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死にたい夜に効く話【12冊目】『聞く力』阿川佐和子著


我ながら、なかなかのコミュ障であった。

今でこそ、「わたしはコミュ障です」なんて話をすれば、「またまた〜w」と言ってもらえるぐらいには、人と関わることに困っていない。
でも本当にひどかった。

小学生の頃は良かった。物静か=大人びている、といい感じに解釈されてたことや、なぜか周りの友達が陽キャばかりで、いい感じに輪に入れてたりと、なんだかんだ乗り切れてしまった。

だがしかし、中学で色々あってから、人間不信と人間への恐怖心が爆上がり。もういっそ、最初から人と仲良くならなきゃ嫌な思いしなくて済むじゃん?と人とコミュニケーションをとることを最初から放棄し始めるようになった。そりゃあ、人と話さないんだから、コミュ力は上がるどころか、むしろ衰退していく。

しかし、まぁ、大学生になってようやく気がつく。
「このままじゃ、まずいのでは?」
生きやすくなりたいから、人と関わらないようにしてきたのに、全然生きやすくないのだ。
わたしにとっての大学時代は、コミュ障克服猛特訓の時期でもあった。

『聞く力』は、そんなコミュ力特訓時代に読んだ本。
これまで、とてつもない人数にインタビューをされてきた阿川佐和子さんが、コミュニケーションの極意を教えてくださる。単なるノウハウ本ではなくて、阿川さんが実際に経験したエピソードを主軸に話が進んでいく。


読んでみて、そうか、わたしはこれまで、何を「話すか」ということにばかりに意識が向いてたんだなぁと気がついた。

人と話をしていると、微妙な間ができたりする。それを避けたくて必死に話題を探すのだが、空回って、むしろ白けた雰囲気を出された日には最悪である。あの気まずーい地獄の間。
なんとか間を持たせたくて、次は何を言えばいいんだろう、どの話題を出せば正解なんだろう、面白い話をしなくては…ということばかり考えていた。

目の前の相手と話をしているようで、実は自分の内側にばかり意識が向いていたのだ。

大学時代は、コミュニケーションに関する大量の情報を読み漁っていたが、やっぱりどこでも書かれていたのは、大事なのは上手に「聞く」技術を身につけることだった。

じゃあ、「あーそうですか、ハイハイ」と話を聞いていればいいんでしょ?っていうわけでもない。「聞く」と一言で言っても、相手に対する、ちょっとした言葉や仕草や反応、聞く姿勢。そんな、ちょっとのことで相手の態度が変わったりする。その後のコミュニケーションが断然とりやすくなったりする。
大学生になるまで、そのことを知らなかった。

だが悲しいかな。「ほうほう、なるほどなるほど」と本を読んでコミュ力が上がれば苦労しない。自分も結局、実践して失敗して、また実践してを繰り返して、ようやく自然にできるようになっていった。

でも、人によって、生まれつきの得意不得意は違うし、環境だって違う。これだけやっておけば正解なんてものもない。努力と根性で克服せよ!なんてことは口が裂けても言いたくない。

ただ、もし今、現状をどうにかしたい…と思っている人がいるのなら、「これなら真似できるかも」って部分を見つけて、最初はハリボテでもいいから試してみるっていうのはいいんじゃないかしら、と元コミュ障としては思うのです。

〈参考文献〉
阿川佐和子『聞く力:心をひらく35のヒント』文藝春秋、2012年