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Bunkamuraで『ヘカテ』

映画「ヘカテ」を観てきた。何がよいって、映画館で映画を鑑賞するという体験に今こそ歓びを感じたことはないかもしれないな、ということ。しかも、ここ最近は見たい作品というよりは仕事柄、「これだけ流行しているからには見ておかないとならない」といった理由からしぶしぶ映画館へ足を運んでいたような気がしていて、心から自分の趣味に忠実に鑑賞した作品という意味では非常に久しぶりだったのだ。(画像出典:映画『ヘカテ』公式サイトhttps://hecate-japan2021.jp/)

そして、Bunkamuraの映画館「ル・シネマ」はミニシアターであり、良質な作品を上映してくれるので、距離が近いこともあって以前はよく通っていた。忙殺という文字通りの状況に入りこんだ日々のなかで、大人たちが静かに作品世界に没入する文化的空間に数時間身を委ねられたことに、心が想像以上に満たされた。

作品自体はリバイバルされるくらいだからもちろん良い。ボリュームヘアに鶏ガラのような身体のローレン・ハットンは、健康的な本来のチャームが失われずにいて、最強のファム・ファタル像にピュアさをもたらしていたし、「何もかもそろっている。足りないのは情婦だけ」とか「エゴイストにはぴったりの女だ」とか余裕ぶっていたベルナール・ジロドー演じる外交官が、最終的にはめくるめく情念の嵐に身をすくわれてしまうのなど、セオリーどおりの筋書と言えど非日常的でよい。

また、「シェルタリング・スカイ」とか「イングリッシュ・ペイシェント」でも感じた灼熱の地の光、色彩。強い光ゆえの濃い影とのコントラストがとてもドラマティックだ。それに、濃い花の匂いやじっとりとした汗を想像できるような映像の美しさがすごく好みだった。

ラストシーンはですね、ネタばれるので言いませんがあまり好きじゃなかったですね。できすぎていて。

惜しむらくは、上映後に余韻に浸りながらBunkamuraのカフェでコーヒーもしくは冷えた白ワインなどでもやりたかったところ叶わなかったこと。ま、仕方ない。

映画館っていいよ、やっぱり。それでもって、昔の映画って良い。なんでだろ。渇ききった心の地平に、ぽつんと雨粒が降り立ち、みるみるうちにしゅわしゅわと染みていくような滋養を得られた。

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