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戦争二法が無風で成立 - 解散総選挙後の新連立の策謀と緊急事態条項改憲の危機

連休明けの 5/10、「統合作戦司令部」を新設する法改正案が参院本会議で可決され、国会で成立した。マスコミはこの事実にほとんど触れず、ろくに報道していない。6年前、この組織の必要性を中谷元が喧しく喚き始めた当初は、「統合作戦室」という名称で呼んでいた。中谷元や森本敏の発言と扇動を聞いて、咄嗟に意味を直観したのは、この組織が中国との戦争のために新設する戦時大本営であるという真相だった。そこで、『大本営の設置 -「統合作戦室」の出所は第4次アーミテージ・レポート』という記事を書いてブログに上げた。時宜を得た有意味な分析と提起であり、多少の反響を呼ぶだろうと内心期待したが、全く注目されず、誰の関心も惹かなかった。世論の喚起に寸毫も役立たなかった。6年間、ずっとそのままの状態で、今回、国会に上程されても議論にならず、無風で国会を通過している。

脱力の気分になるし、正直、この現実が理解できない。左翼はすっかり変質してしまった。誰もが周知の歴史の事実だが、大本営とは「戦時または事変において天皇の隷下に設置された第2次大戦前の最高統帥機関」のことである。ネットで検索するとこの語義が出力・表示される。戦争のときに臨時に設置される軍事機関であり、戦争が終わると解散となる。平時は、陸軍参謀本部と海軍軍令部が独立して併存した。現在の自衛隊の組織には、陸海空の幕僚監部を統合し調整する機関として統合幕僚監部が編成され運営されている。米軍の統合参謀本部に該当する。だが、これでは不足だという理由で、新しい組織の創設となった。東京新聞の記事では「自衛隊と米軍の指揮・統制枠組みをそろえ、共同対処力を高める目的」だと解説されている。上のネットの説明の「天皇」を「アメリカ」に変えれば、すべて了解できよう。

6年前に指摘したとおり、もともと、この「統合司令部」は18年10月の第4次アーミテージレポートでアメリカから要求された政策課題であり、そこには次の6項目が並んでいた。(1)日米による基地共同運用。(2)日米共同統合任務部隊の創設、(3)自衛隊の統合司令部の創設、(4)共同作戦計画の策定、(5)防衛装備品の共同開発、(6)日本のファイブ・アイズの諜報ネットワークへの組み込み。つまり、アメリカの指示と差配で自衛隊内に統合司令部を新設するのであり、出来上がった新司令部で指揮命令するのも、実際は米軍だということだ。それが本質だ。この問題については、今年4月の日米首脳会談後のバイデンエマニュエルの発言、さらにそれを国会で質疑した志位和夫の追及と赤旗報道に、すべての論点と懸念が整理され要約されている。中国との戦争において、作戦の指揮命令は米軍に一元化されるのだ。

統合司令部の新設と自衛隊の米軍指揮下入りは、志位和夫が批判するとおり「主権の差し出し」だ。だが、見落としてはいけないのは、それが大本営の設置を意味し、戦争開始の刻限が近づいている事実に他ならない。その点を看破して警鐘を鳴らした議論は一人も見ていない。大きな戦争を本当に始めるから、統帥機関を一元化しなければならないのであり、組織を攻撃モードに改編する必要があるのである。従来の、専守防衛体制の通常の自衛隊組織では不具合なのだ。米軍司令部が自衛隊のリソースを自由自在に、臨機応変に使うのであり、南シナ海人工島への水陸機動団の突撃も、トマホークの先制攻撃も、その標的を北京中南海に当てて発射ボタンを押すことも、米軍司令部が決定して命令し、統合司令部を経由して形式的合法性を担保しての作戦となる。当然、民間の施設(空港・港湾)や船舶等の軍事利用も米軍の都合で統制する。

特定秘密保護法の民間拡大版であるセキュリティ・クリアランス法も、 5/10 の参院本会議で可決・成立した。立憲民主が賛成した。何度かマスコミ(報道1930、プライムニュース)で説明があったが、高市早苗が出演し、経済安全保障のキーとしてこの法案が必要だという肯定と翼賛のメッセージに終始し、番組内で誰かが抵抗し警告を発したという記憶はない。2013年の秘密保護法のときは、あれほど、TBSもテレ朝も反対の論陣を張ったのに、それが嘘のように、今回はマスコミによって無害化と当然化の言説が撒かれ、粛々とエンドースされた。政府やマスコミが「経済安全保障法制」と呼んでいる実体は、戦前に置き直せば「国家総動員法」に他ならない。一般の民間人を日米同盟による対中戦争に協力させ、軍事統制に服属させ、逃避や違反を禁止し処罰する法制度だ。明らかな憲法違反であり、日弁連も反対意見書を提出している。

重大な戦争法制二法が 5/10 に国会成立した。私は、現在賑々しく行われている「政治改革」の政局なるものは、戦争法制を国民の目から隠蔽するためのカムフラージュだと推察する。連座制がどうとか、政策活動費がどうとか、永田町のプロレス興行が毎夜の報道番組を埋めているけれど、これらは、実は与野党ぐるみで、与野党とマスコミが結託して、戦争法制の真実から国民の視線を遮断する目的で演出している、浮薄で狡猾な政治ショーに思えてならない、表面上、現政局は、政策活動費とか、パーティー券とか、連座制とか、企業団体献金とか、いわゆる「政治改革」がテーマとなり、自民と立憲民主との綱引きが政治ドラマの核心のような絵柄になっている。6月会期末と内閣不信任案が焦点となり、自民の党内情勢と解散総選挙に衆目が集められている。だが、おそらく、裏では別の政治謀略が進行しているはずだ。具体的には、新連立の構想である。

解散総選挙で自民が過半数を割った場合の、新しい多数派与党の構築計画である。すなわち、自民、公明、維新、国民民主による新連立であり、自公を超えたワイドな与党勢力の結集だ。テレビの表では、鈴木馨祐や牧原秀樹のような二流の大根役者を出してお茶濁しし、国民を騙す時間潰しをしながら、裏では、新与党政権発足の秘策に向けて、幹部たちが夜な夜な料亭謀議を繰り返しているのではないか。日刊ゲンダイが 5/5 に報じた議席予想では、自公は81減となって過半数を大きく割り込む試算になっている。が、そこに維新と国民と教育を加え、無所属を合わせると、計284となり、過半数(233)を大幅に上回る勢力が構成される。自民政権は安泰となる。もともと維新と国民民主は、自民との政策の違いは何もない。安保外交も経済政策も同じで、維新の方が自民以上に過激なタカ派であり、ネオリベ度が強烈で、毒々しい安倍色が濃厚という程度の差異しかない。

6月解散となった場合、各野党は、形だけのテンポラリーな政策作文を並べ、自民の裏金体質を叩き、選挙の争点に据え、自らの獲得議席を一つでも増やすべく選挙戦を演じるだろう。が、開票され結果が出た後は、公約や政見などコロッと忘れ、新連立へ向けて一瞬で変身するに違いない。そのときの結集スローガンの要諦は、おそらく憲法改正であり、改憲のための新与党政権という触れ込みと打ち上げになると想像する。改憲を大義名分に押し出すだろう。今、水面下で暗躍と蠢動が始まっていて、菅義偉が馬場伸幸と密議を重ね、麻生太郎が玉木雄一郎と接触しているはずだ。従来は、(a)自民が家法の安倍改憲(自衛隊明記)で正面突破を図り、(b)維新・国民が緊急事態条項の搦手攻略を模索し、(a)と(b)とは一致してなかった。公明は一歩引いて慎重だった。(b)には、9条本丸を攻めると国民投票で負ける心配があるので、搦手に回り、国民の反発の少ない「お試し改憲」を探る動機があった。

仮に新連立となった場合、全与党が改憲案を統一させるだろう。と言うよりも、自民・公明共に、すでに 3/2 に緊急事態条項案に積極姿勢を示し、憲法審査会でこの点に論議を集中させ、改正条項案の表現を詰める戦略で動いていた。自民も公明も、緊急事態条項で改憲を発議する思惑で一致している。したがって、新連立が組み上がるとき、キーとなる改憲の内容や方法で揉める図はない。緊急事態条項改憲で旗を立て、目標達成に向けて邁進すると考えられる。日刊ゲンダイの予想では、立憲民主と共産とれいわと社民の議席数が計180となっていて、かろうじて3分の1(158)を上回っている。この結果になれば、憲法審査会での発議を阻止できる公算となる。しかし、果たして、衆院選の後、立憲民主が改憲勢力に加わらないかどうか、立場を変えて有権者を裏切らないかどうか、この点は予断を許さない。立憲民主の中には改憲派が多く、各個人の思想信条で数えれば、改憲議員の方が多数派となる。

また、立憲と国民を割りたくない反共の芳野連合は、国民が新連立に加わるなら、立憲も大連立に踏み切ったらどうかと背中を押すだろうし、泉立憲が応じた際の大連立の共通スローガンも憲法改正になるだろう。当然、そのときは立憲は再び分裂騒動の道を歩む展開となる。次の総選挙は、選挙期間中はずっと「政治改革」が争点となり、政治資金規正法や公職選挙法が熱く議論されるけれど、投票箱の蓋を開けた途端、一気に新連立と改憲の政局にスピンし、「政治改革」の具体論は消し飛んで雲散霧消するのではあるまいか。私はそう悲観視している。最近のテレビでの田崎史郎や後藤謙次や星浩の口ぶりからも、裏で新連立の汚い工作が進行している状況が臭う。何と言っても、今は、アメリカが設定して予告した「台湾有事」の2-3年前の時点であり、中華人民共和国を相手に国家存亡の戦争を始める間際なのだ。アメリカからすれば、軍事だけでなく政治の工程表も、日本に予定どおりの進捗を要求する。

2018年に第4次アーミテージ・レポートが出て、そこから2年後の2020年に第5次アーミテージレポートが出た。概要が上がっているので読者の皆様は再確認をお願いしたい。全く(呆れて溜息が出るほど)この「提言」どおりに、正確に日本の重要政策は決定されている。寸分の誤差もなく方向づけられている。忠実に一つ一つ政府は実行している。自民の選挙公約だの、首相の施政方針だの、そんなものは何の意味もない空文のフェイクペーパーなのだ。この「提言」だけが、この国の神聖な基本指針なのである。アーミテージの「提言」に対しては、立憲民主も直立不動で恭順するイエスマンであり、だから統合司令部の設置にも、セキュリティ・クリアランス法案にも、異議なく忠誠を示して賛成した。恐ろしい戦争法制に翼賛し加担した。その第5次の報告書から4年が経過しようとしている。そろそろ第6次の新版が発表されていい頃だ。

第6次はどうなるだろう。アメリカにとっての対日中期計画の要綱だが、2-3年先に台湾有事を控えたアメリカが待望するのは、日本の核武装徴兵制の二つだろう。直截に端的に大胆にその要求を書き込むのではないか。それを公表した後、例によって、報道1930とプライムニュースで扇動と翼賛のプロパガンダがシャワーされ、世論調査で賛成多数になるアリバイ工作が施され、承認の既成事実化が遂行されると想像する。二つを制定する法的前提として、改憲(緊急事態条項)が断行されるのではないか。数年前に維新が緊急事態条項を言い出したときは、「お試し改憲」の目的と性格が強く、姑息な搦手改憲策の印象が強かった。だが、現時点ではそうではない。維新・国民のみならず自民・公明が一緒にオーソライズした緊急事態条項改憲は、ナチス全権委任法なのである。ゆえに、憲法に9条があろうが人権規定があろうが、それらはお構いなしで無視される。

そうなったとき、核武装と徴兵制は閣議決定で簡単に決まるだろう。(CIAの手先要員たる)TBS報道1930が、それを容認し支持するプロパガンダの拡散に精を出し、世論調査の「賛成多数」に繋げる工作をすることは論を俟たない。核武装と徴兵制を、統合司令部や経済安全保障法と同じく、平和と安全の確保のための措置だと詭弁で正当化するだろう。


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