シェア
多架橋衛
2019年1月8日 15:43
深海系SF百合小説 完結遠い未来。人類は8000メートルの深海へと生活圏を移していた。巨大海洋生物ヴァスィリウスとの死闘が続くなか、若くして人類存続の一端を担う少女シリウスは、親友のベルからある一言を告げられる。「ねぇ、シリウス。太陽ってやつ、見に行かない?」補遺 ――登場人物・用語一覧Thirty seconds and counting. ――30 ――29 ――2
2019年1月10日 08:00
目次■登場人物・シリウス主人公。アステリズムα戦闘指揮官、次期艦長として人類の存続に携わる。絶大な記憶力と知能、視力を誇り、歴代戦闘指揮官のなかでも抜群の戦績を記録している。着用している眼鏡は伊達で、瞳を保護するためのもの。・ベル(ベラトリクス)シリウスのツーマンセル。人間離れした身体能力と五感で、戦闘でも私生活でもシリウスを支える。シリウスを誘って太陽を見に行こうとするが…
2019年1月8日 15:46
目次 第2話Thirty seconds and counting.30「ねぇ、シリウス。太陽ってやつ、見に行かない?」 驚きに視線を上げると、ベルは壁にもたれかかっていた。 彼女のすぐ隣には窓があって、その向こうをチョウチンアンコウが泳いでいる。 とてもゆったりとした泳ぎ。発光器の灯りだけが真っ暗な室内を照らす。 あまりにも穏やかで、わたしのなかにあった驚きはすうっと薄れそ
2019年1月9日 07:32
第1話 目次 第3話29 ぼんやりとした緑色の暗闇で、深呼吸をひとつ。 ヴァスィリウス。 奴らがいなければ、ベルも、太陽を見たい、なんて考えなくて済んだんだろうか。 人類が絶滅寸前の状態で海底に追いやられたのは、奴らが大陸を食い尽くしてしまったせい。人類が海上に行けないのも、奴らが海面をうようよしているせい。奴らがいなければ、いつだって太陽が見られた。大昔なら当たり前の存在だった太陽
2019年1月10日 07:57
第1話 第2話 目次 第4話 28 また派手にやられてる。 破損部を確認してみたら予想通り、バルカンは根元からもげていた。装甲がめくれて内部回路も覗いている。オケアノスの赤銅色のボディに傷跡が痛々しい。 ただ、不恰好さに笑ってしまいそうにもなる。オケアノスの見た目はシャコに似ている。円筒形の胴体に六本の足、そしてバルカンやブレードを収納した二本の腕。 腕の無いシャコはどこか物足り
2019年1月11日 07:35
第1話 第3話 目次 第5話 27〈だめだ、シェアト。押し切られる〉 ブリーフィングルーム中央で通信が叫んだ。〈もう少しで助ける。耐えてくれ、ラッツ!〉〈いや。取り付かれた。浸水も始まってる。そういうわけだ、残りは頼んだ〉〈ラッツ? 待て、早まるんじゃない!〉〈やめて! やめなさい!〉 通信にノイズが混じる。天井の向こうから降ってくる振動。自爆したらしい。〈ラッツ機
2019年1月12日 10:03
第1話 第4話 目次 第6話 26 昔と現代、地上と海底、お葬式の作法が変わればお風呂の入りかただって変わる。 なんて、昔のことを考えてしまうのは、ベルがいつまた太陽のことを言い出さないか心配だからだろうか。 ねぇ、知ってる、ベル? いまベルがわたしの背中をカイロウドウケツのスポンジで流してくれてるけど、その海底生物、昔は仲睦まじいパートナーの象徴だったんだって。「昔はね、誰
2019年1月13日 03:50
第1話 第5話 目次 第7話 Astronauts report it feels good.25「いつも思うが、こんなところによく自分たちから来れるよな」 展望室の扉を前にするなり、レグルスは苦々しい表情をした。通路と室内を隔てる鉄板はぶ厚くて、水漏れを防ぐためのバルブや非常時の警報装置も付いている。「自分たちって誰のこと?」「お前とベルだよ」「静かで涼しいから集中できるよ
2019年1月14日 04:42
第1話 第6話 目次 第8話 24 1ルーメンの光源もない暗闇で深呼吸をひとつ。 頭のなかのもやもやが、外に吐き出されてすっきりするような気がする。雑念は目の前に薄緑のホログラフィックパネルを出現させて言霊として浮かび上がる。OCEANUSというロゴをバックに数秒間の起動ログ。 次の瞬間、だだっ広い空間に放り出される。灰色の鉄板に覆われ、天井はすぐそこ。シートごと浮かんでいるような
2019年1月15日 11:39
第1話 第7話 目次 第9話 23 三機のオルキヌスが光を吹く。三キロ先で激しい火花が散った。〈やりました!〉〈いいぞ、その調子だ〉 群れを中心に緑色の領域が広がる。いつもより順調なくらい。 けれど――。「待って、おかしい」〈はずれたってことですか?〉 いつもと何かが違う。仮説はいくつか浮かぶけれどそんなことがあり得るんだろうか。わたしの知る限りでこんなケースはなか
2019年1月16日 10:07
第1話 第8話 目次 第10話 22「ベル。どうしてあんな危ないことしたの」「シリウスだって危なかったんだよ」「危なかったのはベルのほうだよ! もうちょっとで死ぬところだったのに!」「そんなのシリウスだって死んでたかもしれないんだよ!」 搭乗用のキャットウォークがカンカンわめく。 フラッシュバック。 鉄の音がセファイエの軋みとリンクする。泡を吹く関節、潰れかける腕。 血液
2019年1月17日 11:07
第1話 第9話 目次 第11話 21「どうしてこんなことするの!」 三人を床に正座させて声を荒らげる。 懐かしさを覚えた。わたしもいちどだけ、ベルとレグルスと三人でアルに同じ悪戯を仕掛けたことがあったから。……なんて懐かしんでいる場合じゃない。 立場が立場なので叱っておかなければならない。 歳をとるって、ある意味で昔の自分を棚に上げることなのかもしれない。「だめってわかって
2019年1月18日 13:46
第1話 第10話 目次 第12話 20「みんな、揃ってる?」「シリウス、何があったんだ」「わたしたち、どうしたらいいの。こんなのはじめてで」「落ち着いて、ふたりとも」 シャウラとスピカの不安をなだめる。アークとナオスは奥にいる。「すいません、遅くなりました!」「通信は」「いまから」 間を置かずレグルスとシェダルも入室。 αの全員が揃った。中央のテーブルに備わったパ
2019年1月19日 13:17
第1話 第11話 目次 第13話 19 窓の向こうには真っ暗な深海が広がっている。少しでも心を落ちつけようと展望室に来たのに、かえって掻き立てられている気になる。これじゃあ、まるで逆効果だ。〈アルマよりレグルスへ。注水終了。ハッチオープン〉〈レグルス、了解。……って、一日で二回も護衛に出るとはな〉〈確かに確かにー〉〈シリウス、配置はどうすりゃいい〉 インカムに通信が入る。