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国会における野党の役割とは? #25歳からの国会

こんな疑問に答えます

- 予算委員会なのに、なぜ「予算」ではなくスキャンダルばかり追求されるの?
- 野党の「対案」とはなにか?

さて、立法府における野党の役割とは一体何なのでしょうか。なぜ野党は反対ばかりと言われるのか、対案とは何なのか、解説します。


「予算委員会」で話されない予算の話

 伝統的に、予算委員会というのは、もちろん予算を本体として議論するわけでございますけれども、そのときそのときの問題点がいろいろ、スキャンダルであるとか犯罪にやはりあらわれてくるんだろうと思います。そのこと自体が予算と余り関係ない場合も、それは今までなかったわけじゃありませんけれども、予算に関係ないとは私は思いません。
 予算の質を向上する上では意味のあることだと思いますが、やや、全体を見渡した議論ももう少ししていただきたいなというのが、大変答弁する者として傲慢かもしれませんが、率直な感想でございます

谷垣禎一 財務大臣
平成18年2月22日 第164回国会 衆議院予算委員会

冒頭、「予算委員会なのに予算の話がないのはどう思いますか?」問われた際の、谷垣禎一財務大臣(当時)の答弁をご紹介しました。


「予算委員会なのに、なぜ予算の話ではなく、スキャンダルの話ばかりなの?」とは、よく聞かれる疑問です。この疑問に答えるためには、議会制度を考え直さなくてはいけません。

日本の議会制度は、アメリカ型とイギリス型の中間と言われています。イギリスの議会制度は本会議中心、アメリカ型は委員会中心です(これは、戦後アメリカの影響を強く受けながらも、大統領制ではない日本がイギリスの仕組みを参考にした結果だと言われています)。

日本の議会制度は、本会議がありながらも、大小様々な委員会があり、委員会で主な質疑が行われるという仕組みになっています(例えば、財務金融委員会、外務委員会、環境委員会など)。

「国会は批判ばかり。建設的議論が存在しない」というような意見がありますが、それは一面的な批判です。

衆院の予算委員会では総理のスキャンダルが追求されるさなか、参院の外交防衛委員会では北朝鮮のミサイル問題について議論をし、決算行政委員会では……と、一日の中でも別々のトピックについて議論されていることも珍しくありません。

また、予算委員会の分科会ともなれば、8個の分科会が同時に立ち上がりあちらこちらで一日質疑が行われています。(官僚の方には大変な一日のようですが)


スキャンダルばかり?

このような委員会制度の上で、衆参合わせても、ほとんどの委員会はテレビに取り上げられない地味な話をしているものです。

もちろん、内閣を揺るがす、省庁横断的な大きなイシューの場合、どの委員会でも冒頭そのトピックが取り上げられる、ということがないわけではありませんが、それはあくまで例外です。

このような委員会はほとんどテレビには映りません。


テレビに映る唯一の……そして、あらゆる委員会で最も注目される委員会が、冒頭でも話題に上がった「予算委員会」です。あまり国会に詳しくない方も、名前くらいは聞いたことがあるでしょう。

一般に予算委員会は、所管する予算だけではなく、執行する主体である行政府(内閣/政府)の広範な問題について質問することが許されており、例えば閣僚のスキャンダル、政権の基本的な姿勢、首相の個人的な問題や見解について質問することが慣例的に許されています。


党首討論の意義とは

このような予算委員会のあり方に疑問の声もあり、スキャンダルを審査すべき特別調査会を設置するべきだ、との提言がたびたび、時の与党側よりなされることがあります。

このような意見にも一理あると言わざるを得ません。

本来、このような問題点を解消するために「政治改革四法」で設置されたのが、国家基本政策委員会、いわゆる党首討論です。党首討論は、原則としては毎週開かれることになっています。(繰り返しますが、毎週です)

しかし、実態として、党首討論は近年どんどん開催が減り、今では一年に一回あればいいほうです。

本来毎週開催されるはずの党首討論が開催されないことは、国会審議活性化法を空文化させるもので、このような姿勢の中で

日本において党首討論が十分に開催されていない代わりに総理入りの予算委員会が組まれている、という実情もあります。

しかし、予算委員会で総理が答弁するのは近年予算成立前までになっており、国会において行政府の長たる総理が立法府の質問を受ける時期が極端に短くなっているのは問題です。


野党の「対案」とは何?


金融再生法につきましては、私が総理の了解を得て民主党の案を丸のみしたという経過がございます。
また、平成十一年の自民党と自由党との連立の際に、議員立法でありましたが、自由党が要求した国会審議活性化法を成立させた。これは、党首討論、さらに、政府委員制度の廃止、副大臣、政務官制度の創設等を内容とするものでございまして、官僚側からは強い抵抗もありましたが、国会審議に官僚が関わる機会を少なくし、国会議員の審議の参加を多くする改革でありまして、議院内閣制を活性化する狙いであったと存ずるわけでございます。

野中広務参考人(元官房長官)
平成26年2月19日 第186回国会 参議院国の統治機構に関する調査会

「対案」という言葉は、常に野党を批判する際に出されてきた文脈です。いわく、野党には対案がない、という批判が度々メディアに踊りますが、果たしてこれは正しいのでしょうか。

実は政策を提案するだけであれば、私でも、あなたでも、誰でもできます。簡単です。難しいのは「政策実現」です。どうも「政策提案」というと、すっぽり「どう実現するか」という力学が抜けてしまう印象があります。


野党による政策が実現する例で最も有名なのが、冒頭ご紹介した野中広務さんが語っておられた金融再生法です。

これは、1998年のいわゆる金融国会で、バブルに伴う破綻処理のために提出した法律ですが、当初政府が提出した法案を、野党が一貫して拒否することで、最終的には民主党が提出した法案を「丸呑み」する形で成立しました。(小渕総理は様々な法案を丸呑みしたため、田中真紀子氏から「パックン宰相」と呼ばれてしまいました。余談ですが)

なぜこの金融国会において法案が成立したのでしょうか。当時の民主党は、今よりも「提案型」の野党だったのでしょうか?そうではありません。参議院で自民党が過半数を割っていたからです。


与党が野党の政策を実現するか、というのは議会と与党の力関係の問題であり、野党が決められることではないのです。「対案を出そう」と自己定義して政策を出していても、実態としてそれが成立するためには、議会の中で「法案を止める」権限がないと、難しいのが実情です。


どのようにして法案は成立するか

一般に、法案が成立するためには「事前審査」が行われます。政策部会などを通して党の議論を行い、党からのオーソライズを受け、連立政権であれば、与党内での調整も行い、提出されます。

この事前審査制については、河野太郎衆院議員も度々批判するなど、日本の悪い慣習として考えられることが多く、民主党政権の一時期は(部分的に)廃止されていました。


与党内で了承してから法案が出されるため、与党議員が個人的に反対していても、それに造反されないために「党議拘束」がかけられます。

日本以外の国でも議院内閣制の国では一般に党議拘束がかけられることが多いですが、イギリスでは法案によっては比較的党議拘束が軽く、造反が許されているケースもあります。


ともあれ、日本において法案成立のプロセスには政府与党がかっちりと関与しており、法案成立させるためには連立入りする必要があるのが実情です。

金融再生法において野党として法案成立に関与した自由党は、その後自自連立・自自公連立政権として連立政権に入りました。


野党は反対ばかり?

法案成立のプロセスがわかったところで、いよいよ国会における野党の役割について考えてみましょう。野党が反対ばかり、という批判がよくなされますが、これは正しいのでしょうか?

議会をアリーナ型議会(多数派議会)とコンセンサス型議会(変換型議会)の2つのタイプに分けたのが、ネルソン・ポルスビーです。


アリーナ型議会とは、イギリスを典型とする議会政治の制度で、与党と野党が激しく争い、法案は基本的に与党が考え、成立させ、野党は基本的に徹底して批判します。

コンセンサス型議会は、ドイツが典型ですが、与野党で話し合いながら政策を修正し、可能な限りの合意形成を試みる議会です。

アリーナ型議会とコンセンサス型議会の2つは、どのように決定されるのでしょうか?それは、選挙制度と議会制度の違いにあります。

イギリスは単純小選挙区制であり、小選挙区は、一般にデュヴェルジェの法則(候補者数は、選挙区の当選者数の+1人に収束していくという法則)により、基本的に二大政党に向かっていく、とされています。


小選挙区制度の中では、少数政党も二大政党に吸収されていきます。与党は過半数を持つため、基本的に他党に配慮する必要がありません。そのため、野党第一党は常に政権交代を準備し、行政監視機能を果たします。

対して、ドイツやスウェーデンは、議席数を基本的に比例で決めています(ドイツは比例代表併用制で、一部小選挙区で決まるケースもありますが、基本的には比例)。

比例代表制は基本的に、死票が少ないため多党化します。そうすると、圧倒的に得票数を伸ばす政党がなくなるため、必然的に与野党間の協力や大連立(ドイツは二大政党のCDUとSDPが長く連立を組んでいました)が行われます。

つまり、野党が提案型なのか、追求型なのかということは、議会制度と選挙制度の問題であり、野党の問題ではないのです。


議会制民主主義における立法の役割を果たすのは、野党

日本で一番偉いのは、総理大臣?」でも述べましたが、そもそも議会というのは、もともと絶対君主の監視役として始まりました。

名誉革命以降議会の優位が確立する中で、国王の代理としての首相や内閣という役割が誕生し(未だに女王陛下の政府、と呼ばれます)、徐々に「君主=行政」の権力の範囲が狭まっていく中で、行政と立法を一つの政党が制する、というある意味でいびつな構造になったのです。

(余談ではありますが、君主ではないものの、ワイマール憲法時代のドイツは大統領の権限が強すぎたために大統領令が連発され、内閣が機能不全に陥ったため、戦後のドイツ連邦共和国においては大統領の権限が大きく制限され、代わりに首相が大きな権力を持つようになっています)


行政の監視をするために生まれたはずの議会が、結果的に行政を握る。この矛盾を解消するために、議会制民主主義の国では様々な形で「野党」を優遇しています。日本でも、質疑時間は優先的に野党に割り振られているのはこのためです。

ということで、政府と与党が一体である以上、三権分立の観点から見た「立法府」の役割は野党が果たすことになります。国会 = 野党といっても過言ではないのです。


国会と法廷

よく言われるエピソードに「ある会社では、全員が賛成する意見は不採用にする」というものがあります。

この話の真偽はさておき、全員が諸手を挙げて賛同する計画は危ない。さらに言えば、全員が賛成してしまうような環境は危険である、というのは一つの知恵なのではないでしょうか。


例えば、法廷を思い出して頂くといいと思います。検察は被告人を厳しく断じ、弁護士は、徹底して被告人の利益になるよう、あらゆるロジックを駆使して戦います。

どんなに利己的な動機の犯罪者であれ、何人もの人を殺した殺人犯であれ、弁護人が「こいつは悪いやつだ!極刑にしましょう!」などと言い出したら話になりません。

党と野党のやりとりも、それに似ています。与党は、一度組み上がったロジックを決して壊さないようにする。与党は決して「私は間違っていた」とはいいません。不祥事にしてもそうです。野党はそのロジックのおかしさを突きます。

一種のディベートのようなものです。そして、ロジックに詰まれば答弁は止まり、論理の立て直しを図ります。

野党と与党のロジックを丁寧に聞き取り、本当に政府与党の答弁が倒れていない(ロジックが破綻していない)のか?ということを、我々国民一人ひとりが、判断しなくてはいけないのです。野党は政府与党に提案するのではなく、質疑を通じて、政府の論理を国民に示しているのです。


ディベートの前提とは

国会はディベートであると書きました。ディベートにおいて最低限のルールとは、証拠を隠したり、改ざんしないことです。

残念ながら、近年情報を隠したり、公文書を改ざんしたり、様々な情報隠蔽が起きてしまいました。

更に国会答弁では「答えは差し控える」「記憶は定かではない」など、いわゆる「逃げ」が横行し、議論する前提そのものが壊れています。そのような「禁じ手」をどう判断するのかは、最終的には皆さん一人ひとりの判断です。

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