アメリカの「新政権」はウクライナを見棄てるか
ドナルド・トランプが共和党の副大統領候補に、J.D.ヴァンス上院議員を指名した件について、7月16日のアゴラに詳しい記事が出ている。
ラストベルトの白人労働者を代表するヴァンスは、当初はトランプをヒトラーに喩えるなど危険視していたが、後に熱烈な支持者に転じ、自分が副大統領なら「2020年の選挙結果(バイデンが勝利)も覆せた」と仄めかすほどらしい。本気でトランプに心酔したのか、単に権力になびいただけかは、今のところわからない。
注目すべきは、アゴラが紹介する今年4月12日付の、ニューヨーク・タイムズへのヴァンスの寄稿「ウクライナの算術は計算が合わない」である。
要は「ウクライナ支援を見直せ」とする主張だが、アゴラの訳文は少しわかりにくかったので、ニュアンス重視で結論部を抄訳してみる。
米国通には、ここまで「トランプべったり」の人物を副大統領候補に起用すると、かえって選挙で中道票が逃げると読む向きもあるようだ。またトランプが当選しても、副大統領のビジョンがどこまで政策に反映されるかは、未知数である。
しかし重要なのは、リベラルメディアのNYTに事実上の「早期停戦論」を寄稿する人物が、米国では堂々と副大統領候補の指名を獲得することの意味である。なぜなら2022年の開戦以来、日本ではそうした議論はプーチンを利するものとして、「専門家」によってタブー視されてきたからだ。
いわく、ロシアが侵攻した現状での前線で停戦するのは、実質的には侵略した側の「切り取り得」になってしまう。これは世界の他の地域でも、同様の事態(とりわけ台湾有事)を惹起することになるので、よくない。原理的には、そうした見方は正しいと、私自身も思う。
しかしそう主張する以上は、欧米の支援を受けて戦争を続ければ、前線を開戦前のラインまで「押し戻せる」という見通しが必要だ。言い換えれば、早期の停戦に反対した以上は、表裏一体の主張として「ウクライナが勝てる」と唱えたのと同義だと見なされるべきで、「勝てるとは言ってません。ガンバレと応援しただけ」などと逃げ出すのは許されない。
ウクライナの戦争も、またアメリカの大統領選も、いくら日本で口角泡を飛ばしたところで、現実への影響力はないに等しい。むしろ私たちが今年の残りで重視すべきは、この国のメディアで「誰が真摯に発言するのか」を、見極めてゆくことだと思う。
秋にトランプーヴァンスが当選したとき、両名のウクライナ戦争の捉え方は「まちがっている」と、米国に対しても物申せるのか。もしくは逆に「いやいや。ウクライナ人も疲弊したタイミングだったので、さすがアメリカの政策は現実的です」と手のひらを返すのか。
「ウクライナ有事は日本有事」であればこそ、誰もがこれからメディアを監視し、そうした評定を厳しく行うべきだろう。なぜなら後者の姿勢をとる無責任な専門家に、未来の日本有事を扱わせてはならないからである。
(ヘッダー写真はブルームバーグの記事より)
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