自分の講談も、シガールのように愛されるロングセラーにしたい【#私とヨックモック 神田伯山さん】
ヨックモック公式noteでは、お菓子を愛する方々による読み物企画「#私とヨックモック」をお届けしています。
今回のゲストは、講談師の神田伯山さん。ラジオで冠番組を持ったり、本を出版したりと講談以外にも幅広く活動されています。たくさんの人と関わりながら、講談という伝統芸能の魅力を広めていくには「手土産」がとても重要なのだそう。ヨックモックのお菓子の万能さを語ってくださいました。
「食」はいつの時代も変わらず、人のそばにある
食べ物、そしてお菓子は、講談の中で特異さや日常を示す役割を果たしつつ、とてもカジュアルに登場します。
『中村仲蔵』で、歌舞伎役者・仲蔵が想定外に芸のヒントを得る、ふらっと入った蕎麦屋。『阿武松』で力士が食べる1日7升の米、『鍋島の猫騒動』で母親が夜中に食べる魚。茶屋の娘が出す金平糖や、小僧にあげるお饅頭。『鍔屋宗伴』でも、茶菓子のやりとりがあります。
食べ物の描写によって、講談を聴いている人の状況理解を助けたり、親しみを持たせたりする効果もあるのでしょう。たとえ時代が変わっても、「食」は誰にとっても身近なものです。
およそ35年前、僕が子どもだった時代は、キャラクターと組み合わせたお菓子が多い時期でした。流行していたのはビックリマンチョコ。幼稚園から母と帰りながら、「今日はビックリマンチョコ3個を買ってもらおうか、それとも大好きな牛乳1本とビックリマンチョコ2個にしようか」と、毎日迷っていました。
社会の厳しさを知ったのも、お菓子を通じてでした。珍しくお小遣いで1000円札をもらい、嬉しくて60円のガムを買おうとして札を出したら、「お釣りなんかないよ」と駄菓子屋のおやじにびっくりするくらい怒られたんです。衝撃を受けましたが、「小銭で支払うことで売り手の労力を減らすのもマナー」「買う側にも気遣いがなくてはいけない」ということを学びましたね。
親に「お菓子を買ってやるから」と言われてスーパーについて行ったのに、結局約束したチョコベビーを買ってもらえなかったときには「理不尽」を学びました。
子どもにとってお菓子がすごく嬉しいものだからこそ、適切な我慢も含めて、お菓子から学んだことは多いように思います。
差し入れから感じる、愛情や気遣い
講談師になってからは、公演のときにいただいたり、自分が寄席で主任(トリをとる人)をつとめるときに用意したりする差し入れや、稽古を受けに行くときの手土産という形でも、お菓子との縁ができました。
差し入れをいただく立場になったときに強く感じるのは、そこに込められた愛情や気遣いです。
例えば、地方公演にうかがったとき。その地方のお菓子や名物に加えて、僕が好きだと公言しているものもご用意いただいていることがあります。もちろん、何もなくても一生懸命やらせていただきますが、差し入れという形で自分への関心や思い入れを表現いただいたときは、とても恐れ多くも嬉しく思いますね。
また、以前福岡で公演があった際に、偶然同じく福岡で公演をされていた中村勘九郎さんから、好物のクリームパンを40個以上いただいたことがありました。僕だけでなく、一緒に興行を作りあげている人たちのすみずみにまで行き渡るようにという気遣いです。差し入れというものは、徹底的に気遣いの文化なのだと学びました。
そういえば最近、師匠である神田松鯉に新しく入門した弟子が差し入れ上手なんですよ。銀座でしか買えない「空也もなか」を持ってきたり、公演のネタに合わせて「赤穂義士」のもなかを買ってきたりして、同じ一門の神田阿久鯉姉さんから「この子、見込みあるかも!」と、いきなり高評価を得ていました(笑)。
もちろん半分冗談ではありますが、相手の気持ちを想像する力や楽しませようとする気持ち、気遣いのポテンシャルが出てしまうのは、お菓子の恐ろしいところです。
相手や状況に合う、適切な差し入れを選ぶ難しさ
もちろん、僕も差し入れでは数々の失敗をしてきました。
寄席で主任をつとめる人の多くは、一緒に興行を行うみなさんに向けて初日・中日・楽日に少し豪華なケータリングを手配したり、楽屋へお菓子を差し入れたりしています。出演者がその日の寄席をご機嫌に過ごし、活力をつけていただくためのアイテムなので、人に合わせて用意するものを変えたりもします。
かつて自分が主任をつとめたとき、70代ぐらいのお囃子のお姉さんに対して、夜の8時にカレーパンを渡してしまったんですよね。冷静に考えると、胃がもたれるから食べられないだろうと。今ではデパートで売っている、ちょっとしたお菓子なんかを渡すことが多いです。
お稽古のときは、教わる先生方の好きなものに加えて、ご家族の方向けにお菓子などを持っていくこともあります。自信がないときほど、手土産が増えるようなところはありますね(笑)。
その方のお弟子さんに聞いたりして好物の情報を得るのですが、好きだからこそ産地や味にこだわりがある場合も。ちゃんとリサーチせずに好みに踏み込むと、かえってしくじることも学びました。
お菓子にまつわる最大の失敗は、真打に昇進するときに、落語芸術協会の理事会の方々に渡した羊羹やもなかの詰め合わせでしょうか。早めに用意していたのが仇となり、なんと渡した時点で一部のお菓子が賞味期限を過ぎてしまっていたんです。気がついた時に青ざめて、急いで一人ひとりに謝罪の電話をかけましたね。師匠方は優しく許してくれましたが、詰め合わせはお菓子ごとの賞味期限に気をつけなければと思いました。
ヨックモックは老若男女に喜ばれる洋のお菓子
好みに合うものを、場に集まる皆さんへの気遣いを、賞味期限を……。考えるほどに選ぶのが難しくなる差し入れや手土産。僕が今よく渡しているのは、「シガール」をはじめとするヨックモックのお菓子です。
老若男女が集まる寄席の楽屋でも、ヨックモックは大人気。持ち帰りたがる人も現れて、大きめの詰め合わせ「セット デリス」でも1日、2日でほぼなくなる勢いです。どのお菓子も賞味期限が長いのも安心ですが、そこを気にかける必要もない。助かります。
演芸は「和」の業界です。和菓子にはうるさい方も多いのですが、洋菓子になった途端に急に評価が甘くなる印象です(笑)。みなさんが買い慣れている和菓子よりも、値段をイメージされづらいのもいいところですね。
稽古に持っていくときも、軽くて持ち帰りやすい「シガール」は重宝します。お年を召した方の中には、食べきれずに残してしまうのをとても嫌う方も多いのですが、そんな方への手土産にも「シガール」はぴったり。パンダ柄のパッケージでかわいい「パンダ プティ シガール」もあったりと、少量でも粗末に見えない、嬉しいお菓子です。
寄席の楽屋では、前座さんがいれてくれた麦茶やお茶と一緒に食べることが多いシガールですが、個人的には、シガールに一番合う飲み物は牛乳だと思っています。
お菓子は時代を超えて支持されている
ヨックモックに限らず、自分にとっておいしい食事やお菓子は気分をリフレッシュさせてくれるものです。「りくろーおじさんのチーズケーキ」は、「これ、うまいのかな?」と頭にエラーが浮かんでいるうちに食べきってしまう不思議なおいしさ。気づけばまた買っていて、「あ、好きだってことか」と気づきます。
最近は、子どもが僕にお菓子を配給してくれるんです。「アポロちょうだい」と言うと、箱をガシャンガシャーンと振って「はい、1個」。いくつもらえるかは子ども次第です。昔僕が食べていた「アポロ」や「きのこの山」、「ポッキー」などを、自分の子どもが食べて喜んでいるのを見ると、ロングセラーなお菓子は、時代を超えて人を喜ばせているんだなあと、その偉大さを感じますね。
工夫を続けることで、いつか自分の講談もロングセラーに
甘いお菓子も大好きですし、「食」を楽しみながらも、パーソナルトレーニングで筋力をつけたり、日頃から走ったりと、健康には気を遣って体力維持につとめています。それは、納得のいく高座を続けたいからです。
講談は60代や70代が全盛期とも言われる芸。自分より年上の講談師が話すからこそスッと耳に入ってくる話もありますし、年を重ねて出る味や、話芸の熟成には期待しています。
そのためには、新たな芸を発掘しつつも、今できることを維持していく作業が必要です。きちんと稽古していなければ、それが高座に恐ろしいほどに出てしまう。昔からのお客さんに「前のほうがよかったな」「先代のほうがよかった」と言われうる怖さもある仕事です。自分の芸に、常にハタキをかけておかなければいけません。
一口目しだいでその先を食べ進めたくなるかが決まるのは、お菓子も講談も同じではないでしょうか。「高座が一番大事」という当初からの考えを持ち続けながら、みなさんの講談の一口目として、面白いと思ってもらえるものをお届けできるようにしたいですね。
ありがたいことにメディア出演も増え、みなさんに講談を知っていただく機会はあったように思います。これから、さらに喜んでもらえるよう工夫していくことで、自分の講談も世代を超えるロングセラー商品になれるのかな、と考えています。
<六代目 神田伯山>
1983年生まれ、東京都豊島区池袋出身の講談師。2007年に講談師3代目神田松鯉に入門。2020年には真打ち昇進とともに6代目神田伯山を襲名した。独演会のチケットは即日完売。レギュラーラジオ『問わず語りの神田伯山』(TBSラジオ)も人気。
<編集:小沢あや(ピース株式会社)>
#私とヨックモック その他のエッセイもお楽しみください。
(おわり)