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ジョブ型って最近よく聞くけれど・・・

このところジョブ型という言葉を聞く場面が増えたと思います。実は内容を詳しく知らないまま、これからの日本に必要だと思い込んでいませんか?

■はじめに

『人事の組み立て~脱日本型雇用のトリセツ~』
どんな本→日本の人事制度の課題と目指すべき方向をズバっと指摘
読みやすさ★★★★☆(読みやすい)
日経BP 2021年出版
著者:海老原 嗣生

コロナでリモートワークが進みつつあるせいか、はたまた年功序列制度が疲弊しているせいか、ジョブ型雇用という言葉をよく聞くようになりました。日経を開けば、載っていない日のほうが少ないのでは?というくらい目にします。

自分自身、これまで深く考えずに「ジョブ型とは職務記述書をしっかり交わすことで、やるべき任務が明確になり、成果が可視化しやすくなる制度」と安易に考えていました。実際の欧米の働き方を知ろうとしないまま...

本書ではそういった「流行りもの人事」を毛嫌いする著者が、欧米と日本の仕組みの違い、そして日本が進むべき道をとことん丁寧に解説してくれます。一読すれば、著者の主張に納得できるのではないでしょうか。

グラフや図がふんだんに使われている上、定期的に読者に対して問いが入るので理解を深めやすい構成となっています。普段人事に携わっていなくても、日本で働く私たち自身が知っておくべき大切な内容が書かれている書籍です。

■学びたい3つのポイント

①欧米の働く仕組みは、ジョブ型ではなくポスト型

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欧米にはそもそも「ジョブ型」なんて働き方はない。彼らの人事制度の基本は、以下の通りです。
①ジョブ=ポスト(同一ポストに色々な賃金・役割の人が混在しない)
②ポストは定数が決まっている
③組織計画ではまずポスト数が決められる(人に合わせて増減しない。ポストに合わせ人を増減する)
④ポストは勝手に変えられない(本人同意が必要)
この4つが欧米型雇用の基本であり、その結果、欧米型のキャリアが形成されるわけです(P78)

著者が「日本式ジョブ型」という言葉を揶揄するために頻繁に出てくるのが「日本式欧米流働き方」という表現です。あくまでも人事制度の根幹が異なっているのに、安易に考えるなという警鐘です。

上記の引用にあるように、欧米ではポストに給与がつくという考え方です。対して日本では個人に給与がつくことが大半です。皆さんの会社でも、新卒で入社してから、緩やかに昇給していく人が多いのではないでしょうか。管理職までは、ポストの存在を意識しない人も多いはずです。

詳しくは本書に譲るとして、ポストを中心とする欧米では本人の同意なく勤務地も職種も変ることがありません。そして同じポストにいる限り、給与も上がらないのです。据え置きの給与で自分のペースで働き続ける一般層と、高給とハードワークを受け入れる一部のエリート層を区別することから欧米の働き方への理解が始まります。

②階段を上がり続けることが求められる日本

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日本型の場合、年齢とともに役職や給与も上がる仕組みになっているため、この階段から外れないように、と皆必死で働きます。(中略)「今の仕事ができるようになったら、次の難しい仕事」という無限階段を上り続けるため、慣れた同じ仕事を続けるよりも労働時間は延びます。こんなことが相まってWLBが犠牲になるのです(P91)
※WLB=ワークライフバランス

ポストによって給与が固定される欧米に対して、日本では様々な仕事を経験させて本人の成長と共に給与も上がっていくというパターンが中心です。そして目指すところは管理職、役員・・・と続いていきます。

利点を挙げると、ある程度の年次までは、社員を明確に区別せず「誰にでもチャンスがある」として、社員のモチベーションを高めることができます。しかし、裏を返せば会社や上司の側に権力が集中する危険性もあるのです。

この「会社や上司の期待に応えたい、という働く側の気持ち」と「厳しい内容でも顧客の要望を受け入れざるを得ない、という日本特有の環境」が、長時間労働を助長していると筆者は指摘しています。

③これから求められるのは新しい選択肢

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今まではそこに答えを出さず、皆が管理職になれるという幻想の中で、やみくもに働いていたのです。それでも、多くの人が昇進できたバブル期前までならこの働き方にも帳尻があったでしょうが、今は「半分以上の人」が課長になれません。(中略)同じ給与で同じ仕事を続ける「階段から下りる」コース設計こそ、「本物のジョブ型」だと早く気づいて欲しいところです(P170)

日本では海外に比べて、非正規雇用の待遇が厳しいとされています。そのため一度正社員になった人は、自らの待遇を守るためにも、階段を上り続ける努力を強いられてきました。

しかしその結果が、生産性の伴わない長時間労働という悪しき日本の習慣に繋がっています。「一家の大黒柱」として男性が稼ぎ続けるべきという考えも根底にあるため、ワークライフバランスも進みません。

これらの改善のために筆者は、キャリアの途中で「ノンエリートコース(ポスト型)」を選択できるようにすべきと提言しています。働く量と給料をある程度抑えて、ワークライフバランスを重視するという選択肢です。

■まとめ

コロナ禍や少子高齢化などで、日本の働き方も今度こその転換期を迎えているのは間違いありません。人事の担当者だけではなく、若手社員から経営者までが、現在の課題を共有していく必要があるでしょう。

本書を読むことで、欧米流にも日本流の働き方にもメリット・デメリットがあることが理解できると思います。制度の歴史的背景や労働に関する法律、文化について、学ぶことは多くあります。

今回、自分自身に当てはめても、日本の「上がり続ける階段」に囚われていることを強く実感しました。これからの自身のキャリアをどう考えていくべきか。厳しい現実を突き付けてくれる良書です。


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