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「奇妙」

これで4冊目を読了、あの人が薦めた本。しかし、いずれもずいぶんと昔の本ばかりでこれらを彼がいつ、どの年代で通り過ぎてきたのかも興味がわくところだ。不思議なことに、個人的な質問にはほとんど答えない人であるが、自ら紹介した本にまつわる質問にはかなり雄弁に答えてくれる。あまつさえ、関連して別の書籍も薦めてくれたりするほどだ。

もとよりピグマリオンの、ヒギンズ教授のような傾向は持っていた人であったことを思い出した。さて『プリンセス・ブライド』である。万が一、今後読んでみたいと思う方は以下はとばしていただけるといいかと思う。


正直なところ、クセが強い本。メタフィクションという分類に属するのだけれど、個性という点ではそれ故ではないと思う。わたしは初めて見たと思う、途中途中に赤い文字色にしてある文庫本というのは!簡単に解説すると、作者ウィリアム・ゴールドマン本人が、作中で幼少期に父親に読み聞かせてもらったお気に入りの一冊『プリンセス・ブライド』を、今度は自分の息子の誕生日に贈ったのだが、読み返してみると父はかつて、面白いところだけを読み聞かせてくれており、つまらない記述はすべて割愛していたことを知る。そこでゴールドマン自身が、作品に赤い文字で注釈文をたっぷりとつけながら、リライトして面白くまとめなおした、という体裁を取っている。

しかし作家本人の名前こそそのままであるが、妻、息子は架空の人物でありもちろん過去に父親が読んだという『プリンセス・ブライド』の原典などあるはずもないという。ね?とても風変りなのだ。

わたしはでも、この作品に出逢って非常にユニークな作品の書き方というものを知ることができ、自分の選択眼では遭遇するはずもなかった一冊であり、その点において彼に非常に感謝した。作者がどういう狙いでこうした物語を執筆したのかはまったく想像もできないし、何よりあの人がなんでこんな不思議な本を購入し、かつわたしに薦めてくれたのかもまったく謎のままだ。

もちろん尋ねてはみたのだ。「映画もあるらしいけれどずいぶん古い本だし、あなたはどうしてこの本を読もうと思ったの?」と。なんとも肩透かしな返答がかえってきて、「当時書店で平積みになっていて面白そうだと思ったから」という。結果として彼には大きな余韻を残す一冊となった。

ファンタジーの体裁を採りながら、作者が遊びに遊んで書いたことがわかるし、ちょっぴり怖いのがところどころに人生を斜めに見るシニカルな視点がくっきりと感じられること。なんたって、物語の結末すら明確には書かず、「ざっとこんな感じ」という紹介で終えているのだから。もう本当に斜に構えている。

強烈な印象を残す、という点で大いに成功した1冊であることはたしか。

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