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元気の出る妹作カレー

 妹は、カレーを作るのが得意だ。本人は得意だと言わない。私がそう思っている。でも、本当においしい。私はカレー粉から作ったことなど一度もないが、妹はカレー粉から作る。味にはそこそこ敏感、というより好き嫌いが割とはっきりしている私だが、この妹作カレーには私作カレーは敵わない。ぜひ得意料理だと胸を張って言ってほしいと、個人的に思っている。

 妹がカレーを作るようになったのは、大学一年生からだ。妹は管理栄養士の資格を取るための学校に通い、そこで栄養のこと、食事のことをたくさん学んできた。一年生でカレーの授業を受けたとき、ルウのバターの多さに驚いたという。それ以来、カレー粉を使い、油を控えめにしたカレーを作ってくれるようになった。油脂を摂りすぎないのもいけないが、頻繁にカレールウのような油脂のかたまりを摂取するのもよくないそうだ。「PFCバランス」という、「たんぱく質(Protein)」「脂質(Fat)」「炭水化物(Carbohydrate)」のバランスのとれた食事がよいという。それ以来、うちには赤いカレー粉缶が常備されるようになった。
 そして、私が味にうるさいため、「おいしさ」にもこだわってくれる。自分でもおいしさにはこだわって作るが、作ってもらう身分で恐縮だが、妹にもそこそこのおいしさ以上のものを求めた。少なくとも四年間同居することが決まっており、ずっと我慢し続けるのもよくないと、お互いにいろいろ思うことは言っていくというスタンスをとった。料理に関しても、好きな味はこれ好き!と伝え、そうでなかったら婉曲的に伝える。感謝は決して忘れずに。
 管理栄養士の献立作成においても、「おいしさ」は大事だそうだ。なぜなら、料理を食べる人が「おいしい」と感じなければ、どんなに栄養的にバランスがよい献立であっても、「続かない」からだ。食べなければ意味がない。また、「続ける」ために、家庭での作りやすさも重視していた。調理実習の時間内に作れること、材料費が決められた価格設定内であることも、妹の大学の課題の献立作成のルールだった。課題が出るたび、栄養計算ソフトを駆使しながら、価格と栄養素、塩分量などの条件をクリアした献立作りに苦戦し改良を重ねていた。端からすごいなぁと見つめつつ、たまに「この食材はどう?」なんて素人アドバイスをしながら、ごくたまに役立っていた。

 「おいしさ」には、構成要素がある。
 まずは、「味」。「味」の基本は、「五味」だ。「甘味」「塩味」「酸味」「苦味」「うま味」。このバランスがとれていることで、「味」がおいしくなる。栄養的には、塩分や糖分を控えた食事を考える必要があり、そのために「酸味」「苦味」「うま味」を活用する。「酸味」に関しては、酢はもちろん、柑橘系の酸味が利用される。私は酢のツンとくる感じが苦手なため、ポン酢やレモン汁をよく使う。「苦味」に関しては、ピーマンやゴーヤなどの食材を用いる。「うま味」に関しては、出汁はもちろん、酒、食材のもつうま味(トマトのグルタミン酸など)を活用する。この「五味」の相乗効果で「味」が決まる。カレーでは、「五味」には含まれない「辛味」も重要だ。
 「味」以外に「おいしさ」を構成する要素があるのかと疑問に思われるかもしれない。しかし、あるのだ。
 人間には、「味覚」以外に、「視覚」「聴覚」「嗅覚」「触覚」といった「五感」という感覚が備わっている。「視覚」に関していえば、見た目、すなわち盛りつけだ。彩り豊かな料理は食欲をそそる。食材が多いほど、たくさんの栄養素も摂取できる。「聴覚」は、たとえば揚げ物の音。揚げるときの「ジュワー」という音も、食べるときの「サクッ」という音も、おいしさを倍増させる。「嗅覚」は、言うまでもなく、香り、においだ。カレーのにおいなんか、外にいても漂ってきて、ついつい引き寄せられる。触覚は、舌触り、喉越しや、温度。様々な食材を組み合わせると、食感も楽しめるし、切り方を変えることで食感も変わってくる。暑いときは冷たいもの、寒いときは温かいものが食べたくなる。冷たいものは摂りすぎてもいけないので、胃腸のためにほどほどに。
 加えて、「雰囲気」だ。家なら、明るさは大切であり、食器に気を遣うと気分が上がる。お店では、食事やシチュエーションによって、あったかい雰囲気、かしこまった雰囲気などが用意されている。また、誰か気のおけない人と食べる食事はおいしい。

 話が脱線したが、この「おいしさ」にこだわって作られる手作りカレーは、本当においしい。
 ルウを使わない手作りカレーのよいところは、味や辛さを調整できること、具だくさんなカレーを作れること、季節にあわせた好みの地元の食材を使えることなどではないだろうか。私は、中辛より少し辛味をおさえたカレーが好きだ。お店では単価が上がるためにできない、野菜たっぷりカレーが作れるのもおうちならでは。野菜は冷凍すればしばらくもつ。春は、蕾菜、菜の花、スナップエンドウ、アスパラガス、新じゃが、新玉ねぎなどの春野菜、夏はナス、トマト、ピーマン、かぼちゃなどの夏野菜、秋冬はにんじんなどの根菜類、きのこ、ほうれん草といった、「旬」の食材を使う。できるだけ、近隣で栽培されたものを使うと、フードマイレージ※に配慮でき、地産地消になる。

※フードマイレージとは、「食料の輸送量(t)」と「輸送距離(km)」をかけあわせた指標のことです。単位はt・km(トン・キロメートル)で、輸送量が5t、輸送距離が850kmだった場合、フードマイレージは4250t・kmとなります。

朝日新聞デジタル「フードマイレージとは? 世界との比較や日本の課題を徹底解説!」(最終更新:2022.08.17)
https://www.asahi.com/sdgs/article/14669273#h2sl5jmwbmy1aw3vssvrq93ll81n3k

国産の食材を用いるだけでも、食料自給率を上げることにつながる。近場のもののほうが、食材にかかる輸送費を抑えられ、地元の農家さん、畜産業、漁業のみなさんを応援できるということになる。「旬」の食材は、栄養価が高く、味もおいしく、鮮度も高い。個人的には、温泉玉子をトッピングすることでまろやかにおいしく仕上げるのがポイントだ。

 二人でカレーを作るとき、私は野菜を切る、味見を担当、それ以外を妹が担当してくれる。妹は玉ねぎを切るのが苦手なため、そこは積極的に引き受ける。玉ねぎを炒めるときも涙が出るらしく、そこそこ炒めるまでを、余裕があれば私が担当する。飴色になるまでフライパンで炒めたらバトンタッチ。私はチューブを使うが、妹はにんにくや生姜も生のものを刻んで炒める。そうすることでコクが加わるそうだ。この時点で、既に部屋においしいにおいが充満する。その他の食材を煮えにくいものから入れて炒め、酒、紙パックのあらごしトマトを加え、煮詰めていく。肉は切るのも調理器具を洗うのも面倒なため、よほど余裕がない限り小間切れを使う。塊肉のほうがうま味は出るが…… グツグツ煮立ってくると、フライパンから溢れそうになる。そして、カレー粉を加え、さらに煮込み、味見をして塩コショウで味を調える。足りなければ少しだけコンソメ顆粒を。またはチーズをトッピングするのもよい。カレーのたまらないにおいが鼻腔をくすぐる。お皿にごはんをついで、カレーを盛る。面倒なときは、洗い物を減らすべく、カレーはフライパンそのままにする。お鍋方式だ。最後に温玉をトッピングして、できあがり!

 それでは、いただきます! 大きく口を開けて、一口、ぱくっ。う~ん、おいしい~! 食材のうま味と、にんにく生姜が効いていて、ほどよくスパイシー。私が切るときは食材が小さいが、妹が切ってくれるときはごろっとしていて食べごたえがある。途中で温玉を崩して食べると、このまろみがたまら~ん! 二食分作るが、二食目はかなり少なくなる。それくらい、あっという間に食べてしまう。ごはんもいつもより進んで、食べ終わったらふたりともおなかがぽっこり。夏など私は食欲が落ちるときがあるが、それでも、カレーのにおい、おいしさに、ついつい食が進んでしまう。まさに「元気をもらえる」のが、この妹作おうちカレーなのだ。おいしかった~! ごちそうさまでした。

 今は二人とも社会人で、引っ越したばかりでもあり、平日は仕事から帰って家事をする余裕もなく、休日ももっぱら荷解きと、洗濯、掃除などの最低限の家事をするので精一杯。だから、ごはんだけ炊いて、スーパーのお惣菜に頼っている。落ち着いたら、休日くらいはまたたまに、ふたりでおうちカレーを作りたい。そして、一緒に「おいしいね」と食べたい。

#元気をもらったあの食事

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