、民間人を危険にさらしていると非難する声明を発表した。日本のマスコミはほとんど焦点を当てず、隠蔽と没却と忖度に努めているが、きわめて重大な出来事であり、この戦争の意味を大きく変える事態の発生と呼んでいいだろう。ウクライナ軍の戦争犯罪をアムネスティが調査し確認して糾弾した。ようやく、この動きが起きた。この問題は、以前からフランスやスペインの一部の良質なジャーナリズムによって看破され批判されてきた論点だった。
だが、西側のマスコミと政府・議会・政党は認めず、報道に載せず、ただSNSで拡散され周知されていた問題だった。何人も何人も、マリウポリやドンバスの住民がカメラの前で証言し、砲撃しているのはウクライナ軍だ、銃撃したのはアゾフ大隊だと訴える動画が発信されていた。が、それが西側社会にオーソライズされることはなく、事実認識として一般に確定することはなかった。テレビのキャスターや芸人擬きの防衛研の参謀や、漢字の読みが不得手な国際政治学者は、これをロシアによるプロパガンダだと一蹴し、ロシア軍が病院や学校や住宅地を無差別に攻撃していると指弾、その非人道性を論って罵倒した。ウクライナ軍は戦争犯罪に無縁な聖なる軍隊だった。
戦争初期、3月9日にマリウポリの産科病院が「空爆」された事件も、ラブロフが会見に出てきて、ウ軍の軍事拠点だったからと釈明したが、西側のマスコミは耳を貸さず、ロシア側の残虐と冷血と欺瞞を衝いて責め立てるばかりだった。後の報道を見ると、キエフ政権側の主張に沿う証言をした妊婦の女性が、後日、ロシアTVの取材に応じて逆の説明をし、「空爆はなかった」と証言を覆している。「AP通信にウソの証言を強制された」とも暴露した。3月4月はこのような虚実錯綜した宣伝工作の応酬があり、情報戦・認知戦が激しく展開された時期だったが、日本のマスコミや論者は、ロシア発の情報はすべてフェイクで、ウクライナ発の情報はファクトだと一方的に断定した。何の検証もないまま。ロシアの嘘を信じるなと呼号した。
私は「ブチャの虐殺」を信用していない。事件の状況が不自然で怪しく、基本的に演出であり虚構であると直観する。
英米の情報機関とメディアが結託した工作であり、国際世論を反ロシアに固めるための謀略だと疑う。少なくとも「路上の遺体」はロ軍の仕業に偽装したトリックだろう。イラク戦争の大量破壊兵器の「証拠」や、湾岸戦争の「油まみれの海鳥」や「ナイラ証言」と同じ。ブチャ近辺での虐殺は双方が関与している。ロ軍はウ軍の間諜と見做した住民を逮捕・処刑し、ウ軍(SBU)はその逆を行い、ロ軍の占領支配に協力した住民を懲罰・粛清している。撮影された「路上の遺体」は、実際にはウ軍が殺害した「捕虜」ではないか。冷凍トラックから遺体を下ろして並べるのを目撃したというフランス人の証言もある。英米は、ロシアが「ブチャの虐殺」を国連が調査するよう求めた提案を、なぜか安保理で即却下した。
開戦から半年。ボディカウントに注目しよう。戦争での民間人の犠牲者は5587人と数えられている。国連人権高等弁務官事務所が集計している。膨大な数ではあるが、イラク戦争と比較すると実は半分ほどの規模になる。イラク戦争では、2003年3月の侵攻から9月までの半年間で10621人の民間人犠牲者を出していた。この数字の事実は、やはり真剣に意味と内実を考えるべきだと思われる。イラク戦争も、今回と同様、毎日毎日、日本のテレビで現地の戦況が解説された。だが、その報道は今回と逆で、侵略された側から撮影され報告されたものではなく、侵略した側からのレポートであり、米軍による「解放戦争」の「戦果」を肯定して伝える内容だった。
今回に置き直せば、ロシア側が撮って流す映像と発表がそのまま日本国内で放送されていたに等しい。イラクの町や村で、米軍の容赦ない侵略攻撃によって、どれだけ無辜の市民が大量に殺戮されていたか、われわれは全く伝えられず、想像することさえできなかった。テレビに映るのは、砂漠を進軍してイラク軍を撃破する米地上軍の「雄姿」であり、米軍の進駐を「歓迎」するイラクの群衆だけだった。ボディカウントはネット上に出ていたけれど、それに注意を止める者は皆無に近かった。あのとき、イラク側に報道の力があり、ソフトパワーがあれば、現在のウクライナのように、今日は何人殺された、子どもが何人殺されたと、国際社会に訴えることができたのだ。
何という不条理だろう。アジア人の命はどれほど軽いのか。アメリカの陣営に属さない国の人々の人権は、どれほど砂粒で、世界から無視され、打ち捨てられ、お構いなしにされるのか。1日平均、今回のウクライナの倍の市民が殺されていた。NHKのキャスターや防衛研のタレント参謀や漢字の苦手な国際政治学者は、ロシア軍は残忍で野蛮で無規律で、人権感覚に劣る国の軍隊なので、だからアパートや学校や病院を無差別に砲撃するのだと説き、無抵抗の市民を虐殺して平気なのだと言う。だけれども、人権水準が世界一で民主主義の模範国であるはずのアメリカの軍隊が、ウクライナ戦争と比べて1日平均2倍の数のイラク民間人を殺していた。世界に配信する報道映像では、恰も、イラク人が米軍侵攻に歓喜しているように見せかけて。
イラク軍はまともに米軍に抵抗する軍事力などなかった。戦力に大きな差があり、地上戦らしい地上戦はほとんどなく、おまけに米軍はピンポイントで標的に命中させる高精度の巡航ミサイルを持っていた。開戦から半年間の民間人犠牲者は、ほとんど都市空爆によるものだ。地上でのゲリラ戦はない。ということは、マスコミ報道では米軍の「ピンポイント空爆」を称揚し、一般市民の犠牲は極力抑えるべく配慮しているように美化しながら、実はそうではなかった真実が浮かび上がる。無差別空爆や誤爆で殺しまくっていたのだ。そうでなければ、半年間で1万人も犠牲者が出るはずがない。1日平均66人、民間人を殺していた。戦争を始めた3月は10日間で4000人殺している。1日400人、空爆で無造作に殺している。
ウクライナでの開戦初期、ネット上で屡々言われていたのは、プーチンは市民の犠牲を少なくするため、敢えて空爆を控えているのではという見方だった。ロ軍が初動で戦争の定石である空爆の波状攻撃を行わなかった点については、森本敏なども指摘して首を捻っていた。小泉悠だったかどうか忘れたが、西側プロパガンダ工作員の専門家たちは、その理由として、ウ軍側に鉄壁の対空防衛システムがあるからだとか、ロ軍の作戦設計が杜撰で粗雑で、合理的な戦術を心得てないからだとコメントしていた記憶がある。真相は不明だけれど、ロ軍がイラク戦争時の米軍と同様の大規模空爆を実施していたなら、民間人死者数は現在の2倍の悲劇になっていた想定は間違いない。空爆は民間人の命を大量に奪う。
戦争のこれまでを総括して確言できるのは、戦争の主導権を握っているのはアメリカだということである。この戦争はNATOとロシアとの戦いだ。佐藤優が考察しているように、アメリカが戦争をコントロールしていて、ウ軍への武器供給で戦力の彼我を調節し、どちらかが勝ちすぎないよう負けすぎないよう戦況を巧妙にマネジメントしている。アメリカの目的は、戦争を長引かせ、ロシアの軍事力と国力を疲弊させ消耗させ弱体化させることである。ウ軍に兵器を過剰に提供しすぎると、ロ軍を追い詰めてプーチンを本気にさせ、NATOとの全面戦争を決意させてしまう。戦争の次元が変わる。だから慎重に戦略を進め、一進一退と膠着持続を繰り返させている。ロ軍もウ軍もアメリカの掌の上だ。
一方のプーチンは、そうしたアメリカの戦略と意図を察した上で、時間経過がEU内部の動揺と離間を導く進行を狙っている。戦争の相手はウクライナではなくNATOだから、NATOに勝たないといけない。その唯一の方途と地平は、エネルギー問題をめぐってのEU内部の齟齬と亀裂であり、その帰結としてのEUとアメリカの間での利害と方向性の分裂である。それがプーチンの勝利の(あるいはお得意の「引き分け」の)方程式だ。したがって我慢くらべであり、軍事力・国力の消耗と衰弱に耐えながらロシアは時間稼ぎに徹している。日本のマスコミやアカデミーの観点と言説では、ロシアがこの戦争に勝つ可能性はなく、ギブアップが確実だという結論になっている。だが、半年間を冷静に観察すると、必ずしもそうとは言えない。
フランスの議会選挙でマクロンが敗北した。英国のジョンソンが退陣した。ジョンソンの退場は戦争指導への影響が大きい。ジョンソンが消え、替わってエルドアンとグテーレスが幕の中央に出た。この変化はプーチンにとって状況好転の材料だろう。プーチンの次の「切り札」は、秋冬のドイツのガス事情とドイツ経済の混迷である。軍事情勢について言えば、私は小泉悠の「分析」を信用していない。小泉悠は、兵力について、ウ軍は総動員令の体制下にあるから余裕があり、ロ軍はそれが未然だから兵員不備が深刻だとずっと論じている。だからウ軍有利だと常に太鼓判を押してきた。その認識に私は同意しない。むしろ、ゼレンスキーこそ兵力の整備補充に苦労しているのではないか。NHKの報道でも、徴兵を拒否する男たちが紹介されていた。
現状、ウ軍の発表では開始から9000人が戦死している。この数字は大本営発表なので正確にはもっと多いはずだ。セベロドネツクの攻防があった6月頃、あまりにウ軍兵の損耗が激しく、ゼレンスキーが悲鳴を上げた局面があった。1日100人死亡、10日で1000人という情報が出ていた。地上軍が平原の戦場で衝突して砲撃し合うと、双方の部隊にこの数の人的損害が出る。ロ軍がスラビャンスク方面に急いで進撃せず東部戦線を膠着状態に止めたのは、ハイマースの威力と効果もあるだろうが、兵力の損耗回避を選んだのが主の要因だと推測される。その内情はウ軍も同じはずで、特にウ軍には元々の正規軍兵の数が少ない。実戦で能力を担える兵士は1週間や1か月で育成できるものではない。まして部隊を率いる指揮官はなおさらだ。
日本の「専門家」たちが触れない点として、ウ軍内における外国人兵の消滅あるいは激減の問題がある。私は、外国人兵こそ春からのウ軍の戦闘正面を担った主力ではなかったかと推察する。米国、英国、カナダ、ポーランド、等々。欧州のネオナチが集結してドンバスで8年間血みどろの殺戮戦を演じたアゾフ大隊と、2月から続々と各地から参軍したプロの外国人兵が、キエフ政権の頼みの綱であり、最も戦闘能力の高い軍事集団だったのではないか。その一方のアゾフ大隊は、マリウポリでロ軍との死闘の果てに壊滅した。最早、マスコミにアゾフ大隊の語が踊ることはない。他方の外国人兵たちは、戦地で負傷して退散したか、継戦意思を失って続々と帰国の途についている。「支援疲れ」は、西側の一般市民の気分の問題だけではないのだ。
素人ながら、私はウ軍の現状をこのように看取・分析し、小泉悠とは異なる兵力構図と戦局展望を措定する。ウ軍が南部ヘルソンの奪還攻勢に出られないのは、兵力の配備と態勢に不安があるからだろう。ハイマースの乱射だけでは進撃作戦ができない。要するに、兵力の動員確保の困難は「どっちもどっち」の問題のはずだ。ゼレンスキーにはアメリカという絶対的な護符があるが、無駄に死傷兵を出せないという弱点もある。プーチンには秋冬の欧州エネルギー事情という順風環境の計算がある。条件的には「どっちもどっち」の判断が妥当だ。無益な殺し合いはやめて、一刻も早く停戦和平すればよいのだ。ウクライナは領土を譲る必要はない。外交交渉の場で粘り強く南部とクリミアを取り戻せばよい。ロシアもいずれプーチンの時代は終わる。
来年には70歳。プーチン政権の終焉はそれほど遠い将来ではない。アメリカの思惑と策略に乗って、東スラブ民族同士が命を奪い合うのは愚の骨頂だ。同じ宗教、同じ文字、同じ文化。同じキエフルーシを先祖とし、一緒にソ連邦を構成して歴史を歩んだ兄弟国が、なぜ無意味な殺し合いを演ずる必要があるのか。対話と妥協で賢く問題を解決するべきだ。知恵を出せ。「可能性の芸術」を模索せよ。西側以外の、世界全体の8割がそれを望んでいる。
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