「破局」~シニカルな視点のタンゴ
先日に続いてバンドネオン弾き語りのルベン・フアレスの歌と演奏による「デセンクエントロ(破局)」を紹介します。
デセンクエントロ(Desencuentro)は1960年、アニバル・トロイロ作曲、カトゥロ・カスティージョ作詞の作品。
1951年に亡くった作詞家のエンリケ・サントス・ディセポロの劇「Caramelos Surtidos」の再演のために新たに書き下ろされた作品で、曲調や歌詞はディセポロの作風を模したものになっています。
ディセポロは「ジーラ・ジーラ」「ウノ」などの名曲で知られていますが、その歌詞の内容は辛辣で厭世的なものが多く、単なる大衆音楽とは一線を画した難解さを併せ持っています。 これはディセポロの本業が舞台俳優・劇作家であったこととも関係しているのかもしれません。
とはいえ、このようなシニカルな歌詞でもヒットするのがアルゼンチンタンゴの面白いところです。
さて、このディセポロへのオマージュである「破局」も本家に劣らず、苦い内容の歌詞になっています。
おまえは方角を見失い、何もわからず、どのバスに乗ればいいかさえわからない。
信念との破局を迎えた中では、海を渡ろうと望んでも不可能だ・・・おまえが助けた蜘蛛がおまえにかみつく
・・・神がおまえに差し伸べた愛の手をカーニバルの行列がわめきちらしながら踏みつけていく
・・・だからおまえの人生は完全な挫折で、命を絶とうとしたピストルの最後の一発さえ失敗するのだ
最後に自分の命を絶とうとする時でさえ失敗する、というブラックジョーク的な皮肉が効いた歌詞で、歌手の表現力が問われる難曲といえるでしょう。ルベン・フアレスはバンドネオンと一体化したような独特のだみ声で、この作品の人生の不条理に対するやるせなさを味わい深く歌いあげています。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?