心休まる真夜中の話~吉田篤弘『おやすみ、東京』
やすこさんへ
岸本佐知子さんの本、何ともいえない世界観でしょう?私も読みながら時々迷子になるけど、それでも大好きで、新刊が出ると即買ってしまいます。
ところで、やすこさんが読んだ『なんらかの事情』で装丁やカットイラストを手がけたクラフト・エヴィング商會のことは知ってる?実在しない書物や雑貨などをすごいハイクオリティで手作りして、そこに文章を添えて、架空の世界をいかにも本物らしく表現してみせることが大得意の二人組、吉田篤弘さんと浩美さんのユニット。私、この人たちの本も大好きなんだよね。
ということでクラフト・エヴィング商會の著作について書こうかと思ったんだけど、あの奇妙で愉快な嘘だらけの世界の魅力をどう表現すればいいか、ちょっと難しい。なので今日は、ユニットのお一人、吉田篤弘さんの小説『おやすみ、東京』について書こうと思います。
色んな人を主人公にした短いお話が繋がっていく連作短編集なんだけど、どの話も始まりは、時計が深夜一時を告げるところから。
深夜に始まって明け方に終わる小さな物語が連なっていくの。
映画会社の小道具係で、監督の求めるものをなんでも調達するのが仕事のミツキ、深夜タクシー「ブラックバード」の運転手松井、電話相談「東京03相談室」の深夜時間を担当するオペレーターの可奈子、深夜食堂「よつかど」の料理人アヤノ、夜から明け方までオープンする奇妙な古道具屋のイバラギ、探偵のシュロなど、真夜中の東京で働く人たちが、それぞれの仕事や、個人的事情や、寂しさや、いろんなものを抱えながら、不思議な縁でつながっていく。
大きな事件が起きるわけじゃないし、大きなカタルシスが得られるわけでもない。ささやかな物語ばかりなんだけどさ、真夜中の東京の、少しシンとしてて、でも活動している人も結構たくさんいて、みたいな、少し寂しいけど、どこか安心感のある空気が物語全体に流れていて、それがぬるい春の風みたいに心地よくて、やさしくて、何度読んでも飽きないんだよね。
私は毎晩寝床に本を持ち込んで読みながら寝るんだけど、寝る前に読む本には一定の基準があってね。
1.すでに読み終わっていること(続きが気にならない)
2.ドラマチックすぎず、感情を揺さぶられすぎない(興奮しない)
3.軽い(手が疲れない)
という3条件を満たした『就寝のための一冊』として、もう何十回も読んでいる本です。
やすこさんも、寝る前ギリギリまで本を読んだりする?だとしたらどんな本を読んでますか?今度教えてね。
2024年10月25日
かおりより
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