「お話のふくろ」 はらまさかず

 こうくんのお父さんは、お話をつくってくれません。
 「お父さん、なんかお話して」
 「むかしむかしあるところに」
 「そういうのじゃなくて、本にのってない話!」
 「そんなのできない」
 「じゃあ、さがしてきて!」

 それから、お父さんは、何日も家に帰ってきませんでした。
 ある日、ぼろぼろになって帰ってきたお父さんは、
 手にきたない袋をもっていました。
 「こうくん、見つけたぞ」
 お父さんがいいました。
 「お父さん、本にのってないお話をさがしてたんだ。
 何日も何も食べず、何日もねむらずさがしつづけた。
 でも、世界中どこの本屋さんにも、本にのってない話はなかった。
 力つきて道でたおれ、これが最後かなと思ったとき、
 誰かに話しかけられたんだ」
 
 「これをあげよう」
 お父さんの目の前に、光につつまれ、おじさんが一人立っていた。
 「これは、お話のふくろじゃ。本にのってないお話がたくさん入っておる」
 「そんなに入るはずない!」
 「いや、めちゃくちゃ入る」
 「ほ・ん・と・う?」
 「本当じゃ。おまえには、今、なにが見える」
 「おじさん」
 「そしたら、ふくろをあけて、そういってごらん」
 お父さんは、おじさんにいわれたとおり、『おじさん』と大きな声でいった。
 「ほかにはなにが見える?」
 「きたないふくろ」
 「また、いってごらん」
 お父さんは、『きたないふくろ』といった。
 「まだ、なにか見えるかな」
 「知らない町」
 お父さんは、ふくろに『知らない町』といった。
 「これで、本にのってないお話が、本当にできるんですか」
 「もうできておる」 
 
 お父さんは、くちゃくちゃの袋をこうくんに見せて、
 「第一話、お話のふくろ」
といいました。

 (作者のことば)
 こうくんのお父さんは、ちょっと言葉づかいが悪いですが、とってもおもしろい人です。お話をつくるのが好きなともちゃんのお父さんとは、ちょっとタイプが違います。こうくんとお父さんは、これからどんなお話をつくっていくのでしょうか。お楽しみに。

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