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ワークマン快進撃の裏側を全て公開

作業着の専門店だったワークマンが現在急成長しています。その快進撃には、同社が大切にしてきた「しない経営」の更なる進化がありました。

■はじめに

『ワークマン式「しない経営」―― 4000億円の空白市場を切り拓いた秘密』
どんな本→ワークマンを変革した著者による同社の経営哲学の解説
読みやすさ★★★★☆(読みやすい)
ダイヤモンド社 2020年出版
著者:土屋 哲雄

「ワークマン女子」という言葉も聞かれ、近年はアウトドアをメインとした新しい業態の「ワークマンプラス」の店舗も増えてきました。先日発表された21年3月期決算でも増収増益に加えて、過去最高益を出しています。

もともとは「作業着」というどちらかと言えばニッチな市場で成長してきたワークマンがなぜここまで快進撃を遂げることになったのでしょうか。この立役者となったのが本書の著者であり、ワークマン専務の土谷氏です。

土谷氏はワークマン出身ではなく、商社マンとして三井物産に長く勤め、還暦直前の2012年、ワークマンに入社しました。創業者であり会長となっていた叔父に誘われたのです。しかし入社の際に命じられたことは「この会社では何もしなくていい」というものでした。

ワークマンの「しない経営」とはどのようなものなのでしょうか?

■学びたい3つのポイント

①しない経営=必要なことだけをする経営

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全国の経営者に問いたい。死ぬほど頑張って四半期売上を達成して何の意味があるのだろうか?小手先で売上が上がっても会社は全然うれしくない。誰にでもできる仕事に標準化するからこそ、30年、40年と続くダントツ経営ができる。それにはまず、絶対に勝てるポジション取りをすることが重要で、次に誰がやっても売上が伸び続けるしくみが重要となる。会社は個人の頑張りには頼らない((115-116P)

本書では開いて最初のページに、ワークマンが徹底してきた「しない」ことが列記されています。残業、仕事の期限、ノルマといった社員に対しての内容に始まり、競合、取引先、経営方針と幅広い分野で「しない」ことが書かれています。

しない経営を突き詰めると、研ぎ澄まされ、必要なことだけを徹底的にやる会社となっていきます。土谷氏が入社する前からワークマンは、必要なことだけに取り組み、作業着という市場で首位を走ってきました。

自社が勝てるポジションを見極めること。そして、社員が必要以上に頑張らなくても売上が伸び続けるしくみを作ること。言うは易く行うは難し、と言えばそれまでですが、この2つの構築に成功したことでワークマンは成長し続ける会社となりました。

②経営幹部は一つの目標に徹底的に取り組むべき

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幹部が思いつきで何かを始めることほど会社にとってマイナスなことはない。社員はやらなくてもいい仕事に時間を取られて迷惑だ。ビジネス書を読んで思いついたこと、セミナーや勉強会で聞きかじったことなどを、すぐに自社に当てはめて実施しようとしても成果は出ない(中略)いい経営者こそアイデアが浮かぶ。ビジネス書を1冊読むたびに新しい事業アイデアや改善案が浮かぶ。それを封印するのは結構つらい(中略)鈍感に見えるくらい愚直に一つの目標しか持たず、それに没頭するのが本当にいい経営者だ(P143-145)

「しない経営」は経営幹部に対しても我慢を強いる経営です。著者の土谷氏も商社マン出身だけあって、これまで様々な事業を興してきた人です。それゆえに、しないことの辛さが赤裸々に書かれています。

真面目な経営者であればあるこそ、何か現状を変えるために多くのことが気になるはずです。最新の経営理論、他社の成功事例、外部が持つ知見など。そもそも本書を買った理由も、私自身、ワークマンがどのように躍進したか興味があったからです。

「しない経営」を貫き、愚直にひとつの目標に没頭することこそ経営幹部がなすべきことである。日々新しい情報が大量に入ってくる時代だからこそ、示唆を得られる言葉ではないでしょうか。

③普通の経営者と社員で勝ち続ける「エクセル経営」

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ワークマンのデータ経営の神髄はエクセルの活用にある。だから私は「エクセル経営」と呼ぶ(中略)ワークマンの理想は、優秀なリーダーに社員がついていくという姿ではない。普通の経営者を普通の社員が支えながら、市場で圧倒的に勝ち続けることだ(中略)エクセルでデータを分析し、発見し、改革を考える。単にエクセルのデータをつき合わせるだけでなく、エクセルを使って自由に議論することで、社内の知恵を集められる。普通の人の知恵を集めてできる「エクセル経営」こそワークマンの目指すものだ。非凡な人はいらない。頑張らなくてもいい(P164-165)

ワークマンが快進撃できているのは、「しない経営」と「エクセル経営」の徹底にあるというのが本書の一貫した主張です。しない経営であった同社が唯一社員に負荷をかけてでも新たに取り組んだのが「エクセル経営」でした。

「エクセル経営」とは、全社員が独自に仮説と検証を繰り返し、社内の知見を常にアップデートさせていくものです。難しいシステムを使わずとも、エクセルを活用すれば、誰もが日常的にデータと向き合うことができるようになります。

それまで社員の感覚や経験値といった非言語で行われてきた業務に、「データ」という共通言語が加わったことで、全ての業務が精緻化されるようになりました。全社員がデータを活用することで、一部のエース社員に期待することなく、組織として成長する強い土台ができたのです。

■まとめ

本書を読むまでワークマンの快進撃について、新業態が話題になった一時的なブームなのでは?という疑念がありました。しかし、その快進撃の裏には全てデータという根拠があり、ロジックを持った取り組みであることがわかります。

しかもそのデータは社外の専門家や一部のデータサイエンティストが導き出したものではなく、普通の社員たちが日々エクセルを活用して見つけ出したものです。

「全社員が毎日データに触れ、多様な仮説を想定し、それらを検証した上で、最善策を実行し続ける組織」というとより凄さが伝わるかと思います。

「エクセル経営」で現場は確固たる意思を持ち、経営幹部は「しない経営」でなすべきことだけを徹底的にやり抜いていく。この二つが掛け合わさっているワークマンは、今後もさらに成長していくのではないでしょうか。

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