「こいのぼりの信心」 木村研
「まぶしい」
一年ぶりに箱からだされたこいのぼりは、おおきな目をしょぼしょぼさせました。
ひろくんが生まれたときに、田舎のおじいちゃんから贈られたこいのぼりです。
こいのぼりは、一年に一度、ひろくんにあえるのが楽しみでした。それなのに今年は、ずっと廊下におかれたままです。
(ひろくん。ぼくのこと、きらいになっちゃったのかなあ)
そんなある日、おばあちゃんが、きれいな着物をきておでかけしました。
すると、スズメたちが集まっておしゃべりをはじめました。
こいのぼりは、スズメにききました。
「ひろくん、どうしたの?」
「ひろくんなら、入院してるよ」
「入院?」
「そう。まだ寒いころ、救急車で運ばれていったわ」
「そうそう。町の病院よ」
スズメたちは、なんでも知っています。
「じゃあ、ひろくん、いつ帰るの?」
「熱がさがったらね」
「まだ、熱あるの?」
「あるみたい」
「じゃあ、どうしたら熱が下がるの?」
こいのぼりが、あんまり聞くので、スズメはめんどくさくなって、
「そんなら、高尾山に上って、お不動さんにお参りしてみたら」
といって、どこかにいってしまいました。
「そうか」
こいのぼりは、外にとびだすと、高尾山に向かってとんでいきました。
高尾山には、たくさん人がお参りにきています。
こいのぼりも、
「ひろくんが、早く元気になりますように」
とお願いをして帰ってきました。
次の日も次の日も、そのまた次の日もこいのぼりは、お参りに行きました。
そのおかげでしょうか?
ひろくんは〈子ども日〉を待たずに退院して帰ってきました。
おばあちゃんは、
「それじゃ。こいのぼりをあげようね」
と、こいのぼりをかかえて、庭におりていきました。
こいのぼりは、おおよろこびです。
ところが、ひろくんは、目を丸くしました。
「どうしたの?」
「だって」
こいのぼりのお腹に、赤いスタンプがついていたからです。
「まあ」
おばあちゃんも、目を丸くしました。
だって、そのスタンプは、おばあちゃんがお参りに行ったときに押してもらう朱色のスタンプだったからです。
おばあちゃんは気がつきました。
「ひろくんのためにお参りに行ってくれたんだね。ありがとう」
こいのぼりは、幸せ気分で、今日も元気に泳いでいます。
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