第10夜 役場でできるおもしろさ・役場以外でできるおもしろさ|吉岡慶太×
田畑耕太郎×大山宗之+廣岡周平×佐藤布武

これまで様々なテーマで建築家の話を聞いてきたよなよなzoomですが、今回は、かねてより実施したかった「公務員」をテーマにした回を開催します。以下の3名の方にプレゼンテーションをしていただき、名城大学の佐藤さんを加えたメンバーでディスカッションを行います。

吉岡慶太さん(佐賀市役所/基山フューチャーセンターラボ)


田畑耕太郎さん(住田町役場/一般社団法人SUMICA)


大山宗之さん(仙台市役所/転勤族チーム)

TOPIC 1|なぜ、公務員について考えるか。(廣岡周平/PERSHIMMON HILLS architects)

そもそも公務員とはどういう仕事なのでしょうか?私自身もそうなのですが、公務員が何をやっているのかきちんと理解できていない人が多いように思います。大学院の時に抱いていた公務員のイメージとは、「安定した職業」「日々同じことを機械的に繰り返している」「受付カウンター」といったものでした。一方で、社会人になって一緒に働いたり公務員になった友人の話を聞いたりすると、違った印象を受けます。なので、まずは公務員について私が考えたことを整理したいと思います。

富を再分配する役割としての官公庁の仕事

行政の仕事を考えると、2つに大別されると考えています。一つは、街を動かす役割。窓口業務や住民対応など、機能的な必要を迫られて行う行政行為です。もう一つは、街をアップグレードするような役割です。まだ見えない欲望を明文化するポジティブな行為で、ここにクリエイティビティがあるのではないかと考えています。
私は公務員の仕事を考える上で「富の再分配」というキーワードが重要だと感じています。行政の仕事は、税金を社会福祉やインフラ、教育、産業振興など、様々なセクターに配分する役割でもあります。一方で、この富の再分配を適切に行えているのかがとても重要です。ただ配分するのではなく、どのような信念に基づいて富を分配するのかが重要なのではないでしょうか。
ここで参照したいのが、「苫野一徳:どのような教育が「よい」教育か, 2011, 講談社」ということを問う書籍です。
この本で論じられているのは、人間的欲望の本質は「自由」であり、他者とともに過ごす人間社会ではその「自由」の相互承認が必要とされるということです。特に印象的だったのが、「自由」は個人の満足によるものではなく、「生きたいように生きられている実感」が他者から認められた時に初めて感じることができる、という議論でした。
さて、この「自由の相互承認」を成立させること、つまり、「自由の相互承認のための実質化」とは何でしょうか。それは、良い社会を目指した運動であり、法や権力であり、そして建築でもあると考えています。実際の建築物と対応させて考えると、公共建築を作る際には、要綱というものが出されますが、これは自由の相互承認が実質化される社会や建築を作るガイドのようなものでもあると思うんです。つまり、要綱を通してどんな社会や建築を作るかという目標を掲げることができるとも捉えられるのではないでしょうか。

そもそも建築作品は誰が作るのか?

建築雑誌などで建築作品を発表するのは建築家なので、どうしても建築作品は建築家のものだと思う印象があります。でも、いろいろな人のコラボレーションと、いろいろな人のクリエイティビティで出来上がるのが建築です。公共建築が出来上がるまでにはいくつかのステップあります。

まず、市民や町民の声にならない欲望があり、その欲望を明文化するのが役場の仕事と言えます。そこから物質化に向けた欲望の整理としての建築家の職能があり、施工者による物質化を経て、市民の運営に戻ることになります。
個人的にはこの流れを横断的に考えられる建築家が理想だと考えていますが、同時に、明文化された欲望を整理する役人は、同時にとても高いクリエイティビティを有しているともいえます。
役人が何を目指すのかをプレゼンする機会を作ることで、このクリエイティビティを育てることができればと考えています。

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機械的で必要性の強い仕事なのか、まだ見えない欲望を明文化する仕事なのか

冒頭で説明した通り、公務員の仕事は特に、ネガティブというか機械的にまちを動かすための仕事が多い職種だとも思います。でも同時に、未来に向けたポジティブな仕事でもあると思います。こういった側面は、どんな仕事でもあるものだと思います。でも、自分がしているのがどんな仕事か、どこか機械的な仕事に終始している自分に気づいたとき、何か思考や活動をスイッチさせる必要があるのではないでしょうか。
今回の公務員回は、そういったスイッチをうまく使っている方々だと思います。公務員としての仕事がある中で、個々人での活動や仕事を重ねることで、しなやかな創造性を有した活動になっていると思います。
そういったものを共有することで、何か面白い未来が開けるのではないでしょうか。
それでは、ここからは、各プレゼンテーションに入っていきたいと思います。

TOPIC 2|遊ぶように働く。基山ヒューチャーセンターラボから拡がる面白い地域。(吉岡慶太/佐賀市役所・基山フューチャーセンターラボ)

TOPIC3|「小さな町の建築技師」の面白さ。町の未来を支える多能職。(田畑耕太郎さん/住田町役場/一般社団法人SUMICA)

TOPIC4|民間主導と行政支援による効果的なまちづくりを目指して(大山宗之さん/仙台市役所/転勤族チーム)

(以下、全体を通してのディスカッション)
佐藤|今日の話は、面白いアクティビティを起こしている人が吉岡さん、その面白いアクティビティを起こすためのバックグラウンドを作りたいというのが大山さん、そのもう少し上位概念で制度的なところを作っているのが田畑さんというように三者三様の行政の姿を見たような気がします。
廣岡|吉岡さんは他のお二人の話を聞いて何かありますか。
吉岡|田畑さんの話はすごく心に染みました。田畑さんのような仕事を目指して役所に入ったのですが、実際に入った時に、そういう仕事に巡り合う機会は必ずしも多くありませんでした。それは、自分自身にまず技術がないっていうところがあるかもしれないし、ある程度出来上がっているレールがある中で、それを壊すまでの説得力をまだ自分が有していないという部分もあると思います。何かを変えるまでの根気が自分にどれだけあるのかを試される部分もありますよね。田畑さんは、建築職の仕事をお一人で全部やらないといけない環境だったというのもあると思うんですけど、行政の仕事の芯の部分をずば抜けてやられている印象でした。仕事頑張らないとなって思いました。
田畑|仰って頂いた通り環境に左右されているところが大きくて、僕は十万人規模の市役所行ったら多分何も出来てないです。実は僕、メンバーが4人のSUMIKAという一般社団法人の理事もしています。代表理事が住田町出身の方で、副代表が岩手県の花巻市出身で東京から住田町にIターンした方、3人目が林業をやられている地元出身のお兄さん、4人目が僕です。SUMICAで「まちや世田米駅」という交流拠点施設を指定管理していますが、やっぱり施設の管理は難しいなと常々思っていて、そういう意味で吉岡さんはなんであんなにハッピーな空間ができるのかなと思いながらみていました。損得勘定抜きで奉仕じゃないですけど、お人柄なのでしょう。
佐藤|あとは、すごくいいバックアップメンバーというかネットワークができているんじゃないのかなと思います。実際に、大山さんや田畑さんがやられていた法制度の整備やプロポ要項作りも近い印象を持っています。仲間を増やしていく枠組みを整理することは、誰かの決意を後押しする効果もありますよね。
廣岡|吉岡さんのさっき言っていた「飲んでいるだけです」っていうのは損得勘定のなさを現していますよね。吉岡さんのところだと、その場所の管理が上手くいかなくても損している人は誰もいないと思います。“遊び”という概念が強かったんだろうなと感じます。自分が飲みに来るスペースをたくさん作るために活動する人たちがたまたま多く集まったというような、一番初めに“遊び”がくる関係はハッピーなんだろうなと感じます。
あと、先ほど吉岡さんが言っていた“3人”っていうのも重要です。当事者が自分しかいないところでどうやって2人目3人目を見つけるか、2人目じゃダメで3人目を見つけないといけないというところが自省的な教訓になりましたね。
大山|自分が活動していた転勤族チームの仲間はほとんど転勤してしまったんです。このままだと転勤族チームがなくなるから自分は仙台にいようと思って行政に行ったところがあります。誰もいなくなったら終わっちゃうんで、アンカーになりたかったっていうのはありました。
廣岡|では今日はかなり長くなりましたが楽しかったです。みなさん、ありがとうございました。

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編集:佐野朱友那、佐藤布武(名城大学佐藤布武研究室)


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