第2回『火星物語』~ 命と尊厳の物語

『火星物語』という作品

『火星物語』というゲームを知っているでしょうか。

このゲーム、実はオリジナルはゲームではなく、元々はマルチクリエイターの広井王子氏が火星を舞台にした小説を書こうとして取得した商標からスタートしていて、のちに『広井王子のマルチ天国』というラジオ内で展開されたラジオドラマのタイトルとして使われることになりました。

それがゲームであったり、漫画作品であったり、小説などへと展開していくことになります。

『火星物語』という名のとおり、わたしたちの良く知る火星を舞台にした物語なのですが、独特な世界観を持っているのが特徴です。

わたしの『火星物語』の出逢い

わたしが『火星物語』に出逢ったのは、かつてエンターブレインさまから発刊されていた「ファミ通ブロス」という漫画雑誌。

『ジバクくん』『時空探偵ゲンシクン』といった、分かりやすく子ども向けに作られた漫画作品から『テイルズオブデスティニー 神の眼を巡る野望』『ダービースタリオン外伝  ダビスタブリーダーズバトル』『真・女神転生CG戦記 ダンテの門』といったゲームのタイアップ作品なども連載していて、幅広いジャンルを扱う漫画雑誌だったのを覚えています。

当時、ちょっと周りとは違った漫画を読んだり、メジャーどころを外したゲームを買っていたわたしは、自然とこの「ファミ通ブロス」に出逢うことになったのですが、魅力的な漫画たちの中でも特に惹かれたのが『火星物語 五月の花嫁』でした。

『五月の花嫁』とゲームとしての『火星物語』

『火星物語 五月の花嫁』は、単純なゲーム版のコミカライズではありませんでした。
この作品は、「パーン国」の王女・クエスとその従者であるサスケの二人を中心にし、「リビドー王国」の侵略から国やクエスを守るためのサスケの戦い、そして盟約で禁じられた「風」とそれを使う「風使い」たちの戦いを描いたものでした。

……と書いたものの、これまで購入の機会がなく、実は単行本を所持しているわけではないので、当時の記憶を頼りに書いているのです。
実際の内容と少しずれている可能性もありますが、ご容赦くださいませ。

この単行本も、そのうち手に入れたいと思いながらもいまだに巡り合えていません。
実際に手に取って購入できる場所を探してはいるのですが、最早実物に巡り逢うことはできないのでしょうか。
近いうちにどこかで探し出そうとは思っています。

話が逸れました。
漫画版の展開はこのような感じなのですが、ゲーム版の展開はまったく違ってきます。

ゲーム版『火星物語』の世界観

ゲーム版『火星物語』の世界は、『五月の花嫁』とはまた違った世界観を持っています。

主人公はクエスではなく少年A
パーンという国は存在せず、漫画版で展開された戦いも一切触れられることはなく、クエスも登場するものの、まったく違うキャラクターとして描かれています。

この世界では12歳になると成人として扱われ、成人する際の「命名の儀」を通して名前と職業が与えられます。
それまではアルファベットと数字といった記号によって区別をつけられています。
そして、大人になった彼らは、与えられた職業を死ぬまで一生こなしていくことになるのです。

ゲームの雰囲気自体は明るいのですが、世界観自体はかなりディストピア的なものになっています。

「アロマ」に住む主人公・少年Aとその友人・少年Bは、村長に与えられるであろう名前や職業に満足することができないとして、大都市である「カンガリアン」へ向かい、そこで立派な名前と職業をもらおうとするところからゲームが始まります。

少女Yとの出会いと王女クエスの伝説

「カンガリアン」では目的どおりに「命名の儀」の手続きを行い、誕生日を迎えるまで待機することに。
そこで少年Aたちは、少女Yという女の子と出会うことになり、彼女から、自分たちが住む「アロマ」がかつては「アロマ王国」として栄えた場所であり、王女であるクエスの伝説を聞くことになります。
そして、「カンガリアン」で上映されていたクエスの伝説を編集した映画を見ることになります。

しかし、その映画では、王女クエスは悪人として描かれていました。
少女Yの知る伝説とはまったくの真逆。
映画では悪役として描かれたクエスは、心優しき王女であったと、少女Yは激怒するのです。

クエスたちと「風」との出会い

その後、少年Aは時間を超えて過去の火星の世界を旅することになります。
そこで、伝説の王女クエスとその従者サスケと出会い、彼女たちから自分たちが記号で管理されていることへの違和感を提示されます。

また、彼女たちとともに戦う、火星の世界における神や精霊という立場にある「風」と、彼らと心を通わせる「風使い」の存在を知ることになります。

この冒険を機に、少年A(命名後はフォボス)は「風」と心を通わせる「風使い」として、現代で、時には時間を超えて火星の世界を巡る戦いの中心に身を置くことになっていきます。

火星の世界の違和感

『火星物語』の世界は、物語の開始時点で、子どもたちが記号によって管理され、命名された後も職業を縛られ、管理されて生きていくことになります。それが当たり前の世界なのです。

しかし、時を超えて辿りついたクエスの生きる世界では、幼い頃から名前を持っているのは当然のことで、生きることへの自由も当然のものなのです。

過去に何があり、現代に至るまでにどのような変化があってディストピアが形成されていったのか……。

そして、この当たり前が浸透してしまった世界の裏に隠れる、本当に戦うべき敵「ハーネス帝国」との戦いを通じて、多くの人たちとの出会いと別れ。その生き様が描かれていくことになります。

命と尊厳、自由のための戦い

『火星物語』のストーリーを追っていくと、現代の「ハーネス帝国」、クエスたちの時代の「アショカ法国」といった悪として描かれる立場の人々が、多くの人の命と尊厳を奪っていく様を目にすることになります。

この物語は、彼らに抗い、奪われた尊厳を取り戻して自由を手にする戦いであることが分かってきます。

しかし、これらの敵はそれぞれの時代に台頭した分かりやすい「悪」でしかなく、最終的にはそれらの歴史の負の連鎖を断つために火星に根付く本当の「悪の根源」と戦うことになるのです。

「命」と「尊厳」、そして「自由」。

これらが、『火星物語』のテーマになっていると考えています。

わたしの好きなキャラクター

まず最初に名前を挙げるのは、主人公・フォボスの友人であり長きに渡って彼とともにあるアービン(少年B)です。
彼は「カンガリアン」での「命名の儀」を通じて一時洗脳を受けることになります。

洗脳による支配という、現代の火星の問題点を提示するキャラクターでもあり、常に友人として隣に立ち続ける彼は、その明るい性格も相まって、徐々に話が重くなっていく物語の緩衝材の役割を果たしています。

しかし、彼も物語を大きく動かす役割を持っていて、そこに垣間見える彼の生き様がわたしは大好きです。

続いて藍色の風です。
「風」である彼女は、彼女たちの声を聴けるようになる前からフォボスを見守り続けているような描写がされていて、母のような優しく包む彼女の性格も相まって好きなキャラクターです。
その冷静で優しい彼女の存在が、先ほど紹介したアービンとともに、フォボスを支えるキャラクターとして重要な役割を持っています。

そして、アンサーです。
ここまで、彼については触れてこなかったのですが、フォボスたちの現代、クエスたちの時代ともうひとつ、彼の時代が舞台になります。
ちょっと天然な性格でありながらも芯の強い性格で、彼もフォボスとともに成長していく姿が描かれます。
彼の持つ「チェーンウォッチ」クエスへ、そしてフォボスたちの時代のセイラ(少女Y)へと受け継がれていくことになり、これが時代をつなぎ、物語の鍵となっていく重要なアイテムでもあります。
彼の時代はそこまで長い話ではないのですが、この作品を語るうえでは外せない話になっています。

風よ、命よ!

この台詞は、『火星物語』の幕間、次回予告でセイラが毎回口にする言葉です。
何度も聞く台詞になるので、この作品をプレイしたことがある人の耳にはきっと残っている言葉だと思います。

この台詞は、『火星物語』の世界とストーリーを実によく表している言葉だと思っています。

火星の歴史を知り、見守り続けた「風」と、現代を生きて自由を勝ち取るための戦いをしていく人々。

普通の人たちには「風」の声を聞くことはできないけれど、彼らは人々を、火星を見守り続けている。

そういった「風」と人々の絆の育み、命に対しての答えを探す旅。
それが『火星物語』の魅力だとわたしは考えています。


今回はここまでにしましょう。
それでは、また来週。

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