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夢のように美しく

夢のように美しい傘を買いました。それはもう、ずっとしばらくの間逡巡してきたもので、なにしろ傘にしては高額に思えたし(ちなみに今使用しているのは500円のビニール傘)、用途に見合えばなんでもいいのではないかなどの、自分の頭がやんやとつけてくるいちゃもんに正面から回答することができないでいたのでした。けれども今日、空気をぎゅっとぞうぎんのように絞ったら、しずくとなって今にも雨が降り出しそうな、高い高い湿度の日にわたしはその傘を求めたのでした。

特別な例外をのぞけば、仕事で外出するときに降っている雨は大嫌いです。とても気分が内向きになるし、ちょっとしたことでも心がさざ波だってしまうようなセンシティブな状態になってしまうのです。それなので思っていました。「これはきっと、美しい傘が、夢のように美しい傘が必要だ」と。

鈍色のどんよりとした空からさーっと雨が降り注ぐ朝に、「ポンッ!」とこの傘を開いたら一瞬で気分が晴れそうなしろものなのです。「夢のように」というからには、いくつかの色が交差してまるで印象派の絵画の世界を思わせます。だからといって、騒々しい色彩であってはいけません。飽きが早くきてしまいますから。くるくると回せば雨粒を光のしずくに変換して空へ解き放ってくれるでしょう。小さな傘の下、そこだけがまるでモネの午後の午睡のように。

お店では、何本もの傘を開いてもらって鏡に映してみました。傘それだけの絵柄として美しいものと、開いてさしてみたときの雰囲気は微妙に異なるものです。最終的に2本に絞った後、改めて開いてみたところ、「これだ!」とフィットするものがあり、それを選んだのです。

できるなら今夜、使わないで済むことを願います。なぜならやっぱり、一番最初は明るい昼間の空の下で、この傘をデビューさせてあげたいじゃないですか。あふれる色と光が雨粒をポップに弾いているそんな様子を心待ちにしているのです。

photo by 55Laney69

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