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ガザから50万人のパレスチナ難民を日本に受け入れよう - 杉原千畝の人道外交を再び

日本時間10月29日深夜の報道では、ガザの死者数が8005人となった(ロイター)。イスラエル軍は戦車など数百台をガザ地区に侵入させ、北部に進駐したまま攻撃を続けていて、事実上、地上侵攻が始まっている。どこまで犠牲者が増えるか想像もできない。ミサイルや白リン弾等の空爆だけで7000人を殺害した。その半分が子どもである。2014年の地上侵攻の死者数が2143人だったが、空爆だけでその3倍以上を殺し、地上の建物を破壊した。過去のイスラエルのガザ攻撃の絵と比較して、今回はミサイル爆撃の破壊力の度合と態様が違う。音が違う。昔はドーンという爆弾らしい轟音だったが、今回はシャッという鋭い金属音に変わっている。破壊力と殺傷力が大きくなった印象だ。建物の残骸が四方に飛び散らず、黒煙と共に高速で真上に上がる。(写真は ABC News

明らかに爆弾の性能が向上している。ガザを攻撃破壊するイスラエル軍の武器火力が日進月歩で向上している点は、岡真理が講演の中で語っていた。思えば、イスラエルは軍事技術大国で、幾つかのハイテク分野ではアメリカをも凌駕する勢いだと評価されている。イスラエルはどうやって軍事技術大国になり、攻撃兵器の性能向上を達成したのか。それを可能にした条件があったからだ。それはパレスチナとの「戦争」であり「人体実験」の積み重ねである。他の国ではそれは不可能だった。許されなかった。だが、イスラエルだけは戦争犯罪の殺戮の反復・検証が許され、武器の殺傷力向上の「実験」が無限にできたのだ。無抵抗の生身の人間集団を相手に。逃げ場のない監獄に閉じ込め、一発一撃で最も効率的に殺傷する、空対地・地対地のミサイル開発が存分にできたのだ。

イスラエルはガザを「実験場」にし、何度も何度も新開発の武器を試し、威力を確認しつつイノベーションを重ね、他にない装備を開発し、それを外国に売って武器輸出大国になっている。イスラエルが軍事技術大国の地位を得るにおいては、夥しい数の、子どもを含むガザの無辜の人々の血が流されているのであり、国際法上の人権を認められない、犬畜生同然に貶められて、何の罪もないのに、残酷に殺戮されるパレスチナ人の屍体の山があるのである。地獄の中で苦しみ死んだ彼らが、イスラエルの軍事技術大国と経済繁栄に貢献しているのだ。あのシャッという不気味な爆音の、どこから飛来したか確認できない、殺傷能力の高い高性能の爆撃兵器は、おそらく、日本も戦場になる第三次世界大戦で使用されることだろう。われわれも、あのミサイル攻撃の被害者になるに違いない。

ガザの惨状については、それなりに日本のマスコミも報道している。だが、熱が入っておらず、普通の人の心がない。虐殺への抗議の言葉がなく、不条理で残虐非道なジェノサイドへの拒絶や批難の意識がない。テレビに登場する専門家たちは、学者の肩書きの者(田中・高橋・錦田)はイスラエルの虐殺行動を当然視した口調を続け、元自衛隊の軍事専門家たちはイスラエル軍目線で侵攻作戦を解説している。ガザの人々を救援しようという募金の呼びかけもない。ウクライナ戦争では頻繁に機会コールされ、テレビ報道で窓口が紹介された。世界各地の内戦禍では難民支援が呼びかけられる。災害でも呼びかけられる。だが、虐待された末に無慈悲に殺戮される無辜のガザの人々への救援は呼びかけられない。「人道危機」という他人事の響きの言葉が、いかにもアリバイ的な調子で軽く流れるだけだ。

耐えられない。耐えられないから、夢想的な計画と提案を書いて自己満足的な抵抗の証とする。ガザの難民のうち50万人を日本が救援して移住させる。嘗て1940年、リトアニアのカウナス日本領事館の領事代理だった杉原千畝は、ナチスに追われたユダヤ人を救うべくビザを発給し続けた。「命のビザ」の物語として有名で、日本と日本外交の重要な資産となっている。この史実と美談のため、日本はユダヤ人一般から永久に感謝と尊敬を受ける立場を得ていて、繰り返し称揚されている。wiki には「一時に多量のビザを手書きして万年筆が折れ(た)」とか、「一か月あまり寝る間も惜しんでビザを書き続けた」とか、エピソードの紹介がある。領事館が閉鎖になって「ベルリンへ旅立つ車上の人になっても、千畝は車窓から手渡しされたビザを書き続けた」。感動的な命の物語であり、日本人として誇らしい。

ならば、迫害され絶滅されようとしているパレスチナ人にも、同じ対応をしよう。今日、ユダヤ系の人々の世界経済と世界政治への影響力は絶大なものだ。今日のみならず、西洋では過去からそうだった。ユダヤ系の人々を日本は敵には回せない。「東洋のシンドラー」杉原千畝は偉業を成し遂げ、日本人に大きな遺産と名誉を与えてくれた。その慈悲と功績を噛みしめつつ、パレスチナ人やイスラムの人々と今後の日本との関係を考えたとき、日本がパレスチナ人を救出する試みは有意義に違いないと確信する。当時のユダヤ人も絶滅の危機にあった。今のパレスチナ人と同じ、世界政治の中で牛や豚同然の屠殺運命の哀れな「動物」でしかなかった。だが、もし仮にユダヤ人が絶滅を免れたなら、戦後に彼らがどのような地平を築くかは、少し知性のある者なら容易に見通せたように思われる。パレスチナ人はもともと優秀な民族だ。生き残って自由になれば、新しい世界で大いなる存在になるだろう。

単なるディアスポラの一団では終わらないだろう。一方、日本にもイスラム教の人々が確実に増えている。その主力はインドネシア人労働者で、現在8万3000人いて急増中と説明がある。技能実習生の制度で来日し、増加率のペースは最大人口(46万2000人)のベトナム人を上回る趨勢だ。ベトナムは仏教(儒教と道教が混ざった)の国で、宗教・思想の地盤・地質が日本とよく似ている。ゆえに、ベトナム人労働者の「輸入」を最優先に拡大しようとする日本政府の論理と動機は理解できる。だが、経済成長が著しいベトナムでは、円安が不可逆的に進行する日本は出稼ぎ先として価値と魅力を落としていて、来日し移住するベトナム人労働者の減少傾向は否めない。今後はミャンマーを主力に切り替え、バングラデシュやパキスタンを視野に計算を立てる必要に迫られるだろう。すなわち、イスラム教徒の人々である。

日本も、欧州各国と同様、人口の中にイスラム教徒が一定割合占める国に変貌してよいかもしれない。何と言っても、日本は世界の先進国の中で最も少子化と高齢化の激しい国であり、その対策を緊急に求められている国である。そして、世界の中でイスラム教徒は人口を増やし、人口比を増やしている現実がある。イスラム教徒が多い国で少子化に悩んでいる例はあまり聞かない。私自身は、労働力不足を外国人労働者の「輸入」で埋めるという政策には反対で、その持論を長く唱えてきた。上野千鶴子のように、みんなで貧窮して滅びましょうという発想でもなく、日本人の若者に満足な定収と定職があれば少子化問題も解決できるという認識と展望を論じてきた。その考え方は基本的に山田昌弘と同じである。が、今回、ガザ問題を受けて、50万人のパレスチナ人を受け入れ、イスラム教徒を包摂する国になってもよいと一歩踏み出した。

上はガザ地区の年齢別人口構成を表したグラフである。2016年の統計だ。岡真理が講演の中でも紹介していた。一瞥して分かるとおり、子どもの人口が圧倒的に多い。理想的なピラミッド型のグラフ図を描いている。日本人からすれば羨ましい人口年齢環境である。つまり、ガザから50万人のパレスチナ人を日本に救出し移住させるという施策は、大量の子どもと若年労働力を日本社会に引き取るという意味になる。彼らは、賃金がどうとか職種がどうとか言う前に、爆撃と飢餓と侵攻による死が目の前に迫った人々であり、杉原千畝の前のユダヤ人と同じかもっと厳しく切迫した人々だ。今、日本国首相が、ガザから50万人を日本に受け入れますとコミットすれば、手を挙げる自治体は多いだろう。高齢化に悩む市町村や離島から「ぜひ欲しい」と声が上がると想像される。彼らは、小さな子どもを何人も連れて過疎地に定住してくれる人々だ。

言葉や宗教の問題、教育および地域社会生活上の手間と煩瑣を割り引いて考えれば、彼らは、いわば日本の経済社会が喉から手が出るほど欲しい宝の山の存在だ。手間と煩瑣の問題は、国が一定の予算を割き、地域の人々の善意と温情で問題解決することができる。純エコノミクス的に当該政策のバランスシートを考量すれば、また、長期歴史的な(杉原千畝的な)パースペクティブで外交判断すれば、日本にとって価値ある財産・資源となるだろう。乾坤一擲で決断・決定してよい政策だと思われる。今回、NYやロンドンやパリでデモする若い群衆の勢いと力強さを見て、直観したのは、彼らが将来の世界政治を動かすキーパワー・キーモメントになる図だ。彼らが、きっと今よりも大きな実力と能力を持ち、世界の政治と経済を動かすようになる。現在はインドばかりが注目と脚光を浴びているけれど、欧米に移り住んだ若いイスラム系のポテンシャルを侮るべきではない。


ガザから50万人の難民を日本に避難させる。彼らの安全を日本が守る。日本で元気に働いて暮らしを立ててもらう。日本で希望を持って生きてもらう。日本で子どもたちが成人し、日本社会のために活動し貢献してもらう。そうした方向へ大胆に舵を切ってよいのではないか。私の選択と提案である。弱きを扶ける武士の伝統精神と倫理的勇気を世界に示そう。残りの150万人は、やはり少子高齢化と人口減少に深刻に悩む韓国や台湾や中国やロシアが分担すればいい。この地獄には堪えられない。耐えられないから私は空想をする。空想論を書いて抵抗した気分になるのだ。無力な市井の人間だから。


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