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新東京ビル/アーティストインタビュー(八木鈴佳)

こんにちは!YOMAFIG.です。

新東京ビルオフィスフロアにおいては、誰もが気軽にアートを楽しめる空間として、2024年5月にリニューアルがなされました。
アートに関心はあったけれど、あまり触れる機会のなかった方もより一層アート鑑賞をお楽しみいただけるよう、館内のアートをご制作くださったアーティストご本人に作品の見どころやアートの楽しみ方を伺ってみました!

八木鈴佳
1997 年生まれ。京都在住。 主にアクリル絵具や油彩を用いつつ、絵具による薄い層を何層も重ね、互いに透けたり剥が れたりする、その重層的な絵画空間の要素から物事のあいだについて考えて制作している。

ー新東京ビルにかけられている作品について、どのような作品なのか教えてください!

生活の中での体験や感覚を軸に、作品を制作しています。 絵を描く根底にはいつも、他者とのあいだにある境界線への意識がある気がしています。 今回、作品には「遠い熱をさわる」というタイトルをつけました。時々、日常の中で浮上してくる言葉です。

「遠い熱をさわる」 

普段から制作しているアトリエの部屋には大きな磨りガラスがあって、そこから光が室内へと差し込みます。道路に面しているので、時折小さな話し声や、カラカラと回る自転車の通り過ぎる音など、外の気配が微かに聞こえてきます。ガラスの表面に散乱する光の粒と影の動きを、視界の端に預けながら画面と向き合う時間を過ごしています。

私はいつも、擦りガラスの前にパレットを広げています。人が通ると、ガラス上の粒が揺れて、パレットの上を⻘い影が横切っていきます。向こう側の誰かを考えるとき、私が今いる地点も意味がある気がしてくるのです。磨りガラス一枚隔てたこの距離の中で、誰かの体温を想像することを忘れたくないと、時々思います。外の影響が降り続けるパレットの上のように、そこにある境界も隔たりも、少しずつ解いていけたらいいなと考えています。

日常の中のささやかな瞬間を、この作品の中に込めることができれば、と思い描きました。 絵の前を通る方達が、ふと思い出したように、外の景色を眺める気持ちで足を止めていただけたら幸いです。

薄く柔らかな層に包まれているような気分になる八木さんの作品。
「遠い熱をさわる」というタイトルには、そのような制作環境と意味があったと聞いて納得しました!
パレット上で透明な光となって重なる、道ゆく人と八木さんの絵の具の色と温度。その光景をイメージするだけでポカポカと暖かな気持ちになり、ますます作品が好きになりました。

YOMAFIG.

ー作品をどのように眺め、どのように楽しめば良いでしょうか

私の制作は基本的に設計図や完成予想図のようなものはなく、無作為に手を動かしてみることから始まります。絵具による薄い層を何度も重ねていく中で、その都度、画面の中で起こることを頼りに行先を決めているような感じです。
主にアクリル絵具や油彩を用いて、下の層を部分的に塗り残したり、上から重ねた絵具を拭 き取ったりすることを繰り返していきます。そして絵具層が入り混じっていく中で生まれてくる、段差やズレが私にとって重要な要素です。絵具が互いに剥がれたり透けたりすることで、下層が上層へと浮かび上がってくるような画面になることを常に目指しています。
私の絵には具体的な対象の姿は現れてきませんが、その絵具層の中に視線を委ねてもらえたら、と思っています。

「遠い熱をさわる」 Detail

また、私自身の手つきによって、その実際の手順を超える奥行きを感覚として作り出すことも試みています。そして、その空間に潜む様々な境界のあいだを漂う視点を、層の中に作り出したいと考えて絵を描いています。作品を眺めながら、視覚の揺らぎを絵画空間の中に探してもらえたら嬉しいです。

ーすこしアートに興味が出てきたけれど、どこで作品を見たり買ったりすれば良いかわからない…そんな方におすすめのアートの楽しみ方やアドバイスがあれば教えてください!

私自身も、気になる展示があればふらっと出かけたりします。ギャラリーに足を運ぶこともありますが、確かにギャラリー特有の緊張感ってあるな、と思います。
特に作家さんの個展だと、空間に足を踏み入れた瞬間、なんだかその人の領域にグイッと入った気がしてドキドキすることもあります。そういった意味でも、ギャラリーは敷居が高いという声をよく耳にしますが、その分作家さんの言葉に直接触れたり、作品と同じ空間にいる一体感も感じることが出来ると思うので、緊張しながらも積極的に足を運んでほしいです。

最初はどう鑑賞したらいいかわからなくても、見る経験を重ねていくと少しずつ自分の気になる傾向をつかめてくると思います。
また、作品から作り手側の痕跡や思考を追いかける楽しみ方も勿論ありますが、個人的な視点に偏った見方があってもいい気がします
「この形、○○を思いだすなあ」とか、「○○に似ている」でも。エピソードと結びつけることで 解釈が広がることもあるのではないでしょうか。気になれば、どんなテーマを扱っている作家さんなのか、私はたまに調べてみたりします。そういった流れも、作品から生まれてくる コミュニケーションの一つだと思っています。

ギャラリーはそのアーティストさん本人や作品をより直接的に感じることができる空間と思えば、緊張よりも興味や楽しみが勝ってきますね!
「個人的な視点に偏った見方があってもいい」とおっしゃる八木さん。自分の記憶や好みを反映したり、大切にできるのもアートの良いところかもしれませんね。

八木さん、有難うございました!

YOMAFIG.


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