まだいっぱいある:(ゲームつくる日々3)

ゲームつくる日々1
ゲームつくる日々2

家電量販店ダイイチの地下1階。パソコンフロアに展示されているパソコンで、昼間っからアドベンチャーゲームを遊んでいた我々。「我々」というのは、大学生の米光と、小学生だけどアドベンチャーゲームに詳しいタイチだ。
タイチは、ぼくにとっては師匠だった。

だが、その日は、いつもいるタイチ師匠がいなかった。
サンプルでいくつかのゲームが遊べるようになっていたが、それらのゲームはもう遊び飽きていた。
タイチ師匠が持ってくるゲームで遊ぶのが常だったから、ぼくは「待ち」の状態で、遊び飽きたゲームを遊んでいた。

遅れてるだけで、来ないなんてことはないはずだ。何しろ前回「デゼニランド」でつっかえていた部分を乗り越えて、クライマックス直前までプレイしているのだ。

遅れて、タイチ師匠はやってきた。が、後ろに付いてきている人がいた。母親だった。
「ゲッ、ヤバ」と思ったのを覚えている。こちらは大学生で、サボってもたいしたことはない。でも、タイチは小学生だ。小学校をサボって来ていたのは、まずかろう。
だから、「うちの息子をたぶらかして」とかなんとかいって怒られると思ったのだ。
だが、違った。

母親は、ぼくに感謝した。いままで遊んでくれてありがとうございますとていねいに頭をさげた。
ほとんど小学校にも行かず、誰とも話をしなかったタイチが、ときどきは学校に行くようになり、話をするようになったのは、ぼくと遊ぶようになったからだと母親は考えているようだった。
おそらくは違う。パソコンゲームと出会ったからだ。タイチは話すべきことを見つけたのだ。

引っ越しをするので、ここにはもう来られないと母親が言う。いつになくおとなしいタイチは「おもしろいゲーム、まだいっぱいある」と言って泣き出した。「デゼニランド」のテープをくれた。先に進む攻略のメモつきだった。

*記憶も曖昧で、思い出したことがどれほど正しいのかは心もとない。が、「だったと思う」「かもしれない」みたいな語尾になると読みにくくなるので、「どうだったかなー」という部分も断定して書いている。また当時の状況、ゲームなど、今となっては判りにくい部分もあると思う。そこで、以下に補足解説をつける。

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