善意のこと

　人間はやはりその節々になにか企んでいるような気がしてならない。無意識に行う善意の正体とはいったい何なのだろう。善意にもなにか裏があるようである。こうなると人間不信の一歩手前だ。しかし、それがいかようであっても私はそれを改めたいわけではない。ただ、肯定して赦す。これも言ってしまうとやさしさなどではない。 

　私が他者を赦すのは、もしものときに私もまた他者から赦してもらうためである。ならば、この憎たらしい上目使いともとれるこの行為は善意と言えるだろうか。なにか他者というものを踏み台にしてその先にある自分への利益を見ているようでならない。それは名誉のためだとか、はたまた道に迷った人に行き先を教え、そのアヤフヤな説明にますます迷ってもその残念な結果には目もくれず独りでに満足する奴らの真意はやはり他者のためにはないはずである。 

　そうだとするならそれを「善意」とか「あなたのためを思って」などという紛らわしい名前で呼ぶのをやめていただきたい。しかしながら、この曖昧にせざるおえないこの力不足な部分に人間らしさを感じたりもする。 

　とにかく、この善意とやらは恐らくどうしたらよいか分からない場面でのもっとも穏便に済ませるための安牌な手段でしかなにのではないか。その場面においてもっと適した行為があっても不思議ではないが、それは玉石混交になってしまって私には判別ができない。もしくは、そんな大層なことは他者がわざわざ施すものではないのかもしれない。