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3補選の民意のラディカル - 安倍系勢力が総崩れ、アベノミクス否定の審判

4/28(日)、注目の島根1区、東京15区、長崎3区の3補選の投開票が行われ、立憲民主党候補が全勝、自民党は全敗の結果となった。マスコミが事前に情勢報道したとおりの決着となり、裏金問題で業を煮やした国民が、自民党に対して厳しい民意を突きつける事態となった。ゴールデンウィーク前半のマスコミ報道は、この問題に関心が集中している。日経新聞は、何と開票スタートから30分後の 4/28 20:30 のタイムスタンプで社説を上げ、「補選全敗で崖っぷちに立った岸田政権」と見出しを打っている。この早業からは、事前調査でこの結末を十分に確信し、予め原稿を準備していた編集部の内情が窺われる。与野党一騎打ちの対決構図となった島根1区は、名にし負う「自民王国」でもあり、最も注目された選挙区だったが、大差をつけて立憲元職の亀井亜紀子が自民候補に圧勝した。(上の写真は朝日新聞)

島根1区の情勢報道を目に止めたのは、投票一週間前の 4/21 夜である。地元紙の山陰中央新聞が、独自に電話調査した内容を書いていて、亀井亜紀子への支持が無党派層の6割超に及んでいる事実を報告していた。記者の興奮が伝わる記事だった。地元紙だから、ずっと保守王国島根の政治意識に寄り添ってきた新聞社である。島根県の政治の伝統と慣習に馴染み、その人脈と秩序の中で生きている県のマスコミ企業だ。一週間前にこのような報道をすることが、地域の選挙にどのような影響を及ぼすかの責任感覚も当然あるだろう。その上で忖度なく発信されたこの記事は、地元紙の大きな衝撃を伝えていた。まさに、亀井亜紀子の訴えが有権者に響き、共鳴が起きていることを証明していた。この地元紙の記事が出る前までは、島根1区は伯仲で接戦であり、勝敗はもつれるだろうと誰もが予想していた。

だが、この報道から流れが一気に変わり、自民全敗が既成事実となった。マスコミの政局の関心は、岸田降ろしの行方の何如となり、この状況では誰が新総裁になって解散総選挙をやっても自民党が惨敗するのは確実だから、無理に岸田降ろしに動く政局はないだろうという見通しとなった。岸田降ろしも解散総選挙もなく、9月の総裁選が政局の本番になるだろうという消極的な観測と展望が支配的となった。立憲民主党の方は、補選全勝の余勢を駆って国会の特別委の審議で主導権を握り、規制法改正の中身で満足のいく成果を出すべく岸田文雄を追い詰めてゆくだろうし、国民世論の追い風を受けて6月会期末に不信任決議案を出すだろう。5月は、例えば 連座制 の適用導入で岸田文雄がどこまで野党に譲歩するか(それは同時に麻生・菅・森・二階の反発を抑えて党内調整できるか)が焦点となると思われる。

4/21 に山陰中央新聞の記事を見たときは驚いたし、正直、感動を覚えた。国民の自民党政権への不信と不満は根強いものがある。その内実を観察するなら、単に裏金問題に対する憤激だけでなく、他の要素もあり、特に円安による物価高が生活を直撃している経済禍の弊害が大きいと思われる。想起するのは、3週間前の 4/12 に行われた韓国総選挙で、事前の予想を覆して革新系野党が大勝した事実である。長ネギの絵に象徴される物価高の問題が争点となり、生活に困窮する庶民の怒りが爆発した選挙結果となった。日本の今回の補選も、同じ背景と動機の下で民意が動いたと分析できるのではないか。マスコミは、円安による物価高に呻吟する庶民の姿を正しく報じない。円安のニュースでは、必ず、日本に遊びに来て歓んでいる外国人観光客の姿を映し、円安の進行を肯定的な経済現象として報道している。それは、マスコミが例外なく、自民や維新の立場に偏った報道機関だからだ。

なので、マスコミ報道を見て聞いて、それを客観的に正確な説明だと信じるかぎり、島根1区で自民候補が大差で負けている事実は分からなかった。せいぜい拮抗して競り合っているという程度にしか理解できなかった。裏金問題に対する自民党への批判は大きいけれど、何と言っても島根県は「自民王国」であり、たとえ立民候補が勝ったとしても票は僅差になるのが常識的な予測と言える。だが、実際には、投票のずっと前から民意は決定的だった。最初から大きな票差が開いていて、県の自民党組織は勝負を諦めていた。裏金問題への怨嗟と憤慨だけが今回の補選結果の要因ではないのだ。いま自民党は、何とか時間稼ぎをし、裏金問題を国民が忘れるタイミングを計っている。次の解散総選挙までには感情の熱りは冷めているだろうと考えている。だが、裏金問題への関心は薄れても、物価高への悲鳴と疲弊は終わらない。

東京15区の選挙結果はさらに興味深い。実に意外な結果だったし、これまた、一週間前のマスコミの情勢報道の時点で、一体何が起きているのだろう、本当にこの予想どおりになるのだろうかと目を疑う中身だった。結果的に、ほぼマスコミの情勢調査どおりの投票構成となり、立民候補が無難に勝利し、都ファの乙武洋匡が第5位の位置で落選した。結果を前にして、我ながら年をとったと思う。私は、マスコミの情勢報道を見て信じられなかったのだ。勝つのは(裏金問題で追い風を受ける)立民新人だとしても、次点は僅差で乙武洋匡だろうと推断していた。二人の激戦の図しか想定できなかった。小池百合子がウグイス嬢で張り付き、公明(学会)の支援が囁かれ、国民民主の玉木雄一郎が渾身で支援した、いわば与党候補で知名度抜群の乙武洋匡が大惨敗とは。これまた、公示の時点で勝負が決まっていて、選挙戦は余興だった。

選挙の構造が変わり、有権者の気分が変わっている。新時代の選挙になっている。戸惑いを覚える。だが、一つだけ間違いなく言えるのは、東京15区も島根1区と同じで、有権者は物価高の生活困難に直面していて、従来のアベノミクスを推進してきた与党にNoを突きつけているという現実だ。補選の結果が出て2日以上経ったが、マスコミ報道からそのコメントは発せられない。また、東京15区補選で顕著なのは、安倍晋三の政策に近い政党や勢力が大負けしたという事実である。自民は不戦敗。小池都ファは惨敗。維新は次点にも入れなかった。台風の目と言われて焦点となっていた超極右も、蓋を開ければ些末な諸派の得票数しかなく、存在感を全く示せなかった。総括すれば、安倍晋三的な右翼色の強い、ネオリベ志向が明確な勢力や候補ほど、今回の選挙では拒否の民意が示されている。次点には、山本太郎が応援に入った須藤元気が滑り込んだ。

マスコミは何も言わないけれど、安倍政治に対する否定と離別の民意こそが、この選挙で現れた国民の政治選択だったのではないか。アベノミクスに騙されたという民意の表明だと断定してよい。したがって、3補選、特に東京15区の結果は、今後の政治に期待を持たせる明るい材料だと言える。維新について言おう。維新は 4/21 の大東市長選で公認候補が敗北した。4/7 の高砂市長選でも敗北していて、神戸新聞によると兵庫県内の市長選で6連敗を喫したとある。昨年11月の読売の記事を確認すると、10/22 の橿原市長選で敗れ、11/12 の八幡市長選で敗れと、お膝元関西の首長選を次々落としていて、「万博建設費用増額でイメージダウン」「頭打ち」と読売に書かれている。維新の退潮傾向は明らかで、その最も大きな要因は万博への国民一般の不評不興だろう。自民にとっての裏金問題という足枷が、維新においての万博問題という負の構図になっている。

いま解散総選挙があれば、自民党も相当な議席減が予想されるけれど、それ以上に打撃を受けるのは維新ではないか。維新は、前回2021年の衆院選で、公示前11議席を30議席増やして41議席に伸ばしている。比例票は800万票も獲得して大躍進を遂げた。立憲民主党を叩き潰して野党第一党になり、自民党と二大政党制を実現するのが目標だと豪語し、そこへ向けて着々と歩んでいるはずだったが、現在、大きな挫折に遭遇した感を否めない。大阪・関西万博がどうなるか、どうするかは重大な政治問題に違いないけれど、普通に考えて、それが強行されても、成功したという評価や認識にはならないだろう。今年の秋からは一段と猛烈な物価高が襲来する。庶民層は今よりも激しく厳しい生活防衛を余儀なくさせられ、子どもの教育費の切り詰めや耐久消費財の買い替えの先送りなど生活水準の切り下げを強制される。そうした環境の下での万博開催になる(仮に開催されても)。

アベノミクスの総括という問題は、マスコミや論壇では可視的には始まってないが、国民の意識の底流ではすでに始まっていて、今回の3補選のような政治現場で表出している。そしてまた、今後、金融市場において大噴火して全てを総決算する不気味な予兆を示している。アベノミクスという悪魔の経済政策を10年も暴走させて止めなかったツケは、日本国民が払うのであり、安倍晋三を国政選挙で6回も連勝させた主権者の日本国民が責任をとるのである。われわれは責任から逃れられない。ウェーバー的に言えば、経済市場を動かす者も悪魔と手を握るのであって、悪魔の力は情け容赦のないものだ。経済の暴力も凄まじいものだ。これからの日本経済の絶望的変化は想像もできない。恰も、その地獄図を微かに予感する如く、4/28 の3補選で有権者はアベノミクスにNoの審判を下した。解散総選挙は1年半以内にある。いつ行われても、アベノミクスを否定し清算する結論となろう。

補選結果を解説するマスコミ報道は、7/7 に投開票の東京都知事選について言わない。口を噤んでいて、公共の電波に乗る話題から外している。あと2か月後だ。9月の総裁選は大きな政治のヤマ場だけれど、その前に東京都知事選がある。東京15区補選の結果を凝視するかぎり、とても無風で小池百合子が3選確実という情勢ではなく、正念場に違いない。波乱が予想されるし、結果が9月の総裁選に大きな影響を及ぼすことは明らかだ。東京15区補選は東京都知事選の前哨戦の意味があった。自民候補が不在だったとはいえ、何とも魑魅魍魎な、奇妙に票が分散した、分析と解説が難しい、けれども歓迎できる政治結果が現出した。7月の都知事選も、何となく、このカオス的様相を引き継いだ選挙戦になる気配がする。長妻昭が仕切って安心の野党陣営は、有力な候補を構えて準備を始めたそうだ。与党側(都ファ・自民・公明・国民・維新 = 安倍路線の右翼ネオリベ陣営)はどう出るのだろうか。

政治の空気が変容した。ラディカルな契機が政治空間で輪郭を作っている。今、日本は、経済の激動と政治の変動が同時に起きるドラスティックな季節を迎えている。 


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