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日記と珈琲_8月

からだの8割が「珈琲と映画と本」で出来ている医学生です。医療現場の近くに立ち、弘前に住みながら書いた日記をまとめました。


08/01
9時半、ゲストハウスの場主に別れを告げ、宿泊客の韓国人青年を乗せて松島に向かった。30分の道すがら、日本人とのハーフである彼が時々スマホで検索して翻訳しながら韓国の車の話や仕事の話をしてくれた。Sは、津軽弁の訛りをちょっと含んだ優しめの日本語で伝えようと、車の話やお盆の風習をするが、ときどき表現に難渋して困っていた。ぼくは英語を交えて解説し、音節に注意しながら彼の日本語のレベルに合わせ柔らかくして話した。バックミラーの彼が理解して笑顔になるとぼくも救われた気分になった。
11時、松島を周遊する観光船「仁王丸」の乗車を見送って、彼との短い旅が終わった。
13時、後輩の勧めで青葉区の〈Northfields Sendai〉でティータイム。渋ビル最上階にある隠れ家的カフェは、イギリス人と日本人の夫妻が淹れる紅茶の匂いで迎えてくれた。Sは甘いものに目がない。ショーケースの菓子をまじまじと眺めて、美味しそうなものを一つだけ選ぶのが難しそうだった。ぼくはサラッとハニーアーモンドローフを選んで、ティーのつもりがフェンティマンスのロゴが目に入り、留学期の懐かしさで選ばさった。
🐈

08/02
珈琲を淹れて、仕事をして、勉強をして、郵便局に行って履歴書を速達で発送して、〈景色デザイン室〉のドキュメントブック「北イタリア、『プロジェッタツィオーネ』をたずねて」を受け取り、執筆をして、家での休息に身を委ねていた。
YADORIGI COFFEE ROASTERS EL SALVADOR ANGEL 抽出。🐈

08/03
盛岡さんさ踊りを初鑑賞。大学の後輩Tと二人で。〈盛岡城跡公園〉で観光客向けの講習を受け、さんさ踊りを身体に染み込ませるがしかし難しい。踊り手の動きを真似して腕を伸ばし、しならせ、内に、外に、腰を揺らして、右に、左に、連動して肩が右に、左に、沈み、浮かび、右足を左に寄せ、戻し、やわらかな手先を畳んで、開いて、静止する。太鼓に合わせ繰り返す。多関節の運動は、多項式の計算のように非常に凝って考えるのが難しい。ダンスを避けてきたぼくが必死について行こうとする様を、Tの目に映っていたと思うと恥ずかしい。祭りが始まり、宿泊先の客も揃った沿道で鑑賞した。通りを埋め尽くす太鼓の音を聞き、老若男女の一糸乱れぬ踊りを見て、ぼくの首筋が震えたのがわかった。観光客も加われる最後の集団に混じって、ぼくらも踊る。踊る。踊り狂う。そこに恥はなかった。輪踊りして、ついに果てる。Tは「よねさん、いまの日本には祭りが必要っす」と言って何かに気付いた様子だった。
YADORIGI COFFEE ROASTERS EL SALVADOR ANGEL 抽出、スターバックス コールドブリュー 奢り。🐈‍⬛🐈

08/04
10時の鐘。喫茶店の古時計が鳴った。どぉーん、どぉーんと低い金音の間に着席し珈琲を一杯。カップに金が装飾され、金の思案に沈んだ。
13時、〈BOOKNERD〉の店の奥にある積まれた本をみて、職人だなぁ、と思った。ぼくはこれほどの本を所有したことがないからわからない感覚だった。
14時、Tが何か笑っていた。「さっき、よねさんがゲストハウスのクロアチアの女の子に、なんて書いてるのって聞かれて『ぼくにはこれしかなかった。(木楽社 出版)』を英訳したやないすか。That was all I had.て。ネガティブになるかポジティブになるかで訳が変わる。ぼくね、あれから考えててなんやろて思ってたんすけど、さっき店入ってポスター見てびっくりしたんすよ」と言って写真を見せた。BOOKS ARE MAGIC。ハッとした。そうか!allは本だった!カラフルな文字でMAGICと書かれたポスター。シンプルで含みのある英題に脳が震えた。この感性、言葉の嗅覚、唯々、平伏するばかりである。
羅針盤 オリザ 700円、COYOTE 本日のコーヒー 480円、モンタン 食後のコーヒー 無料。🐈🐈‍⬛

08/05
昼、森田真生『計算する生命』を読む。概念の展延を考える。
18時、韓国語の「下戸」を意味する「酒ゴミ」という語を知る。
以下、下戸についてWEBメディア「酒みづき」から引用。
下戸の由来は、一説には約1300年前に制定された大宝律令がきっかけといわれています。(中略)階級制度に従って婚礼のときに飲むお酒の量も、階級によって異なっていたそうです。例えば、上戸は8瓶、下戸は2瓶と決まりがありました。このお酒の量の差から、後にお酒が飲める人を「上戸」、お酒が飲めない人を「下戸」というようになったといわれています。
また、酒ゴミについて韓国旅行情報サイト「コネスト」から引用。
韓国で「お酒に弱い人」は、俗に「알쓰(アルス)」と呼ばれます。「알코올(アルコル)=アルコール」と「쓰레기(スレギ)=ごみ」の頭文字をとって合わせたもの。
2014年韓国のバラエティで芸能人が作った新造語で、主に若者の間で使われます。
YADORIGI COFFEE ROASTERS EL SALVADOR ANGEL 抽出、COFFEEMAN good タンザニア アカシアヒルズ 670円。

08/06
昼、暑い。街を歩いていて涼みたくなった。水がある場所に寄りたいと思って、胸肩神社、また歩いて、木陰が欲しいと思って、松森町ふれあい広場の公衆トイレにある木製ベンチ。休み休みに目的地に向かっていた。その都度、祭りの準備をする人たちの往来に気付いた。暑さの中で一所懸命に焼きそばを作って、ござを敷いて、自転車を漕いで、バスに乗って、何かに向かって動いている。さまざまな暮らしの断面が彩りの中に溶け込んで、夏の景色を一枚にした。
14時、エスカレーターを登る。前の男子が、顔を、前の女子の背中に埋めた。学生カップルだった。刹那、男がはみ、唇だけで服越しの背中を撫でていた。愛に飢えたのだろうか、身体表現としては親にする子どものそれと変わらないが、さすがにこれは、過度な幼稚性に思われた。
15時、スタバで『計算する生命』を読み、新たな言語を開発して数学を規定した、数学史のダイナミックな転換点を知る。自然言語では厳密さの強度が足りないんだな、と思った。
YADORIGI COFFEE ROASTERS EL SALVADOR ANGEL 抽出、クラフトボス 無糖ブラック 147円。

08/07

08/08
外に出なきゃと思った。机に向かって何かしらのことに集中して、昨日からほとんど外界に接していない。夕方にようやく苦しいくらい空腹になって、決心がついた。「食わねばならない」近所のラーメン屋でつけ麺を食べた。腹が満たされると、今度は精神も満たしたくなる。本屋で『文學界』を買った。芥川賞作家のエッセイを読もうと、立地のいいベンチに掛けようと散歩をする。ラーメン屋の側の川端に良いベンチがあり、そこで読んだ。日がすっかり落ち、薄暗がりで完全に見えなくなるまで読むつもりでいたら、蚊がそれを邪魔してきた。右環指側部、右肘部、左足底部、左内果、後頭部に違和感が働く。まだ明るかったがその場を離れた。外界って感じがした。
KEYAKI COFFEE Guatemala Altos de Medina Washed 抽出。

08/09
9時半、父の入院手続きに同席。10時までに窓口へ、と指示されていてたが車問題が煩わしかった。
病院HPには「駐車場が狭隘(読み きょういつ、なんて難しい単語)なため、入院される患者さんの自家用車は駐車できません」とあり、だから公共交通機関か誰かの車で移動させるのだが、父の場合、実家から車で移動し、市内の親戚の家に車を預け、そこでぼくが車で拾い、病院に連れて行ってやった。めんどくさい。直接実家間の送迎をと思ったが、退院日に予定が入ったせいでこんな目に。車社会の人間は公共交通機関を意地でも使わず、今更ながら使えないことを病院側は認知しているのだろうか。昔、「めまいがする人」が車で受診してきたので先生の間で大笑いを掻っ攫ったことがあったが、今考えると、移動手段がこれ以外にない「車社会人」にとっては苦肉の策だったはずだ。
10時、入院棟に入る前に手続きをして、「面会者」と書かれた青いシールを貼らされた。ネームプレートで往来できた自由を思い起こす。荷解きを手伝って別れた。
KEYAKI COFFEE Guatemala Altos de Medina Washed 抽出。

08/10
9時、ぬるい風、丈の長いカーテンがゆったり揺れるほどの風。湿度も程よく気持ち良い。コインランドリーに向かう道で大きく息を吸った。台風が近付いている。
16時、高校の同級生から頭痛の相談でLINEしたとき、とっさに「疾患イベントの可能性も否定できない」と言うと、彼女は「イベントっていう表現いいね」と言って喜んでいた。
KEYAKI COFFEE Guatemala Altos de Medina Washed 抽出。

08/11
朝、ケサランパサランが舞う小道を抜けて後輩の家に向かう。集簇するそれを見つけ謎が解けぬか喜びしたが、見たものを幸福にするという伝承を思い出してここでは明記しないことにした。
13時、県道7号を走ると、弘前方面に向かう車列のナンバープレートに目が行く。ほとんどの車は青森か弘前だが、明らかに県外のナンバープレートが多く目立つ。旅行か、帰省か。
14時、〈青森県立美術館〉で小島一郎に関する講演会を拝見。彼は生誕100年……安部公房と同い年。小島は39歳で急逝しているが、生前に唯一出版した『詩・文・写真集 津軽』(新潮社)について大学教授が教示する。白神山地の水が卓上にある。青森のゲストにはどこもコレ。
17時、帰りの国道7号は渋滞。峠で小雨が降る。渋滞を抜け、峠を越えると雨は止んだ。
23時、ベットで〈BOOKNERD〉店主のエッセイ『本ばかり読んできたけれど。』を読む。静かな夜の玄関先の鈴虫がときどき小休止するので、気を取られ、読書の手が止まる。

08/12
14時、祖父の本を整理する。本棚三つ分を畳一枚分の床にぎちぎちに並び立て、売るか、捨るか、譲るか、貰うかの四択に落ち着きやすくした。歴史の本がたくさん残ってある。昔の本、資料で価値のわからないものは親戚のおじさんに見てもらうことにした。整理しているところを見た祖母が「川端康成だば読んだなぁ」と呟いた。「ぱぱは、いっつも、お酒飲んでがら布団さ入って、ほれ、本読むんだぁ」と、いまのぼくとあまり変わらない読書スタイルを教えてくれた。いとこ家族もお盆の時期で来ていて、母がぼくのキャップ帽に目が留まって聞いてきた。この前の宇多田ヒカルのライブグッズだった。母が「そう、宇多田ヒカルなんだよねぇ」と言って「あぁ、やっぱり」と伯母。伯母は初めて知った様子なのに納得していた。「りゅうちゃん生まれての頃はよく泣いててね、CDで宇多田ヒカルの曲かければぴたって止んでたもんね」母もぼくもキョトンとしていた。ぼくの誕生日は12/7、宇多田ヒカルのデビュー日は同年12/9。

08/13
朝、墓参り。海が見える父方の墓。
夕、墓参り。林檎畑と田んぼが見える母方の墓。
夜、祖母のどくだみ茶を飲んだ。あれ、おいし。よく調べたらドクダミって道端に咲いてたあれだったのね、と祖母とケラケラ笑っていた。居間の奥から干したドクダミを見せてくれた。青い紐で縛られて、茶色に萎れている。これがあの爽やかな味になるのね……ドクダミ……chelmicoの「爽健美茶のラップ」が頭の中でループする。
「ハトムギ 玄米 月見草 ドクダミ ハブ茶 ナンバンキビ いろんなことが あるけれど 私は 今日も 生きていく」

ぼくは、薄情だと思う。祖母の家にちょっと行って、孫の顔を見せたら見せたで、ぷいっと帰ってしまう。予定があるからと言って、どこかに行ってしまう。祖母は、車庫に出て見送ってくれるのだが、窓の奥にいる祖母はいつもぼくを見ない。視界から消えたように手を振っていることがある。不思議だな、と思うけど、家で歓迎する体力の果てにある安堵の顔なんだろうなと思う。
料理のアイデアが湧く間は、元気だよ、と言った祖母の認知機能も、あとどれくらいなのかが心配になるのなら、もう少しだけ一緒に居てくれよ、ぼく。

08/14

08/15
11時、旧知の仲の焙煎士と打ち合わせ。カレーを食す。
23時、早く寝ようとベッドに籠ったがなかなか瞼が落ちずYouTubeをサーフィンしていたら、ある芸人が歯を矯正した、という動画が目に留まり、ぼくも矯正歯科に通っていた手前、懐かしさと興味本位で歯列の劇的ビフォーアフターを眺める。他にもないかな、と「歯科矯正」とだけ検索窓に打ち込んで、2、3年の変化を3分程度の動画にまとめたものをさらに眺めた。感動した。歯(というよりかは顎骨)は、外力が加わると本当によく動いてくれる。前後にあった歯が横並びになり、隙間を生み出して、中心を決め整列。やってる本人は辛いが達成感はえげつない。ぼくも鏡の歯列を見るたび、他人に褒められるたび、親に感謝することがある。
ぼくは、新体操競技の選手のようなアクロバティックな動きに憧れて実家の物干し竿にぶら下がって遊んでいた小学2年生のときに上の前歯を2本折った。2本の乳歯は麻酔下のうちに取り除かれ、将来を憂慮した祖父が歯科矯正を提案したらしい。田舎なりに歯科矯正の概念があって本当によかった。
ギャラリーカフェ ふゆめ堂 コーヒー 500円。

08/16
8時、父退院。するするっと手続きを済ませて、車に乗り込む。最初に何食べたい、と聞くよりも早く入院中に考えていたご飯の話になった。〈高砂〉の天ぷらそば、〈焼肉・冷麺 中道〉の焼肉、〈みそラーメンの店 峰〉の味噌ラーメンがいいだの、出るわ出るわ。結局、彼の希望は叶わない。ぼくがInstagramでチェックしている〈大衆中華 モアイ食堂〉が、3月以来の「回鍋肉」が週替わりメニューに登場したと言ってしまったからだ。数年前、弘前に住む父の友人が目をカッと開いて「回鍋肉」を激賞し、あの味はなかなか食べられない、と言っていたことを同時に思い出してしまったのだ。
15時、〈弘前れんが倉庫美術館〉に行く。蜷川実花の写真に感動した父が、ホーム画面さすがな、と言って撮ると「これ、俺が撮ったみたくなってね」と怪しい笑顔。退館してすぐ、知り合いの美術館スタッフに引き止められ、談笑していたら、父を見つけて「いつもお世話になっております〜自慢の息子さんですね」と褒めた。満面の笑みの父は、恥ずかしそうに離れていった。
18時、高校の親友と鍛冶町へ。「知り合って10年経ったんだな」と感慨深い一言。

08/17
昼、飲み明かした彼はぼくの家に泊まり、ローソファに横たわって、二日酔いの身体を寝て癒していた。「ありがとう、おかげで回復しました。長居したな」と言って家を出て、愛車のエンジンを轟かせて帰った。見送ったあとスツールの上でしばらく動画を眺めたり本を読んだりしてだらだら過ごした。ローソファに転がると、彼の残り香がした。一瞬驚いてしまった。家に、他の匂いがあることが慣れていない独居者の違和感だった。
22時、執筆。1日に2000文字くらいしか書き足せていないが、物語りの肉厚さが目立ってきた。3ヶ月以上かけて書いた文章。徐々にスクロールする長さが長くなっていることがわかる。映画『ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー』の創作論を思い出して、伝える文章を意識して構成を練りたい。
KEYAKI COFFEE Guatemala Altos de Medina Washed 抽出。

08/18
10時、ハン・ガン『すべての、白いものたちの』を読む。盛岡観光の〈BOOKNERD〉で積み上がった本の山の中腹で見つけたものだった。人生で初めて読んだ韓国人作家の本は、その独特な詩性に支えられた小説構造で伝わった美しい言葉で頭がいっぱいになった。
15時、アラン・ドロンの訃報に触れ、『太陽がいっぱい』を思い出した。
大学1年の春、『太陽がいっぱい』が好きだと言った同期と一緒に、それを鑑賞した。アラン・ドロン演じる主人公が海上の日射を浴びて罪の日焼けをする様に感動し、加えて男前さに釘付け。その夜までは、珍しい映画は一人で観るのが常だった。実家のテレビに流れるWOWOWの映画、小山薫堂さんの文と長友啓典さんのイラストで紹介する佳作・名作をたくさん観て悦に浸る高校の頃、映画の話は誰ともせず、せいぜい、父か電車通学が一緒の同級生。「ぼくの映画館」に、大学の彼は壁を破って入ってきた。あれが映画好きで集まった映画探究の第一歩だった気がしている。ぼくの映画愛が深くなる。
KEYAKI COFFEE Guatemala Altos de Medina Washed 抽出。

08/19
16時、りえさんと〈弘前公園〉を散歩すると大抵、17時に有料区間の無料開放に合わせて本丸に行って岩木山を望んでいる。ベンチに腰掛けて陽が沈む様子を見て、だらだら会話をするだけで心の何かが気付いてくれることがある。「よねやっちは、どうして……」それは自分の理解とかそんな難しいことじゃなくて、たとえば、人といつもどう話してるのかとか、人間関係をどうやって続かせているのかとか、そういう当たり前を少しずつ言葉にして紐解いていく時間になって、冷たい風にあたりながら、なんだか風流ですね、と心に浮かんで、岩木山の影に隠れる。
名曲&珈琲 ひまわり セットコーヒー 250円。

08/20
関東から友人が遊びに来た。デザイン、芸術、医療の組み合わせに挑む人だったから、文学、文化、先人の話がいつまでも華やいでしまう。太宰治の〈斜陽館〉、五所川原の〈立佞武多の館〉を訪ねて、お盆休みの飲食店に振られながら、ぼくらは北津軽を観光した。猫は自由だからそうではない自分を重ねてしまう、と言った彼女は、猫に触れる感覚を生きがいにしていた。町を歩いて、探しているわけでもないのに猫が現れて、1日に出逢えた猫の数の記録が更新された。
珈琲専科 壹番館 炭焼きコーヒー 450円、モホドリ蒸溜研究所 エスプレッソトニック 550円、カフェホートン カフェ・ルンゴ 550円。🐈‍⬛🐈‍⬛🐈🐈🐈🐈🐈‍⬛

08/21
12時、関東からの友人を乗せて十和田に向かう道中、知り合ったという羊文学ボーカルのLINEアイコンを拝めて大感激。
13時、酸ヶ湯に寄る。入浴料1000円。ヒバ千人風呂で3あくび、玉の湯で2あくび半。
16時、〈十和田市現代美術館〉をトントンと鑑賞。企画展「野良になる」は、幼心に探していた植物の姿をありありと思い浮かばせた。近くの〈十和田市地域交流センター(とわふる)〉の中央にある広場で噴水が出ていて、きゃきゃきゃと幼児がはしゃいでいた。ぼくと目が合ったその子は、顔を凝視しながら噴水を指差す。
17時半、十和田市立中央病院に勤務する先輩とバラ焼きを食べる。バラ肉は、とろろをかけた白米によく合う。
22時、国道7号を走りながら、「ラーメンたべたい」をかけた。カバーが多いこの曲で、矢野顕子は出前のラーメン、NICO Touches the Wallsは即席麺、奥田民生は独りになりたい中年男性のラーメン、そしてライブバージョンの矢野顕子は全て人のラーメンを連想させた。
KEYAKI COFFEE Guatemala Altos de Medina Washed 抽出。🐈

08/22
昼、淹れた珈琲の液面に油膜が張られているのを見る。ぷかぷか浮いているものの白紫色が大理石のような模様に見えて美しかった。浮遊物は、珈琲の油分か、コップを洗って残った界面活性剤か、ぼくの唇の成分か。
夜、YouTubeに溺れて、「Hiroko Yamamura | Boiler Room: Chicago」にたどり着く。驚いた、ぼくはDeep houseやTech系にハマれるのか。身体が勝手に踊っていた。重くて長いリズムを刻むパンク・ロックなスタイルに共感したファンがコメント欄に溢れ、その詩性に愛を感じた。
以下、コメントを抜粋する。
If Hiroko has million fans, then I'm one of them. If Hiroko has one fan, then I'm that one. If Hiroko has no fans, that means I'm dead.
KEYAKI COFFEE Guatemala Altos de Medina Washed 抽出、コーヒーカラーズ 酸ヶ湯珈琲 ぶな林ブレンド 抽出。

08/23
14時、面接。
15時、カフェのマスターが、小説ネタになる?と言って、青森の話をしてくれた。それを、ぼくとSと関東から来た友人が熱心に聞く。「ピラミッドが新郷村にある。縄文の人たちは争わなかった。弘前が珈琲の街と呼ばれる理由は、江戸時代に北方警備のために北海道へ行った武士にはじまる。寒さで死ぬ人たち。どうしようと考え、コーヒーという飲み物を薬とし、煎った珈琲を飲んで浮腫病を防いでいた。当時の珈琲は高価で偉い人にしか飲まれていなかったのが、一般人ではじめて飲まれたのが、弘前藩の武士たちだった。摺鉢で淹れて、麻袋に閉じる方法を文献に見つけ、調べたものをベースに『弘前は珈琲の街』と言うようになった。いまは明治の喫茶文化が流行った名残り、建物を使って、珈琲を広めてる」
時の音 ESPRESSO 冷たいエスプレッソ 380円、グリーンフィンガーズ ハンドドリップコーヒー 500円(2杯)。

08/24

08/25
10時、はたけ。まだ暑くて汗をかいてしまう。スナップエンドウを塩茹でして、みんなに配った。初めての調理だったので塩が足りていなかったかもしれないが、ビールに合う味ではあった。
15時、〈HIROSAKI ORANDO〉の映画企画「KUJIRA CINEMA」で今敏監督作『東京ゴッドファーザーズ』を鑑賞。2度目の本作からは展開の面白さも噛み締めながら、創作の手掛かりを見つけていた。シリアスな場面の間に軽いギャグを挟んで緩急、柔軟なアングルの違いでキャラの心理描写に厚みを与え、展開の流れに棹さすとは限らない突沸する怒りや短絡さをあえて許している。想像を観客に委ねているようだった。
17時、執筆。猫のいる、大きな本棚の部屋で。
19時、近場のドラッグストアで、たばこを段階的に辞めるらしいし、処方箋はスマホで送っておけば待ち時間が減らせるらしい。A5ポスターで控えめに教えてくれた。
けやぐの家にて 和田珈琲 コーヒー ポット 600円。🐈🐈

08/26
昼、雨で濡れたバスから1人の女性が降りた。バスと反対向き、ぼくと車の進行方向に歩く女性の背中が見えて、浅葱(あさぎ)色の明るいをした服を着ていて、この色って新撰組以外でなかなか見ないなぁと考えていたら、困り顔で女性が後ろを振り向いた。一瞬、目が合いそうになって、正面を向いた。危なかった……心臓が掴まれたような気がした。
16時、虹のかかった津軽平野をバックに記念写真を撮る二人組。路肩に停めた「わ」ナンバーの車。
16時半、菊池伸吉さんの写真展「もりのなかの十二湖」を鑑賞に来た。彩色豊かな森の顔を写し、池の青黒さや霧の浅緑を額に収めてある。十二湖の水や山や森や岩肌を多層構造にして、観る者を景色に没入させるようだった。「勉強になりました」と菊池さんに伝えると、「写真展やってくれるなら、こっちも勉強したいね」と言った。マスターが珈琲を淹れるカウンターにジャーが置いてあった。今朝捕まえたオウセイボウが閉じ込められていた。大青蜂と書くそれは、青くて、コガネムシのような光沢。壁にしがみつく静かな虫を、じっと眺めていた。
ギャラリーカフェ ふゆめ堂 コーヒー 500円。🐈‍⬛

菊池さんと話をして、マスターと話をして、ぼくは個展を開くことにしました。
撮り溜めた写真を使った展示をする予定です。2025年3月下旬。
菊池さんは「勉強させてもらうよ」と若者の感性を感じ取りたい旨を言い、マスターは「米谷くんの、面白いから見てみたいなぁ」と言いました。マスターはぼくの投稿をよく見てくれています。

08/27
12時、執筆。
17時、カルボナーラ会の二人と一緒に〈みんぱい〉で夕ごはん。ぼくは雲白肉定食、二人は海老炒飯と油淋鶏定食を頼んだ。
18時半、『インサイド・ヘッド2』を鑑賞。シアターは、大人の男はぼくたちくらいで、若い女性が多かった。主人公が成長した。感情の、カナシミがやっぱり可愛いくて、健気に試練に立ち向かう姿にぼくの姿を寄せてしまう。前作もそうだった。思春期に突入した主人公の葛藤を上手に描いていて、これほどメンタルヘルスの表現が尖った映画を観たことがない。窓から差し込む光、塗装が剥がれてガサガサしているベンチ、氷が削れる音、感覚によく訴えかけてくる。エンドロールがとても長かった。名前をよく見ると英語圏っぽくない。多国籍、大人数でよくまとまったなぁ。続きを撮るとしたら高校卒業後の葛藤だろうか、それとも、軽い精神疾患だろうか。ネット配信限定になっても観たいので、次回作に期待できる。

08/28
夕、もやもやした頭で取るもの手に付かず、部屋の掃除をして、はたけで採れたトマトをペーストにしてパスタを茹でて食べたら、強烈な拍動性頭痛に遭ってしまった。身体が震え、吐き気も現れた。温かいシャワーにいつもより長めに浴びてみる。頭痛が落ち着いてきた様子で、椅子に深く座って足を上げて、呆然として時間を過ごすと治ってきたのがわかった。
最近、ご飯の摂取機会が不規則だったのと、睡眠過多、ストレスをすこし感じていたのもあったから、片頭痛が発症したものと思われる。
夜、部屋を暗くして、早く寝た。

08/29
12時、起床。頭痛が去る。
16時、〈中三 弘前店〉の閉業の知らせに触れる。〈ジュンク堂書店 弘前中三店〉の撤退した4月末から予見されていたことだった。心残りは、〈中みそラーメン〉が食べられないこと。心底美味しかった味噌ラーメン、基準はここのラーメンと〈みそラーメンの店 峰〉の手打ちラーメンだった。残念でならない。
21時、執筆。今井むつみ『ことばと思考』を読んでいて思い付いたネタを勢いよく書いたら、掌編小説が完成した。小説を書くコツが萌芽したようで、自身の「書くこと」に感嘆する。だが、斬新さが足らず面白くない上に、後半の失速感が気になる。勢いを使って、投稿予定の小説も書き上げた。完成の喜びを、親友Sに報告した。

08/30
13時、こたつを売った。2000円になった。5年近く部屋で温めてくれていたけれど、引越しと内装デザインの方向性の違いから売ることにした。こうして一つずつ思い出を手放していく。変化を楽しんでいる自分がいる。
14時、安部公房『死に急ぐ鯨たち・もぐら日記』を購入。日記だ。ネットの広告に気がついてすぐ書店に行った。彼との接点がまた一つ増えた。写真の整理をした。
18時、同郷の人に誘われて飲みに行った。酒と彼のくしゃっとした笑顔が癒しに変わる。
タリーズ アイスコーヒー Tall 420円。

08/31
11時、珈琲のカッピング。
14時、散髪。
15時半、Sとぼくと美術館スタッフさんが合流。力仕事を任され、あとの企画の会場設営をする。
19時半、〈cafe & shop BRICK〉で蓮沼執太さんの「unpeople 360° +1 people #13」。環境音を使った、情報の交換可能性が昂る演奏。まず、スピーカーが四方に設置されることで、どこで聞くかの正解はない。上質な環境音を流すことで、全ての音がフラットな情報に変換される。蓮沼さんの意図した音と、観衆の意図しない音の情報の差分が消える。あちこちで演奏する蓮沼さん、2曲終え、「乾杯しますか」と音頭をとった蓮沼さんの流れに従って全員立ち上がり、移動した途端、位置情報でさえ不定になる。スピーカーの前に佇む人、奏者の椅子に座ってみようとする人、奏者の見えない場所に寝る人、奏者の顔を追うカメラマン、アナーキーな空間とはこういうことなのだろうか。演奏が終わってもまだ夢見心地がする身体で、会場の片付けをする。タダで見る代わりに手伝う。美術館スタッフさんとの、そういう約束だった。
L PACK. ヒーコンカ 800円。🐈‍⬛

8月は実りの悦びを祈る。

9月分は、10月になれば。
今月分を素地にしたエッセイを9月中旬に投稿します。

著者近影 📍十和田市現代美術館 photo by N

プロフィール
米谷隆佑 | Yoneya Ryusuke

医学生. 98年生. 2021年 ACLのバリスタ資格を取得.
影響を受けた人物: 日記は武田百合子, 作家性は安部公房, 詩性はヘルマンヘッセ, 哲学は鷲田清一.
カメラ: RICOH GRⅢ, iPhone XR

この日記は、普段Threadsで投稿している日記をまとめ、加筆修正したものです。生日記をご覧になりたい方は、下のリンク先からどうぞ。

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