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ドラマ『名もなき毒』を見て

宮部さん原作のドラマや映画は、小説への思い入れがありすぎてあまり良いと思ったことがなかった。正直なところ。

今日は、朝からなんとなく『名もなき毒』を見はじめて、結局一日中かけて全話見てしまった。土曜日ながら休みというわけではなく、本当はしておきたい仕事が2件あったのだけど。月曜日午後が納期の仕事なので、明日頑張ればどうにかなるかなと思って、つい観てしまった。はじめたら途中では、やめることができなかった、というのが正しいか。

宮部さんの小説を読んでいる時と、とても近い感覚で作品を味わうことができたのも面白いと思った。

大杉連さんがあまりによくて、手紙のところは泣かされてしまった。宮部さんの作品に出てくる「手紙」は、いつもとても良い。登場人物に心が爆発しそうなほど感情移入してしまって切なくて、涙が出てしまうものが多いけれど。それが、とても温かくて良い。

『名もなき毒』は、原作を読んだのも昔で、内容もほぼ覚えていなかったのだけど、宮部さん作品の手紙で一番泣かされ、今でも内容を覚えているのは『蒲生邸事件』。ふきさんのあの手紙のところは、何度読んでも泣いて泣いて、今、私の家の本棚にしまってある『蒲生邸事件』の文庫本のその手紙の部分は、シワシワになっていたりする。大学時代、友達数人に貸したときも、そのページを見て何度か笑われた。

手紙だけでなく、宮部さんの作品には血が通っていて、人間の正体、体温も冷たさ、残酷さも醜さも、美しさも、命の尊さも、すべてがある。普通なら光が当たらないところにも、見えない心の闇にも、それが、どんなに狭く細く見えにくい場所であっても、「すっ」と切り込んでいく。鋭く、ときに優しく柔らかく。

私はもともと、サスペンスやミステリーものの作品が好きだけれど、宮部さんの作品は、ジャンルとしてはサスペンス、ミステリーと共通していても、他の作品と中身がまったく違う。

『名もなき毒』にはその空気感が、実写化、ドラマ化してもちゃんと含まれていた。

宮部さん作品に出てくる登場人物は、主役から脇役に至るまで口調や存在感に独特な雰囲気がある。今回のドラマの場合、キャストも、その宮部さんワールドに合った人達が出ているなと感じた。今時過ぎず、華やかすぎず、実際にどこかにいそうな人達が、ちゃんと選ばれている。

誰にも聞こえない、けれど深刻で、強烈な、闇からの叫びをすくい上げるような物語。

最近は、話題・人気の作品だから見ておいた方がいいかなという気持ちで、視聴する作品をふわっと決めることが多く、作品を見ている姿勢もとても温くて甘かった。

が、このドラマを見て、目が覚めたような気がした。

きちんと心と熱を込めて作られた作品には、こちらも真剣に向き合わなくてはいけないと思わされて。そして、私が書くものに密度がなく、薄味になってしまう理由にも、このドラマを見て、ようやく気づくことができた。

私には、世の中に伝えたいこと、どうしても言いたいことへの熱量が足りていなかった。「伝えたい」程度では足りない、「どうしたって伝えなくてはいけない」という強い思い。物語として組み立てて、リアルで、説得力のある形に仕上げていく作業もまったく足りていない。

いや、前々からなんとなくそこに気づいていたけれど、どうしたらその濃度を濃くできるか、という方法が分からずにぼんやりしていた。でも、最後までこのドラマを見て、全身も体の内部もボコボコに殴られたようなショックと感動があった。本当は、そこで立ち止まって、ぼんやりしている暇なんて、なかったのだ。

宮部さんの作品をコレクションのように本棚に並べておくだけではなくて、開いて、読んで、読んで、学ばなければと思った。

<先週土曜日の日記>

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