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あと少し、もう少し 瀬尾まいこ

なんだか最近いろんなところの歯車が噛み合わない。上手くいかない。自分の言いたいことがちゃんと伝えられなかったり。小さいものをなくしてしまったり。ちょっとした失敗。それも続けば気持ちがどんよりと重くなり最近流行りのあの曲みたいに「何やっても上手くいかない」な気持ちになってしまう。

そんな時私は本を読む。優しくてあったかくて前向きな気持ちになれる本を読む。
今回手に取ったのは瀬尾まいこさんの「あと少し、もう少し」という小説である。

テーマは駅伝。チームのメンバーはいじめられっ子だったり、不良だったり…陸上部員は6人中3人しかいない。頼りになる部顧問の先生は異動してしまう。大ピンチの中ではあるが、部長の桝井は元顧問の満田に言われた「チームはお前が作れ」という言葉と県大会出場し続けている伝統を守るため奮闘するのである。

襷を繋ぐように一章ごとに語りも変わり、一冊読み終わる頃には6人全員の考えと駅伝に向けて、仲間に向けての気持ちがわかる。視点が変わると物事の見方も変わって何だか面白い。私が一番気に入っている登場人物は4区を走る渡部である。彼の第一印象は真面目でつまんないやつ。なんか言葉の端々にトゲがあって話しづらそう。同じクラスにいたら絶対話さないだろうなあなんて思いながら読み進める。

やはり人を見かけだけで、言葉の表面だけで判断してはいけないのである。「渡部、お前そんなことに気にしてたんか」4区を読み進めるたび本当の彼が浮かび上がる。後輩の俊介との会話も良い。

襷が次の人に渡るたび、本当の彼らが分かる度に一度本を閉じ、じんわりと余韻に浸る。そうしているうちに私の気持ちも落ち着き、あと少し、もう少しやってみよう。そんな前向きな気持ちになれる。

あと一歩きっかけが欲しい時に強く背中を押してくれるそんな一冊である。


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