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【インタビュー】Hajime Kinoko「日本的な感性を作品に通わせたい」【OTAQUEST】

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「OR x TWELVE ARTIST x OTAQUEST+DA.YO.NE」は、自身もアーティストでもある編集者の米原康正が毎月1名の若手アーティストにスポットを当て、12ヶ月にわたり12人のアーティストを紹介していくプロジェクト。東京・渋谷に誕生した新スポットMIYASHITA PARK内のカルチャーハブステーション「OR」を舞台に、作品の展示、音楽イベント、コラボアイテムの作成、ポップアップストアなどを実施している。
今回は、その第三弾アーティストとして2021年2月のイベントを彩ったHAJIME KINOKOを紹介。“緊縛”の世界に新たな風を吹き込み、すでに国内外で高い評価を受け続けている彼の、“Shibari”という自身のアートへの思いを語ってもらった。

*この記事は、”HYPER OTAKU MEDIA” 「OTAQUEST」に、3月5日に掲載されたインタビュー記事を日本語として掲載しております(取材時はイベント開催前)。

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HAJIME KINOKO【TWELVE ARTISTS vol.3 】

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【Profile】
縛りをエロスと捉えるだけでなく、ポップな解釈やアートへの昇華も得意とし、特に自然(木や岩など)や空間までも縛るユニークな作品性は評価されている。近年はパフォーマンス以外に、写真や映像によるアートワークも精力的に発表。縛りと撮影、演出のすべてを手がける。また、国内のみならず、ニューヨーク、パリ、ロンドン、ミュンヘンなど20以上の主要都市で公演やワークショップを行っており、海外での認知度も高い。日本を代表する縄のスペシャリスト。



「女性の身体のかたちが変わって美しくなっていく」


—まず、今回『OR x TWELVE ARTISTS + DA.YO.NE.』 に参加することが決まり、どんな期待を抱いていますか?

HAJIME KINOKO(以下:KINOKO):『OR』は最近できた注目度の高い施設で、感度の高い人たちが集まる場所。そこで自分のアートを展示できるっていうのはひとつのチャンスだと思っています。誘っていただいた米原さんにはすごく感謝しています。

—ヨネさんとはどのように知り合って企画に参加することになったのか、教えてください。

KINOKO:ファッションデザイナーの緑川ミラノさんという方に原宿のパーティーでご紹介していただいたのが最初です。その時、だいぶ泥酔されていたので米原さんが覚えていらっしゃるかはちょっと分からないんですけども(笑)。そこから僕は米原さんを知って、アートフェアなどでも顔を合わせる機会が増えていきました。それでこうしてお誘いをいただいたので米原さんの顔を潰さないようにしないとな、と思っています。

—表現の世界でもコンプライアンスが厳しくなる一方で、KINOKOさんのようなアーティストの影響もあり、“緊縛”そのものがポップな存在感を持つようになっているんじゃないかと個人的には感じていますがいかがでしょうか?

KINOKO:緊縛というのは女性蔑視だというネガティヴな意見もあれば、モダンアートとして評価してくださる人もいて、賛否両論のジャンルではあります。その中で自分は嬉しいことに評価をいただけて、ファッションショーの演出に参加したり、アーティストのMVなどで作品を使っていただいたり、飛び道具的なニーズも多いです。


米原康正(米原):KINOKOちゃんの作品は女の子だけじゃなく、いろんなものを縛るから面白いよね。逆に、緊縛業界の中からは批判もあるみたいだね?

KINOKO:アンダーグラウンドの方からはいろいろと(笑)。

—今日はキュレーターを務めるヨネさんにもお越しいただいているので、お聞きしたいんですがKINOKOさんをオファーした理由ってなんですか?

米原:今言ったみたいに縄を使っていろんな表現をするんだよ。だから「OR」という空間をKINOKOちゃんがどんな風にするのか、面白そうだと思ってね。最初から声をかけたいと思っていて、早いうちから12人のリストの中に入っていたアーティストだったから今回実現してすごく嬉しいよ。

—あらためて、KINOKOさんが緊縛に魅了され、緊縛師になったきっかけを教えてください。

KINOKO:21歳の頃に付き合っていた彼女が縛られるのが好きで、そこから始めたんです。何が面白いと思ったかというと、女性の身体のかたちが変わって美しくなっていくところ。あと、縛るという行為自体には信頼関係が必要なんです。縛られるということは、身動きがとれなくなる。僕だったらよく分からない人に縛られたら恐いですから。

米原:「やめて」って言われたらすぐやめちゃうんでしょ?

KINOKO:「痛い」って言われたらすぐほどきます。

米原:エロスを目的としていると「え?」ってなるところだけどね。

KINOKO:でも僕は違うんですよね。僕は縛った女性を自分で写真を撮って作品にしているんですが、SM誌に持って行ったら「KINOKOさんはもっと下品に撮らなきゃダメ。エロに執着が感じられない」って言われました。さっき言っていたアンダーグラウンドからの批判もそういうことなんです。

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作品の写真を自分で撮ること


—お話を聞いていて、“緊縛”ってその人の作家性というか人柄・人間性が出るのかなと思いました。

KINOKO:それは出ますねえ。僕は変態嗜好で緊縛をしていないので、アングラの人から見たときに「本物じゃない」って言われます。だけどその“本物”か否かも結局人の見方によって変わるものですから仕方がないと言えば仕方がない。

—交際していた彼女をきっかけに緊縛の世界に魅了され、どういった経緯をたどって今に至るのでしょうか。

KINOKO:フェティッシュバーで働くようになって、お客さんをずっと縛っていたんですよね。他のお客さんが観てそれを楽しむというような。そこで場数を踏んで実力が上がりました。15年くらい前、SMのショーを初めて観て、全然面白くないなって思ったんです。マニアの人がマニアに向けているショーだったので僕は全然面白くなかった。僕がやったらもっと面白いものを観せられるなと思いました。そこからショーに出るようになったんですが、続けていたら身体の調子が悪くなってきちゃったんです。

—それはなぜですか?

KINOKO:僕のショーは一般の人にも分かりやすいというのが特徴で、モデルが主軸。縛る方の僕が犠牲になりながら動かなければならない。その結果、身体に負担が蓄積されて、背骨を悪くしてしまいました。それで、作品を残そうとなるわけです。ショーだと瞬間芸術だけど、作品として制作すればずっと残る。その方がいいなと。そこから写真を勉強し始めました。それが6年〜7年前かな。周りにも、写真を撮りたいって言う人が多かったことも影響しています。

—周りの人たちに撮ってもらうのではなく自分で撮ることにしたんですね。

KINOKO:作品を撮りたいって言われて、全然撮ってもらうことには問題なかったんですが、撮った写真はもう自分の作品ではなくなってしまう。さらにその人が連絡つかなくなったら現像前のデータも失ってしまうのがリスキー。だから自分で撮ることを選びました。


—写真はどのように学んでいったんですか?

KINOKO:ワークショップを紹介してもらって、週に何度か2年ほど通って基礎的なことを学んでいきました。好きな写真を見つけたら撮影した写真家の方に、どんな風にレタッチしているのか聞いて教えてもらったりとか。写真を撮りためているうち、小宮山書店という、神保町で80年以上続いている老舗古書店の小宮山さんと知り会いました。米原さんを紹介していただいた緑川ミラノさんから紹介してもらったんです。現代アートや写真集・美術書から美術作品の販売、買取までやられていて、そんな方に面白いって気に入っていただけたんです。米原さんを始め錚々たる方々と一緒に僕の作品も扱っていただくことになりました。その時はちょうど荒木さんの影響もあったのかもしれませんね。

—荒木さんとはあの写真家の荒木 経惟さんですか?

KINOKO:はい。“アラーキー”の荒木さんです。荒木さんも緊縛の写真を撮っていて、それはヨーロッパの方でかなり高い評価を獲得していました。なので荒木さんの次の世代のアーティストとして僕のことも注目してくれたのかなと。2年くらい前、荒木さんはNYのセックスミュージアムとコラボして仕事していたんですが、そのときに僕を呼んでネクストジェネレーションとして紹介してくれたんですよね。全然、実力的に僕には課題がたくさんあるのですが、荒木さんや小宮山さんは僕の成長を見守ってくれてるような感覚なんじゃないかと思っています。そして、僕の作品を好きと言ってくれる人は緊縛自体のオリジナリティに魅力を感じてくれているのではないかなと。


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「前衛的に見えても、その裏には日本的な感性を作品に通わせたい」


—KINOKOさんの緊縛のオリジナリティというのは具体的にはどんな部分でしょう?

KINOKO:日本古来からの緊縛は罪人を縛る捕縄術からなんですね。早縄と捕縄術の2種類あって、早縄は泥棒を瞬間的にしょっぴくときに使う技。その後、縛り直して完全に罪人を逃げられなくするのが捕縄術です。その文脈とは全く違う縛り方で完全に動けなくするのが僕の縛り方。編み編みに縛る“ウェブ縛り”っていうのを僕が開発したんですけど、一部マニアの間では流行っているみたいです。

—マニアに受けているのはKINOKOさんの考案した“ウェブ縛り”の特徴と関係があるのでしょうか?

KINOKO:人を吊りあげることができるというのと、捕縄術由来の緊縛よりも楽というのが特徴で縛られている方はハンモックに包まれているような心地良さがあるんです。かつ、前衛的に縛ってはいますが、僕は捕縄術由来の緊縛もきちんと勉強した上でオリジナルの縛り方を考案しています。それが面白さですし、説得力に繋がっているのかと思います。

—ルーツと基本の型を知っているからこその型破りというわけですね。

KINOKO:ただ前衛的なものを思いつきでパパっとやるっていうのではなく、ちゃんとしたバックボーンがあって、技術とか練習だったりとか勉強した上で新しいことをやるっていうのが肝要だと思っています。あとは日本のアートを取り入れるようにしていますね。前衛的に見えても、その裏には日本的な感性、“真行草”だったり“詫び寂び”といった感覚を作品に通わせたいなと。大昔から脈々と続く伝統の中に自分がいるからこそ、隠し味に日本的なアート感覚を取り入れたかったんです。そのために生け花を2年半くらい習っていたことがあって、学んでいるうちに緊縛と通じる部分に気付きがありました。

—具体的にはお花と緊縛、どんな部分が共通しているのですか?

KINOKO:女の人を花に例えるとすると、茎の伸び方だったり、ちょっとしたことでガラっと印象が変わってしまうんですよ。日本の美意識とか美しさって、自分の先生がその先生から習って、その繰り返しで美しいと感じてきたものが伝えられてきた。そういった日本古来の美意識について深く見つめ直していて、ここ1年半は書道を習っています。書も緊縛と同様にラインが肝心ですから。


時代とエロスの感覚の変化、日本と海外


—美が伝統として継承されていくなかで、エロスの感覚っていうのは例えば江戸時代とか歴史を辿っていったら感覚はやはり違うものなんでしょうか?

KINOKO:エロスの感覚は時代によって違うんじゃないかなと。

—緊縛がエロとして世の中に広がったのはいつくらいなんですか?

KINOKO:日本で最初に女性を縛ってエロとして発信した人は伊藤晴雨(1882-1961)だと言われています。もしかしたら江戸時代にも女性の罪人が見せしめに縛られていたのを見て、エロいと感じてる人はいたかもしれないですけどね。その後、「奇譚クラブ」という最初はオカルト誌だったものが、読者アンケートでSM企画が人気となりSM誌として変遷していく雑誌が生まれました。そして、ヴィジュアルだけでなく世界観やストーリー的な舞台装置となるSMの世界観を作ったのが団鬼六先生ですね。その当時の旧き良きエロスが好きな人からすると、僕の縛りは受け入れられないかもしれません(笑)。

米原:50年代のさ、フェティッシュカメラマンでボンテージアーティストのジョン・ウィリーっていたけどさ、やっぱり日本人よりも縛りがユルいじゃない。ハリウッド系の女の子を縛るみたいなことをやっていた人でいまだにアート的な評価が高い人なんだけど。ジョン・ウィリーの縛りはカラっとしてんのよ。要するに、KINOKOちゃんはそういう洋モノ的な匂いが強いから、緊縛マニアな人からすると拒否反応があるんじゃないかな。日本のエロってぬめっとしているからさ。

KINOKO:確かに。カラっとしていますね。

—KINOKOさんは緊縛の美しさには魅了されながらも、日本のエロ特有の湿気を出そうとは思わなかったんですか?

KINOKO:出そうと思っても出ないんですよ。最初からどっかで気付いてはいたんです。SMの真似事みたいなことをして最初はやっていたんですけど、人から「違う」と言われて、やっぱりそうなんだ。ってなりました。自分でもいろいろ試してみてもダメで、向き不向きってやっぱりあるんだなと(笑)

—KINOKOさんの行っている緊縛のワークショップは「Time Out Tokyo」でも紹介されるほど、象徴的な活動のひとつだと思いますが、どのような人たちが集まるんですか?

KINOKO:スタジオでグループレッスンを月3回やっていて、プライベートレッスンも行っています。生徒数としてはおかげさまでウチが世界一らしいんですよ。

—カップルの方が多いですか?

KINOKO:ほとんどそうですね。あとは海外の方たちも多いです。英語ができる講師も同伴してもらって行っています。海外の方からすれば、サッカーで言うところのブラジルとかヨーロッパの強豪国のように、マニアの間では縛り=日本という認識なんです。なのでいつかは日本で縛りを習いたいという海外からのお客さんは少なくありませんね。記念に雷門で写真撮るみたいな感覚みたいです。

—目的としてはやはり実践したいっていう理由なんでしょうか?

KINOKO:主にはSM好きな方ですよね。でも最近はアートが好きだから習いたいという方も増えてきた印象です。特に海外の人は下品なエロスは好きじゃないみたいで、僕の縛りを見て、他とは違うフィーリングを感じて来てくれた方もいました。日本のような辱めるエロさは海外の女性だと怒っちゃう人が多いですよ。

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—KINOKOさんが大切にしているのは縛る人との信頼関係や繋がりっておっしゃっていますが、そこに共感する人がKINOKOさんや作品の元を訪れるんですね。

米原:日本のエロって陵辱するというかそういった部分があるけど、KINOKOちゃんの場合は「大丈夫?」って聞いちゃうような感じだもん。

KINOKO:相手が喜んでくれるからやっているんですよ。求められれば縛っているときにお尻も叩きますし。人に依ると思いますが、圧迫されるとオキシトシンという幸福物質が分泌するらしいんですね。それを利用してアメリカではボタンを押すと身体に適度な圧力がかかって眠ってしまうっていう鬱病患者が着るジャケットってのがあるくらい。僕が緊縛をしていると寝てしまう人が多いです。

米原:KINOKOちゃんはご奉仕Sだね。

KINOKO:まさしく、お料理をさせていただいている感覚です。あなたのためにおいしく作らせていただきます的な。


"shibari"と"緊縛"の違いとは


—KINOKOさんのオフィシャルサイトを観ると、サブタイトル的に“shibariと緊縛”って添えられていますが、この2つの言葉の違いって何ですか?

KINOKO:2年前に「バーニングマン」にオフィシャルで17メートルのジャングルジムを縛りに行ったことがあるんですけどその違いは海外の人からも良く聞かれました。意味を辞書で調べると緊縛は“きつく縛ること”になりますが、僕の中で使い分けているのは緊縛は人を縛ること、shibariというのは人を含め、いろいろなものを全般縛ることに用いています。

米原:え!? KINOKOちゃん「バーニングマン」行ってたの?

KINOKO:制作した作品の前で緊縛のショーもやりましたよ。弟子が毎年参加していたことがきっかけです。最後、制作したものを全部燃やす決まりがあるんで、人に危険が及ばないように構造計算したりとか、ちゃんとプレゼンして、オフィシャルでやらせてもらうことができたのは貴重な経験でした。

—「バーニングマン」の環境下でのパフォーマンスや制作は過酷でしたか?

KINOKO:砂漠のど真ん中なので、乾燥でロープが切れちゃうんです。だから毎日切れたところを縛り直したり、体力的に過酷でした。

—『OR』での展示についてはもうイメージは決まっているんですか?

KINOKO:過去作品はけっこう売れてしまったので、手元にある「Red」シリーズを飾ったり、木を買ってきたので木を縛ろうかなと思っています。元々あるものと新しいものを合わせた展示になりそうです。

米原:インスタレーションもやる予定だよね?

KINOKO:そうですね。あと、1Fフロアのところは縄だけを使って、縄目を見せるような展示をしようかなと。

—KINOKOさんの展示を来場者にどのように楽しんでほしいか教えてください。

KINOKO:縛りってどうにでも捉えられると思うんですよね。僕は、自分にあるものを見せるだけですが、そこには道徳的な一線がありますし、その中で作品を観た人が、繋がりを感じてくれたら嬉しいですね。縛られている人の心境を考えてみたり、見所はたくさんあると思います。なので皆さんそれぞれの楽しみ方を見出してくれたらいちばんです。


text by Tomohisa Mochizuki
photo by Fumiaki Nishihara (OTAQUEST)


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