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死にたい夜に効く話【14冊目】『かもめ食堂』群ようこ著

わたしはムーミンに恐怖を覚えるタイプの人間だ。少なくとも、これまで生きてきて、わたしほどムーミンにビビってる人間に出会ったことがない。

幼少期にムーミン案件で恐怖体験をしてからというものの、ムーミンは長い間トラウマだった。大学を出たあたりでようやくそこまで怖がらなくなったが、ムーミンを見かけるたび、いまだに「ムーミン…」と条件反射で身構えている自分がいる。

そんなわたし。
「海外行くならどこ行きたい?」と聞かれたら「フィンランド」と答えている。


『かもめ食堂』はフィンランドのヘルシンキが舞台の小説。

料理人であるサチエさんは、単身フィンランドに移住し食堂を開く。初めこそ、現地の人に遠目で怪しまれていたものの、徐々にお客さんが入ってくるようになり、同じく単身でフィンランドへやってきたミドリさんとマサコさんも従業員に加わって、賑やかな?食堂での日々が描かれる。

嫌な人は出てこない。なんとも読んだ後は、ほっこり幸せ気分になれる小説だ。

食堂を開くという目的を持って移住したサチエさんと違って、ミドリさんとマサコさんは、特に目的や目標があってフィンランドにやってわけじゃない。
ミドリさんは長年勤めた会社が倒産して。
マサコさんは親の介護がひと段落して。
最初のきっかけは違えど、二人ともに共通して言えることは、本当に勢いに任せて日本を飛び出してきたっていうとこ。この先どうするか、本人たちにもわからない。
でも二人とも、サチエさんに出会って、かもめ食堂という居場所を得て、すごく活き活きしていて楽しそう。

そんな二人を見ていると、何かしたいことがあるわけじゃないけれど、思いつきと偶然に身を任せて(もちろん危険なことはダメだけどね!)とりあえず動いてみる、というのも時には悪くないかもしれない。

自分も思い返せば、なんとなく、とか直感で動いたときは、いい出会いがあったり、意外と上手くいってしまった、なんてことはよくあった。

何かしなければ、何をこれからやるのか決めなければ、あれをしなければ、こうしなければ、と計画性を(特に学生は)やたら重視されがちだけど、ここに出てくる人たちを見ていると、そんなキリキリした気分を軽く吹き飛ばしてくれる。

だから読んだ後、なんかわかんないけど、スッキリしたわーっていう気分になるのかもしれない。



わたしが「かもめ食堂」を最初に知ったのは、映画の方だった。観たのは大学生の時だったか高校生の時だったか。

海外旅行にもまるで興味がなかった自分でも、画面越しに見るヘルシンキの空気感に、「なんかいいな〜」とすごくいいイメージを持ったんだろうな。

もしや、ムーミンとの因縁も実はフィンランドとのご縁の伏線だった、なんてこと…いやないか。


〈参考文献〉
群ようこ『かもめ食堂』幻冬社、2008年