ゲームを支える3つの視点:好きなものをゲームにする方法note版
「好きなものをゲームにする方法note版」は、創作の基本的な原理と流れを、実戦形式で体験する講座をテキスト化したものです。
池袋コミュニティ・カレッジで開催された全6回のワークショップ「米光一成のゲームづくり道場」(2018年4月~9月)をベースに再構築しています。
ゲームを作ってみたいと考えている人はもちろん、ゲーム以外でも「好きなもの」から何かを創作してみたいと考えている人にとって大きな学びになる講座でした。その講座をテキストと図解で体験できるようにしたのが、この連載です。
今回は1回目。全部で6回の予定。また講義全体をまとめた別バージョンを電子書籍(Kindle)で5月リリース予定です。
5月リリース電書版か、他の記事も読める「表現道場マガジン」をオススメ。
さて。
ワークショップ「米光一成のゲームづくり道場」は、「走れメロス」「羅生門」など、「好きな文学作品をゲーム化して、実際に作ってみる」ワークショップで、さまざまなゲームが制作されました。
講師の米光一成は、ゲーム作家。コンピュータゲーム『ぷよぷよ』『トレジャーハンターG』『BAROQUE』、カードゲーム『はぁって言うゲーム』『変顔マッチ』『あいうえバトル』『はっきよいゲーム』『想像と言葉』などを作った人です。
半年の講座を通して、参加メンバーが「文学ゲーム」を作り、それをずらりと並べて「文学ゲーム全集」が完成。ゲームマーケット2019春でお披露目をしました。
全6回のワークショップをできる限り再現し、同じような臨場感で楽しめるよう意識してテキスト化しました。
作りながら読んでもらえると、さらに楽しい体験になると思います。
(テキスト化:与儀明子、イラスト:pon3)
以下のように考えている人、感じている人は、ぜひ読んでみてください。
・カードゲーム、ボードゲームを作ってみたい。
・ゲームのおもしろさがどのようにして生み出されるのか原理を習得して応用したい。
・好きなものを創作に活かす方法を知りたい。
目次。
ステップ1 ルール作りを経験してみる
ゲームを支える3つの視点
ルール作りを経験してみる
日々アイデアを考える
*以降、月1で掲載予定
ステップ2 作品からアイデアを膨らませる
最近のゲーム紹介
作品からアイデアを膨らませる
ステップ3 アイデアを具体化させる
まずは小さく作ってみる
アイデアを具体化させる
ステップ4 プレイコストを下げる
ゲームの豊かさとはなにか
プレイコストを下げる
ステップ5 ルールをブラッシュアップする
アドバイスを聞かないほうがいい時期もある
ルールをブラッシュアップする
ステップ6 マニュアルを作る
さいごに 文学ゲーム全集の紹介
ステップ1 ルール作りを経験してみる
ゲームを支える3つの視点
米光です。
今シーズンは「ゲーム文学全集」を作ろう、ということで、文学をモチーフにしたアナログゲームを作っていきます。
受講生の惣坂真夏 さんが芥川龍之介の『蜘蛛の糸』をカードゲームにしようと考えてて、文学テーマって面白いな、そうだ講座でひとりひとりが作って並べたら文学全集になるじゃないかっていう話で盛り上がったんです。
それで、文学作品をモチーフに、みんなが、それぞれ、シンプルなアナログゲームを作ってみようと思います。サポートしあいながら作っていきたいと思っています。講座と言わずに道場にしてるのは、実践がメインだからです。
グラフィックデザイン部分を、デザイナーの出嶋勉くんが全面協力してくれます。
さっそくですが、ゲーム制作という山登りは3つのルートがあります。どこから手を付けるか、ですな。
どのルートを使うかは、「どんなゲームを作りたいか」「どういうふうに制作したいか」によって変わります。登っていくと途中で合流するのですが、まず最初に3つのルートのうちどのルートにするかを決めてスタートすると迷子になりにくい。
ゲームを支える3つの視点
ゲームを支える3つの視点です。
今回は、この3つの視点を解説していきます。
その3つの視点は、「システム」「モチーフ」「スタイル」です。
「文学をモチーフにゲームをつくる」というワークショップなので、今回は、モチーフが出発点になるルートです。
実は、ゲームには、具体的なモチーフがないものもあります。
たとえば、ぼくの作品で具体的なモチーフがないものは『想像と言葉』です。
いろんな言葉が書いてあるカードをシャッフルして、3枚めくります。
今やってみよう。
「裏側、ふっくら、好き」が出ました。
この3つの言葉から連想する1つの言葉を書いて、「せーの」で見せ合います。で、一致してたら1点。
やってみようか。「裏側、ふっくら、好き」。
「こじつけじゃないか!」とかツッコむのを楽しむゲームなので、無理矢理でいいので各自考えてみてください。ほんらいは一斉に答えを出すのだけど、今回は人数が多いので、前のほうの人たちに回答を聞いてみよう。
ーーベイマックス。
ーー肉まん。(おお〜)
ーー毛皮。
ーー肉球。(おお〜)
ーーあ、私も肉球って書きました。
ここ一致したから得点ね。
ーーたこ焼き。一致は……いない。
一致して喜んだり、うまい答えが出て「おお〜」と声が挙がることもある。ワイワイ遊ぶゲームです。こういうタイプのゲームは大喜利系ってよく言われます。大喜利系のゲームって、この回答がいいっていう好みの多数決で勝ち負けが決めるものが多くて、それが良し悪し。この「想像と言葉」は、一致したら得点というルールで、好みじゃなくて厳密に勝ち負けが決まる工夫をしています。
「想像と言葉」は、古代の戦争や、土地の開発や、羊が溺れないように助ける、といった具体的なモチーフがありません。
システムとスタイルだけでできています。システムは、ざっくり言うとルールや組み立てのこと。スタイルは、様式。どんな場所で、どれぐらいの時間で、どんな雰囲気で遊ぶか。
モチーフは、一般的には思想や主題なんですが、ここでは、ゲームが表現する具体的な出来事のことを指します。
将棋やチェスの元になったチャトランガは、戦争をモチーフにしています。王様が出てきて、王様がやられたら負け。戦争をモチーフにしているので、ちょっと具体度があがる。
モチーフがあるゲームの何がいいかって、ゲームのルールを説明するのがすごく楽になります。
アナログゲームを遊ぶときに高いハードルになるのが、ゲームのルールを共有することです。けっこう大変です。たとえば麻雀。よくあの複雑なルールを覚えたと思うわ。ぼくも大学生のときは点数計算覚えてたけど、もう無理。
我々が作るゲームがあんなに難しいルールだと誰もやってくれないです。プレイコストが高すぎる。なるべくルールを共有しやすくしたい。そのときのひとつのパワーになるのが「モチーフ」です。
たとえば戦争だから王様を取れば勝ちです、他は取られても王様が残っていれば負けませんっていう説明はわかりやすいよね。ぜんぶ数字のコマで「1のコマを取ると勝ちだが、それ以外は取られてもだいじょうぶ」って言われるよりイメージしやすい。
ぼくの作った『レディファースト』というゲームがあります。口説く男と口説かれる女というモチーフのゲームです。
数字が上がると、気持ちがホットになっていきます。
口説く、口説かれるというモチーフがあって、赤のカードは、1が「ここ、おごり?」で、とてもクール。数字があがって9ぐらいになると「素敵な夜にしましょう」、12だと「わかったわ あなたの勝ちよ」ってセリフが書いてある。青のカードは口説きのセリフが書いてある。
カードを見るだけで、鋭い人なら、なんとなくどんな感じのゲームなのか想像できる。
このモチーフがなくて、数字しか書いていないカードで、12を出すと負け、って抽象的なルールを説明しても、把握してもらいにくい。あと、味気ない。
モチーフがあると、抽象的で無味乾燥で覚えにくいルールというものが理解しやすくなる。
だから、モチーフとルールがうまく一致していると遊びやすいゲームになります。
今回は文学作品をゲームにする、ということで、モチーフから作ることになりますが、この3つ「モチーフ」「システム」「スタイル」をコントロールしながら作っていくといいゲームができやすいので、それを意識してやっていきます。
ここで、ちょっと「まとめ」!
ゲームを考えるときには3つの視点を意識するとよい
モチーフ:世界観、ゲームが表現する出来事。
システム:ルール、構成。ゲームの仕組み。
スタイル:様式。どこで、どんなふうに、どれぐらいの時間で遊ぶか。
モチーフは、ゲーム世界に入る導入になる。複雑なルールを理解する手がかりになる。
モチーフとシステムとスタイルが一致しているゲームは遊びやすい。
だから「モチーフ」「システム」「スタイル」をコントロールしながら作っていくといいゲームができる。
第1回目の後半は、トランプを使って「ルール作りを経験してみる」というワークショップに突入します。
「手札7枚のカードから1枚ずつ出して数が大きい人が勝ち」という面白くもなんともないベースゲームを遊び、このルールを改善して発表していきます。
ルールづくりのコツや、手順を、実践形式で習得していきましょう。
ルール作りを経験してみる
■システムについて知る
ゲームを作る上で、いちばんのスペシャルな部分が「システム」です。まず、どの文学作品をモチーフにするか選んでもらうんだけど、システムを作る感覚がわかってたほうが、モチーフを選びやすいから、実際にルールを作ってもらいます。
ルール作りってかんたんにできるものだなーという感触を得てもらいます。で、次回モチーフ決めをします。
■ベースとなるゲームを遊ぶ
というわけで、3人1チームを作ってトランプで遊んでもらいます。最初は、1ミリも面白くないです。このベースとなるゲームをちょっとずつ改善していってどう変わるかという実験をします。
1~7までの各スートのトランプを用意してください。スートとはスペード・ハート・ダイヤ・クラブのことです。8,9,10、絵札は使いません。各人に1〜7のセットを配ります。4種類のスートそれぞれ7枚なので全部で28枚。3人でやるときは1つスートを抜いて使わないでください。
配られたカードはシャッフルし山にして、各自自分の前においてね。
で、「せーの!」で、全員が山札のいちばん上のカードを表向きに出します。いちばん数字が大きいカードを出した人が勝ちです。出たカードを獲得して、表にして自分の前に置き、得点とします。勝った人が複数人いる場合は、もちこして、次に勝った人がもらいます。
最終的にカードをたくさん取った人が勝ちです。
1回やってみようか。*実際にトランプを用意して、やってみて読むとわかりやすいです。
(各チームプレイする)
「自己効力感」が生じる状況
どうですか? 100%運で勝敗が決まるよね。出して勝ったー負けたーっていうのは無邪気な子供なら楽しいかもしれないけど、大人はあっという間に飽きちゃう。運が100%だと、「別に俺がやらなくていいじゃん」ってことになっちゃう。自分がやったことが結果につながると嬉しいわけです。「自己効力感」が生じる状況にあることが大切です。作戦を練って、自分が行動したことで、成果があがる。そういった感情を喚起するとゲームが面白くなります。
では、どうすれば「自己効力感」のあるゲームにできるか?
■ゲーム改善の手順1 要素を書き出す
このゲームを改善していこうと思います。
改善するルールを考える前に、要素を書き出してみます。
いまプレイしたゲームの全体像をプラモデルだと考えてもらって、そのいっこいっこのパーツを書き出していくイメージです。
たとえば、「トランプ」「ひとり7枚」「大きい数字が勝ち」「持ち越し」。いろいろな視点での分解もOKです。まああんまり細かいことは気にせずに、連想する言葉をどんどん書き出していってください。
たくさん出すことに意味があります。いわゆるアイデア出しの前段階なので。むやみやたらに出す。
「いやそれはないだろー」みたいなものも書いておく。アイデアってなにがどう結びついて面白いものになるかわからないから。たくさん書いたほうが面白いアイデアが生まれます。アイデア出しは、とにかくたくさん要素を出すのがコツ。
要素、書き終わったら、みんなで見せ合いましょう。あ、こういうのもあるってのがあったらもらったり。もらったアイデアにさらにアイデアを付け足してみたら、元のアイデアの人も書くことができていいよね。
■ゲーム改善の手順2 ひとつだけルールを変えてプレイ
はい。書けましたか?
では、ひとつだけルールを変えたものをプレイしてもらいます。
そのルールとは「手札を見てもよい」です。
配られた7枚のカードを、さっきは見ずに出していました。今度は7枚のカードを手札にして、見て、どれを出すか自分で考えて出してください。
遊んでみて、それで要素分解に書けるものがあったら追記してね。
では、ちょっとプレイしてみてください。
■アイデア出しのコツ
ひととおり遊んでみた? 運100%だったのが、自分のやった行為がほんの少し勝ち負けに反映するようになりました。少しは面白くなっているはずです。
とはいえ、まだ物足りないのでここから各チームで改善していきましょう。
コツを伝授します。
アイデア出しの段階であんまり未来的な分析しないほうがいいです。
ーーどういうことですか?
制作する未来のゲームを脳内で分析すると、方向性が絞られてしまって、他のアイデアが出なくなる。とくにゲーム好きは同じ方向に分析しがちです。
同じ方向の分析をして改善するから、同じような方向のルールになってきます。そうすると「よくできてるけど、ありがちだなー」っていう、どこかでやったことのあるゲームになります。「よくできてるけどゲーム」がね、いま多いんですよ。新しく生まれた子なのに別の人の影を追い求めてる新鮮味のないゲームがたくさんある。
今シーズン、ゲームマニアの方もいますが、UNOぐらいしかやってない人もいるので、これはチャンスです。そういう人のほうが「うわ、とんでもないルール考え出したー!」みたいなことが起こるので。
ルール制作の後半は分析しないとまとまらなくなっちゃうからするんだけど、最初の段階では分析しないほうがいいです。
アイデアを出す段階は、野放図に、無邪気に、どんどん出していくほうがいい。分析からこぼれ落ちるもの、人が思いつかないようなもの、人が捨てていくアイデアこそを、ちゃんと拾えるか、そこを無謀に、無邪気につきやぶって進めていくと新鮮なものができる。
まずはチームで相談せずに、各自ひとりひとりが一か所だけルールを改善してみてください。
■ルール改善のコツ
このとき、ルールを付け足すのではなく、ルールを変えることを意識してください。
ルールを改善するときにやりがちなのが、ルールを付け足すこと。付け足すほうがやりやすいからね。でも、付け足さないで変える。付け足すと当然、ルールが増える。プレイヤーがルールを習得する負荷が上がります。なるべくルール数は増えないほうがいいです。
ベースゲームだって、やってみるとこんなに簡単なゲームなのに、紙で説明すると、たくさんの文章を使わないと表現できない。
ルールを増やすとどんどんわかりにくくなります。
あと、「ああいかにも付け足したな」っていうのがわかって、ゲームのルールの美しさを損ないます。綺麗に設計して作った一軒家ではなく、増築を重ねて使いにくい住宅になっちゃった、みたいな。
各チームに付箋を配ります。各自、一か所だけルールを変えたものを書いてみてね。それは各自でやります。案なので、いくつか出してみてください。書けたら全員で共有しあってください。
共有するときも、ルールの変更部分だけを言うようにしてね。「こういう理由でこうだから変えるんです」とか言わなくていい。分析や解説をしなくていいです。ルール改善をそのまま伝えてください。
止まってしまった人、なかなかできないっていう人は、あんまり気にしないで。完璧に面白いゲームを作れと言ってるわけじゃないからね。どうしようもないゲーム未満のものを、ちょっと改善してみよう、やってみようってことなので。こうしたらどうなるかな? と試してみる気持ちで。あくまでアイデア出しなので。
共有はすみましたでしょうか。
このあと、それぞれの改善ルールを、プレイしてもらいます。
アナログゲームのすばらしいところは、改善がいくらでも簡単にできるところです。改善するときのコツは、なんでもいいと思って気楽にやること。
アイデア出しの段階は、赤ちゃんみたいなもの。ちょっとバブバブできるようになったら喜ぶぐらいの感覚でやってください。他の人のアイデアに対してもその意識で受け取ってください。「そんなのダメだよー」とか言うのは、ひどい人間だからね。赤ちゃんに対して「歩けないのダメじゃん」って言ってるようなものです。それぞれのルールを温かい目で見守って、ゆっくり育んでいく気持ちを忘れずに。
そのうえで、共有してもらったもののなかから、ひとつ、いいと思ったものを選びます。これも議論しなくていいです。「せーの」で付箋紙を指差す。てきとうにやるかんじでいきます。選んだ理由も言わなくていいです。いっせーの、どん。
では、やってみましょう。
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