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墨書太書きの脳


『唯脳論』
養老孟司
ちくま文庫

かなり前の著作で(25年前)、「養老孟司『唯脳論』批判」で検索するとさまざまに糞味噌批判されている。
脳科学的な見地からすればすでに古い、もしくはデタラメということなのかもしれない。
細部の整合性のことなど素人の僕には何とも言えないが、こういう墨書太書きの脳と意識の話は大好きである。

以前読んだ別の脳科学者の「意識とは脳の機能を事後的にモニタリングする機能のことである」という言説も、養老孟司の「意識とは要するに脳が脳のことを考える、ということである」という乱暴な断定を下敷きにしていると思われる。
乱暴というけれど、僕ら素人にはこれくらいの墨書でないと読めないのであって、実際は緻密繊細な脳の話を、ここまで太筆で書けるところがこの人の凄さなんだろう。普段からロットリングで細密画を描いているような現場の脳科学者たちには、たぶん太すぎて読めないのだ。

以前にも丸谷才一が忠臣蔵=カーニバル論という太書き本を出したとき、細密画の国文学者がまじめに食ってかかって噛み合わない喧嘩が起こったことがあったが、同じ構図であろうと思われる。

「意識とは要するに脳が脳のことを考える、ということである」

本当に墨書して壁に掛けたくなってくるではないか。

(シミルボン 2016.10)

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