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制限下を生きるには
日付の変わらんとする遅い時間の帰宅どきに、住宅街の奥へ踏み入ればそれだけ人通りから離れゆく。日中はのどかに行きかう人もいるが、夜更けともなればひっそりとしている。ならばよいだろう、とマスクを鼻からずらした。すると大気に含まれているたくさんの目に見えない情報が一挙に押し寄せてきて、驚きと感動につつまれた。
雨が近いことを知らせる、懐かしい空気の匂い。植物の、アスファルトの、微細な情報が空気に溶け込んでいる。これをかつては贅沢にも毎日感じることができていたのか、と思うと少し衝撃的ですらある。そして鼻先をなぜていく微風の心地よさは格別だった。
私たちは制限された世界で、素朴なものの価値を再発見している。
永久に失うとなったらとても耐えられない。いつか、という希望を少し先の未来に託せるからこそ、制限下を生きていけるのだと思う。
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