天空のもとで育まれた柚子は黄金色の陽を浴び、やがて世界の舞台へ
徳島県三好市の山あいにある、柚子農家の中村農園。元々徳島県という土地は柑橘系がよく育ち、全国的に有名なスダチを始め、八朔やみかんを育てる人も多いと言います。そんな土地柄で、数年前から柚子農家として歩みを進める中村博さん。サラリーマンからの転身から今後に思い描く目標まで、じっくりお話を伺いました。
過疎が進むふるさとを目にし、農業への貢献を志した
私の両親はかねてから柚子を育てる農家でした。「だから後を継いだのか」と思われるかもしれませんが、私自身はずっとサラリーマンをしていまして(笑)自分も農業の道に進もうと思ったのは、ほんの5年ほど前。ですからこの農園も、私が営むようになってからはまだ3年ちょっとなんです。
小さい頃から既に身近だったはずの農業に、なぜそのタイミングで気持ちが向いたかと言えば、この土地で暮らす人・働く人がどんどん少なくなっていくこと。田舎なもんですから、いわゆる過疎の問題ですよね。そして農業においても後継が減っている。こんな寂しいことは無いなと、そこで初めて農業というものへ主体的に関わるようになりました。
一度失敗したら、「次は一年後」の世界を思い知って
さすがに実家が農家であるゆえ、手伝いくらいはしたことがありましたが、自分で一から育てるにはまとまった勉強が必要でした。まずは農業大学校に通って栽培技術を一から学んで、あとは土地柄かもしれませんが、「徳島かんきつアカデミー」という講座もありましたから、それも受講させてもらいました。柑橘類という果物のこともそうですが、それを育てる上での害虫対策もほとんど知らないところからですよね。それに対して柚子という果物を思い浮かべてもらえばわかる通り、皆さん皮からしっかり使われる。果物を育てていくためのハードルってこんなにも高いのか、と痛感させられました。
農業に限らず最初のうちは失敗もやむを得ない、というのはそうなのですが、他の仕事と違うのは「次」が一年後までやってこないということなんです。毎年栽培から収穫までのサイクルがあって、例えば収穫なら毎年11月から12月のこの時期にしかやってこないし、他の工程だって全てそう。おかげで「剪定」という、枝を切って風通しや陽の当たりを調節する作業などは、切らなさすぎても切りすぎてもいけないということで、加減を掴むのにすごく苦労しました。
皮・実・種と全部使う柚子だから安全安心を届けたい
先ほども少し触れましたが、柚子というのはすこし特殊で、皮も実も、お客さんによっては種までと仰られるくらい、余すことなく使える果物です。ですから私としては、とにかく安心・安全なものを届けたいという思いを念頭に置いて栽培にあたっています。そうなると当然、農薬や化学肥料は使えませんから、見た目はどこかしら損なわれてしまう。そうして失う商機もあるかもしれませんが、私はそれでも安心して食べられることを優先したいと考えています。
そんなこだわりが実を結んだのか、私たちの柚子を使ってもらったコンフィチュール・カジュー神戸さんの「プレミアム柚子マーマレード」が、マーマレードの世界大会「ダルメインマーマレードアワード2021」アルチザン(職人部門)にて、大会最高賞【ダブルゴールド】を獲得しました!これは本当に嬉しいことですよね。これをきっかけに柚子が持つ香り高さがもっと知られればですし、今後は海外に向けてもより積極的に展開していきたい。EUの人なんかは酸っぱいものを好みますからね(笑)
ちなみにこれからの季節でしたら、私は鍋料理のポン酢代わりに、器へ柚子をジャーっと絞ってお肉や野菜を頬張ります。こんな贅沢、なかなかしないかもしれませんが、さっぱりしていて最高ですよ!皆さんも是非“旬”を楽しんでみてくださいね。
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