「ヘモグロビン」が「おしっこじゃー」になって「はっけよいゲーム」になった話:ゲーム制作の現場から1
「ヘモ!」「グロ!」「ビ、いや、もういちどヘモ!」「ぎゃー! ならば重ねてヘモ!」「グロ」「ヘモ」「グ、グロ」「げっ、ヘモ」「グロ」「ビン!」「まじか!」
2014年にイメージが降りてきたゲーム「ヘモグロビン」は、「ヘモ」と「グロ」と「ビン」のカードを出して、相手の裏をかきながら「ヘモグロビン」を作っていくゲームだ。
と書いたが、いまだに完成していない未完のゲーム。
遊んでいる風景はイメージできている。
どういう面白さを目指すかは決まっているのだ。
だが、具現化できぬ。もう6年以上も考え続けているのに!
これは、いまだに完成していない迷宮入りゲーム「ヘモグロビン」を作っている過程で、別のゲームが3本もできちゃったんだよ、という苦闘の記録。その1。
ゲーム作家、米光一成です。代表作は「ぷよぷよ」「BAROQUE」「はぁって言うゲーム」「変顔マッチ」「はっきよいゲーム」など。
Wikipediaの米光一成の項によると、1987年にゲーム会社コンパイルに入社してるので、ゲームづくり生活34年だ。
最新作は「ぽくちんとネコ」。ゲームマーケット4/10(土)(明日!)ツ17「米光とはらぺこなゲーム作家たち」に、「ぽくちんとネコ」を委託しています。1~4人でプレイできます。よろしく。
この原稿は、note上でスタートした『アナログゲームマガジン』のひとつとして書いている。
話はゲーム「ヘモグロビン」にもどる。
ヘモグロビンという言葉の響きが好きなのだ。「屯田兵」や「高濃度茶カテキン」や「モホロビチッチ不連続面」が、意味はわからねど覚えちゃってる口が気持ちいい言葉たち。そのうちの代表がヘモグロビン。
ヘモグロビン!
言いたい。
その欲望が小さな種となって、ゲーム「ヘモグロビン」のイメージが降りてきた。
まず試作品を作ってみる。
「ヘモ」「グロ」「ビン」のカードを作って、まあ、「ヘモグロビン」って言いたいわけだから、「ヘモ」と「グロ」と「ビン」が3枚順番に出せれば得点ゲットだぜ。
などと考えながら、ルールをでっちあげる。
ひとりでやってみる。ぜんぜん面白くない。
悩む。考える。やってみる。
なんとなくできてくる。ひとり何役かでプレイしていると気がおかしくなってくるので、たのみこんでテストプレイにつきあってもらう。
いや、じつは、「けっこうおもしろい」ものができたのだ。
テストプレイも好評だった。が、「なんで、ヘモグロビンなの?」と問われた。
「え? ヘモグロビンって言いたいでしょ」と説得を試みるも、「わ、わからん」と困惑される。
いや、ここまでも「ヘモグロビン」って言いたいのは共通認識かのように文章を書いてきたが、読んでる人は「何を言っているのだ」という気持ちになっているかもしれない。ごめんなさい。
テストプレイをやっていても、どうも「ヘモグロビン」と言うことそのものが快楽であるのは、自分だけなのではないか。
さらに、このぼくが感じているヘモグロビンと声に発する快楽を、このゲームではしっかり手渡せていないのではないか。
そう考えると、これは、まだ完成ではないぞ、という思いが膨らんでくる。
冒頭で書いた「ヘモグロビン」の遊んでいる脳内イメージにもっと近づけなければ。
ルールを細かく変えていく。枚数を変えてみたり、勝利条件を変えてみたり、ルールを大幅に変更してみたりする。
カードが「ヘモ」「グロ」「ビン」の3種では足りないんじゃないかと思い、「ヘモグロビン」「びんちょうたん」「タンチョウヅル」「ちょうびんびん」の4ワードに増強してみたり。
いや、いくつかは、なかなか面白いゲームになったのだ。だが、なんか違う。
迷宮に潜り込んだ気分。
いや、「ヘモグロビン」はまだ完成していないので、リアルタイムでまだ迷宮に潜り込んでいる気分は継続している。
いちばんの難点は、テンポよく「ヘモ」「グロ」「ビン」と言いたいのだが、ゲーム的なジレンマの醍醐味をいれると「うーん」と迷ってしまう。この迷ってしまう時間が楽しみなのだけど、「ヘモ」「うーーーーん、うーーーん、グロかなー」「うーん、えーー、うん、ビン」みたいになってしまうと「ヘモグロビン」と言う気持ちよさが失われてしまう。
けれど、「ヘモ」「グロ」「ビン」と軽快に出す仕組みにすると、考えるポイントがなく、ゲーム的ジレンマが失われて、プレイしてる醍醐味が消える。
この両立しない2つの問題をイッキに解決する方法はないものか。
「リズムにのせて順番にワードを言って間違ったら負け」というよくあるパーティーゲームっぽいものに乗せる案も考えたが、それも、なんか安易だし、つまらない。
そこで、ゲームを2段階に分けるといいのではないか、と思いつく。
「ヘモ」「グロ」「ビン」のカードを集める前半と、集めたカードを出していく後半。
前半は、けっこう考えどころがあって、ゲーム的ジレンマがあるパート。
後半は、その結果を味わうことがメインで、あまり考えずにどんどんカードを出していくパート。
2つに分ければ、おもしろくなるのでは!
いわば、後半は、ゲームを遊んだあとに採点している部分を、ゲームっぽく演出したイメージだ(運動会の玉入れで、いーち、にー、って玉を数えてるパートね)。
この視点で作った「ヘモグロビン」も、けっこう面白かった。でも、また、同じことを言われてしまう「なぜ、ヘモグロビン?」。
そこで、いったんヘモグロビンを離れようと考えた。ゲームバランス的にもカードが3種類では足りない印象だったのだ。
そこで、「お」「し」「っ」「こ」「じゃー」にした。前半、手札の「お」「し」「っ」「こ」を駆使しながら、「じゃー」カードを集める。
後半は、「じゃー」カードをどんどん出していって、手札がなくなったら負け。「じゃー」カードも出していくだけでは単調になるので、「じゃー」レベルがあってどんどん上げていくというちょっとした戦術要素を加えた。
これは、おもしろかった。
前半の「お」「し」「っ」「こ」カードを「うーーん」って唸りながら考えて出している感覚が、おしっこを我慢している感覚とシンクロする。後半「じゃー」のカードをテンポよく出すときは、おしっこをしているときの爽快な感じとシンクロするのだ。
「傑作!」
と喜んだのもつかのま、「はずかしすぎる!」との声も。なぜ大人になって「おしっこじゃー」とか言いながら爆笑させられてるのか、という抗議の声が聞こえてきた。
ぼく自身も、このゲームはまだ時期尚早だと判断。おしっこじゃーは、2022年ぐらいに出すべきだと決定する。
「おしっこじゃー」じゃなくて、4+1種類のカードで、しかも、前半は力をためて、後半で爆発させるものは、他に何かないか。
考えて悩んでやってみて(長くなってきたのであれこれ省略します)完成したのが「はっけよいゲーム」だ。
前半「はっ」「け」「よ」「い」のカードを駆使して「のこった」をためる。後半は「のこった、のこった」言いながら、ためたカードを軽快に出していく。
「ヘモグロビン」が「おしっこじゃー」になって「はっけよいゲーム」として完成したのだった。
幸い「はっけよいゲーム」インディーズ版は好評を得て、続編「はっけよいとネコ」を出し、アークライトから商業流通版「はっきよいゲーム」(「はっけよい」を「はっきよい」に変更)が発売中です。おもしろいので遊んでねー。
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