やいずみ

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精神科入院と紫煙のゆくえ

1年ほど前、精神科病棟に入院した。 私はうつ病を患っており、当時の病状はもちろん芳しくなかった。 社会を構成するすべての要素が怖くてたまらなかった。 雑踏は私へと侵攻してくる兵たちの足音に思えたし、会話はもう聞き取ることを諦めていたが確実に私を嘲笑しているのだと思っていた。 かつて私を支えてくれていた音楽たちも遠く思えた。きっとこんな精神状態で聴いてしまうとその曲に嫌な思いをさせてしまうだろうなと思って申し訳ない気持ちがしていた。 煙草を吸った。 亡き祖父の愛した銘柄だっ

    • 朝を思い起こして

      人々の生活がはじまってゆく。わたしを除いて。 残念ながらわたしは人々に含まれないみたい。雑踏の、その靴音たちに私の歩みはない。 満員の通勤電車、あなたたちはさながら戦士のような眼差しで、何かと戦っている。 足を踏まれたり肩がぶつかったり、そんな些細なつらいことが遠く、遠くのことのよう。 お昼時の穏やかな日射しを浴びて、すこし虚ろな眼で揺られている、かたちのない影が、わたしです。

      • 40℃の刑

        もう後戻りはできないのだな、と思う。 度重なるブリーチで傷んだ髪にシャワーが降り注ぐ。 見た目の鮮やかさと引き換えに破壊された組織たちはからっぽの存在になっていて、それでも失ったなにかを得ようとするのか、水を吸う。水を吸う。 入浴はたいへんに面倒な作業でまったく気乗りしない。 こと洗髪となると尚更で、水浸しの雑巾のような髪を絞って絞って水を切り、それでもまだ垂れてくる水をタオルで拭き、軋んだ弱々しい釣糸のような髪を丁寧に櫛で梳かし、ドライヤーで乾かしてやらないといけない。

        • 2023年10月26日の朝のこと

          暗く寒い部屋のなかでしづかな寝息がおだやかに時間を支配していて、ぼくがこの時間のなかにいることがとても幸福でならなかった。ここにあるのは温度と息だけだった、すべてそれで埋め尽くしてしまいたいと思った。

        精神科入院と紫煙のゆくえ

          Expression of humanity

          Precious tears. Ephemeral crystal of emotion. Fall silently, suppressing voice. Under the transparent sky, fall as realize that this moment is truly life. Now, are those tears spilling from my eyes? Is it fear? Fear of life? Fear of fall? F

          Expression of humanity