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ハイヒールシューズ

すきで履いているハイヒールシューズなのに「えらいねー」と言われることがよくある。100%それは同じ年ごろの女性たちから発せられる言葉なんだけど、その度になんかまごまごした気持ちになってしまう。決してその「えらいねー」は嫌味でないことは、口振りからまっすぐ伝わってくる。その背景はなんなく推測ができて、痛い思いをしてそれでもハイヒールシューズを履くなんて「女を捨てていない」みたいでえらいな、と言われているようで胸がしんなりしてしまうのだ。わたしごときがごめんなさい…という気持ち。

最近はハイヒールシューズとフェミニズムが関連して取沙汰されていたりするが、履きたくないのに履かなければならない規定の方は真に同情するが、履きたくて履いている人のことは…放っておいてほしいと思ってしまう。仮に黒一色のコーディネートを好んでいる人に、「多色使いをしないなんてえらいねー」なんて言う人はいないわけで。そしてわたしは別段、がんばっているわけでもなんでもなく、おそらくは育った文化のせいなのに。

ファッション誌で仕事をしていた頃、ハイヒールシューズは暗黙の必須ルールであった。しかも7センチヒール以上。これは、だんだんと「どうやらこの会社ではそれが暗黙のルールなのだな」と知るともなしに知っていく。なぜならば、やはりお洋服を美しく見せることに徹すると単純に行く就く回答なだけだ。もちろん、今のように白スニーカーやファッション性の高いフラットシューズの選択肢がなかった時節なので、もっとも無難な正解だったに過ぎない。3センチや5センチのヒール靴が気休めに存在したという時代だ。

自分は営業職だったので、そうした靴で一日にたいそうな距離を歩くので、すぐにかかとがだめになった。いっとき病気をして治療の後遺症で脚をわるくした際には「もう封印だな」と潔くハイヒールシューズにお別れをしたが、2年前くらいから脚の調子も少しよくなったし「そろそろ好きなように靴を選びたい」と思った頃、自然とハイヒールシューズを履くようになった。やはり背筋がすっと伸びる気がするし、オンとオフのスイッチを切り替えるような社会性がわたしにとって感じられるからだ。何より脚を美しく装うことができるのだし。

女性たち、あなたが好きでハイヒールシューズを履かないことに、後ろめたさは要らないのですよ。それだから、わたしが心ときめかせて履く靴を見て「えらいねー」とどうか言わないで。その代わりに「素敵ね」と言ってくれたなら、わたしもとてもうれしいのです。

photo by Ryan McGuire

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